前編では不動産投資とワンルーム投資との違いなど、基礎知識をご紹介しました。
こちらでは、さらにワンルーム投資についてもう少し踏み込んでみましょう。
目次
3. ワンルームマンションの現状と需要
4. ワンルーム投資の収益は総収支で考える
5. ワンルーム投資を始める理由とメリット
6. ワンルーム投資に発生するリスクとその対策
7. まとめ
3. ワンルームマンションの現状と需要
不動産投資初心者にとって、ワンルーム投資が最初の足がかりになりやすいという事は理解できたでしょうか。しかし人気がある投資スタイルだからと言って、「今」からはじめても間に合うのかというのも気になるポイント。投資を開始したばかりなのに、直後にワンルームマンションの需要が急激に減ってしまったら目も当てられません。
実際のワンルームマンションの現状と需要から考えてみましょう。
■単身世帯の推移は?
ワンルーム投資の対象となるのは、単身者、つまり単身世帯となります。単身世帯が増えれば増えるほどワンルームマンションの需要が上がってワンルーム投資が安定しやすくなり、反対に減少すれば需要は下がってワンルーム投資のリスクが上がっていくことになります。
総務省が発表した“世帯類型別世帯数の推移”によりますと、日本の総人口は2004年をピークに減少傾向にあります。
例えば2020年の場合総世帯数は5,044万で、そのうち単身世帯は1,733万、夫婦のみの世帯は1,004万、夫婦と子供の世帯は1,239万、ひとり親と子の世帯は501万、その他の世帯は565万です。
総務省によると、この先総人口は緩やかに現象を続け、30年後にあたる2050年の時点では総世帯数は4,206万ほどまで減ることを予測。ですが、そのうちの単身世帯は1,786万と、比率で見るとむしろ増加すると考えられているのです。夫婦世帯や子供のいる世帯がその頃には少数派となり、全世帯の約4割ほどを単身世帯が占め、主流になるであろうと考えられています。
こちらはあくまでも予測ですから、確実にこのような未来を迎えるということではありません。確定ではないのですが、仮にこの通りに推移していくのであれば、単身者をターゲットにしたワンルームマンションの需要がなくなるという事はほぼないと言えるのではないでしょうか。
■東京でのワンルームマンションの需要が高め
ワンルームマンションは各主要都市を中心に存在していますが、中でも東京の都心部には日本各地からたくさんの人々が仕事を求めて集まって来ているため単身世帯が多く、単身者向けのマンションの需要も高くなっています。
次は、その東京の人口の動きから考えてみましょう。
総務省が公開した「住民基本台帳人口移動報告」によりますと、2017年及び2018年の各都道府県別の転入超過率を知ることが出来ます。大半の都道府県で人口が減る転出超過がみられていますが、関東のうち東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県の一都三県の転入超過率が高く、中でも群を抜いて東京都に人口が集中して増加していることがわかります。
さらに東京都政策企画局による「2060年までの東京の人口推計」を見ると、2020年の時点では単身者は331万世帯ですが、2035年には348万世帯まで増加すると予測しています。その後は日本全体の人口が減少するごとに総世帯数も減るものの、そのうち単身者は300万世帯をキープ。他の世帯と比較しても大きな減少を見ることはなく、東京の約半分が単身世帯になることが想定されているのです。
もちろんこちらも予測に過ぎませんから、完全に信じきってしまうのも危険でしょう。しかしこの予測通りに推移するのであれば、東京のワンルームマンションの需要は長い目で見ても安定していると考えても良いかもしれません。
4. ワンルーム投資の収益は総収支で考える
ワンルーム投資をするにあたって、収益の考え方を知っておく必要があります。
投資で利益を得る方法は、大別して“インカムゲイン(income gain)”とよばれるものと、“キャピタルゲイン(capital gain)”の2種類が存在しています。このワンルーム投資で得られた収益はインカムゲインなのか、キャピタルゲインなのか、判別できるようにしておきましょう。
●インカムゲイン
インカムゲインは日本語に訳すと「配当収入」になります。
保有しているだけで定期・不定期を問わず“継続的”に得られる収入を指し、投資元本が減りづらく、安全性が比較的高く保たれているという性質をもっています。その逆に、得られる額はそれほど大きくないという特徴も存在しています。
不動産投資では家賃収入がこのインカムゲインにあたり、入居者がいる限り定期的に一定額が得られる安定した収入になります。なお、ローンの支払いがあれば返済額、維持管理費などの支払いもありますから、家賃収入すべてが手元に残ると言うわけではありません。
●キャピタルゲイン
キャピタルゲインは日本語に訳すと「売買差益」になります。
資産を売買することによる差額で得られる利益を指し、簡単に言ってしまえば“安く売って高く売ることで得られる利益”のことです。キャピタル(capital)は資本と言う意味に用いられますが、資金又は元金と言う意味も含まれています。大きな利益が得られる可能性がある一方、投資元本自体が減ってしまうため、損失を被るリスクが大きいという特徴があります。
不動産投資で言えば、物件を売却をして得られる利益がキャピタルゲインにあたるでしょう。物件の購入価格より売却価格が高くなるという事はほとんどありませんが、不動産投資の場合だとそれまでの賃貸運用などで得られたインカムゲインがあるため、総合的に見ると利益が出るケースも考えられます。
■収支は総合的に見ること
ご説明した通り、不動産投資ではキャピタルゲイン(売買)のみで見るとマイナスであったとしても、それまでにインカムゲイン(家賃)で十分な収益を得られていれば、総収入的にはプラスであることもあり得ます。たとえば、2000万円で購入した物件を1700万円で売却した場合、その差額の300万円がマイナスであるように見えます。しかし、それまでの賃貸運用でその300万円分以上を得られているのであれば「最終的な収支はプラスであった」ことになるわけです。
なお、税金や手数料、場合によっては維持管理費なども必要なことも忘れてはいけません。そのような必要経費も含めて考慮し、総収支を試算する必要があるのです。
5. ワンルーム投資を始める理由とメリット
将来のゆとりある生活のために、年金や生命保険の代わりに、または節税のためになど、不動産投資をはじめる理由は人それぞれでしょう。不動産投資と言っても様々な種類がありますが、その中でもなぜワンルーム投資が選ばれているのでしょうか?
■老後の貯蓄のため
日本は超高齢化社会を迎え、現時点での年金制度に不安を抱えている人が増加しています。自分は本当に年金が受け取れるのか?年金で生活が出来るのか?と疑問を抱えたままでいるより、自分で資産運用をして備えておこうという動きが活発になっています。政府も個人での資産運用を推進していることから、初心者でも比較的取り組みやすいとされているワンルーム投資が選ばれているのです。
利回りが良いなど条件の良い物件を所有できれば、多く得られた利益を貯蓄に回すことも可能でしょうし、定年退職前にローンを完済してしまえば、定期的に受け取れる賃料を老後の生活の収入源にすることも可能です。賃貸経営も管理会社に任せてしまえば、手間になりがちな維持管理に悩まされることもありません。
そこにはもちろん毎年の固定資産税もありますし、リフォーム代、収入が入らなくなる空室リスクも存在しています。そのための備えや蓄えも必要になりますが、安定した老後のための手段として選ばれやすいのでしょう。
■生命保険替わりとして
不動産投資を始めようと考えている方なら、「不動産投資は生命保険代わりになる」と言う言葉を一度は耳にしたことがあるはずです。これは不動産ローンを組む際、契約者が“団体信用生命保険(団信)”に加入することが融資条件のひとつになっていることがほとんどだからです。
これは契約者が死亡や高度障碍者になった場合に、下りた保険金がローンの残債を肩代わりしてくれるという、金融会社側のリスク回避のためのものでもあるのですが、契約者側にとっても大きなメリットが存在しています。
ローンが完済した物件は、契約者、または契約者の遺族の手元に残ることになるからです。つまり、金融会社側はローンをすべて回収し、契約者・契約者の遺族の手元にはローン完済したマンションがそのまま残ることになり、家賃収入を受け取り続けることが可能になるのです。
最近では一般的な生命保険と同じように、がん特約や三大・七大疾患特約など保証範囲を広げ、その病気と診断された時点で保険がおりる団信も見られるようになりました。
しかしもともと病気の方は加入できないという点も同様なので注意しておきましょう。
■節税対策として
サラリーマンが副業としてワンルーム投資を行っているのであれば、節税に期待することが可能です。
管理費や修繕費、損害補償金、マンションの減価償却費、ローン返済金の金利部分など「賃貸経営による収入を得るために発生した支出」であれば、経費として計上することで総所得を下げ、税金の負担を減らすというものになります。
こちらは、減価償却費は残存耐用年数の範囲に限られますし、売却時には計上分の税金が加算されるというデメリットも。また、節税効果には期限がありますので、節税を目的にしてワンルーム投資を始めるのであれば、綿密な計画が必要となるでしょう。
6. ワンルーム投資に発生するリスクとその対策
いくらワンルーム投資が初心者向けの投資スタイルと言えど、あくまでも“投資”ですから失敗するリスクも存在しています。ワンルーム投資を含めた不動産投資にあたっては、リスクをあらかじめ想定し、最悪のシナリオを回避するための計画を立てておくことが基本となります。
どのようなリスクが存在し、そのリスクを予測して対応できる体制を取り備えておけばよいのでしょうか?
■空室・家賃滞納リスク
入居者が見つからず空室状態、または入居者が家賃を滞納するなど、家賃収入が得られない状況に陥るというケースが最も多く、損害も大きくなりがちです。想定されていた家賃が入らなければ、ローンの返済が残っているならば返済金、マンションであれば管理費や修繕積立金を支払うことが出来ません。
このリスクに対しては、“貯蓄”が重要となります。支払いのすべてが家賃頼みといったような自転車操業にならないよう、余裕のある資金管理をしておくことが重要です。
家賃債務保証や空室保証といったものもを利用するというのもひとつの手になります。しかし空室が続く、または住民がすぐ引っ越してしまうなどといった状態であれば、マンション自体や周囲などの環境に問題がある可能性もあるため、管理会社などと協力する必要もあるでしょう。
■金利上昇のリスク
金融会社から受けた融資の金利が上昇してしまうリスクになります。金利が下がれば返済総額も減少するのですが、金利が上昇してしまえば返済総額も増加してしまうからです。金利上昇後、すぐ返済額が増加するわけではないため、空室リスクのように直ちに損害が発生するといったものではないのですが、放置してしまえば大きな痛手になってしまうことは間違いありません。
金利上昇への対応としては、借り換えを行う、固定金利で契約する、さらには繰り上げ返済を行うことで、リスクを抑えることが可能となっています。どれも費用を必要とするため、こちらもやはり“貯蓄”が重要となるのです。
■家賃下落リスク
家賃は一定ではありません。新築であれば高く、築年数が経過するごとに下がっていくものです。家賃が下がれば収支も悪くなり、順調であった支払いが苦しくなってしまうことも考えられます。ワンルーム投資で多いのは、所有している部屋の周囲の家賃が下げられてしまうこと。似た条件であるのであればこちらも同程度まで下げなければ、空室になってしまうリスクが高まるからです。
赤字経営にならないよう、繰り上げ返済を行って収支の悪化に備えるなどの対策が必要となるでしょう。人気のエリアや駅近などは築年数が多少経過しても賃料が下がりにくい傾向にあるため、そういった場所のマンションを選ぶといった手段もあります。
■災害リスク
日本は災害が特に多い国のため、ここであれば絶対安全という土地は存在していません。被災してしまえば、空室どころか物件そのものも失ってしまうリスクが存在しています。同時に、火災という問題にも向き合う必要もあります。
火災保険や地震保険に入ることで対応は可能ですが、最近は特に台風などの風害、集中豪雨などの水害も各地で見られるようになりましたから、入る際には保証範囲の確認も必須となっております。
■劣化リスク
賃貸マンションである以上、室内の設備や構造などが劣化した際にはその修繕義務がオーナー側に発生し、その費用を負担することになります。定期的に設備の交換が行われ、その理解をしているのであれば問題ないのですが、突発的な故障が発生すると収支計画に齟齬が生じる可能性を孕んでいます。
一方、外壁や屋根、エレベーターなどの共用部分の修繕は、マンション側に毎月積み立てられている修繕費を利用して行います。が、必要な費用に達していないのであれば、不足分を請求されるケースも。また、修繕積立金の全体的な値上げを行うマンションもあるでしょう。
いくつかワンルーム投資のリスクを挙げてみましたが、基本的に貯蓄で対応可能なケースが多くなっています。
ギリギリで賃貸経営を行わず、資金に余裕を持って取り組むことが最も重要であると言えるのです。
7. まとめ
不動産投資とワンルーム投資との違いや、これから先のワンルーム投資の見通し、リスクやメリットなどはご理解いただけたでしょうか。いくら「ワンルーム投資は初心者に向いている」、「初期投資額が抑えられて、将来的に安定した収入を得られる」と言われていても、やはり“投資”であることには間違いありませんから、何の知識も対策もないままで始めても良いというわけではありません。
他人任せにすることなく必要な知識をしっかりと身につけ、メリットだけでなくリスクを理解しそれに対応できるだけの体制を取って備えることが大切なのです。
小雪