賃貸マンションを経営している方はもちろんのこと、所有している物件を売却して利益を出したなど、不動産所得があった場合には確定申告を行う必要があります。その際、「減価償却費」という経費が存在しているのですが、この「減価償却費」というものはどのようなものなのでしょうか。
今回は減価償却の意味と計算式、さらに売却時の注意点などを分かりやすくご説明します。
目次
1. 減価償却とその計算方法
2. 中古物件は取得時の耐用年数によって変化
3. 大規模修繕などは減価償却費に影響するか
4. 売却時には減価償却費が問題になることも
5. 利点だけでなく注意点もあらかじめ知っておくこと
1.減価償却とその計算方法
最初から投資目的であったかどうかは関係なく、賃貸経営を行えば家賃収入が入ります。この収入が支出よりも多ければ手元にお金が残るでしょう。
計算式は簡単に「収入-支出=収支」で算出することが可能です。
そして、一定以上の稼ぎがあれば納税の義務が発生するのですが、この税金は“収入”や上の計算式で出せる“収支”ではなく、“所得”に課税されるという所がポイントです。不動産で得た所得は不動産所得になり、これの計算式は「不動産収入-必要経費=不動産所得」になります。
不動産収入は家賃をはじめ、礼金や共益費、更新料、駐車場代、返金を要さない敷金や保証金など、賃貸物件の入居者から受け取れるお金です。
一方で必要経費は、固定資産税や都市計画税といった税金から、管理費、修繕費、水道光熱費、借入金の利子など、賃貸経営をしていくうえで欠かせない出費を指します。
そして、他と違ってはっきりと目に見えるものではないのでわかりにくいのですが、「減価償却費」もこの必要経費の中に含まれているのです。
■そもそも減価償却とは?
建物は他のものと比べて比較的耐用年数が長いとされていますが、築年数が経過すれば徐々に経年劣化が進み、比例するように価値も減少します。その経年による価値の減少分を、会計上で経費として計上する仕組みのことを「減価償却」と言うのです。
会計上、つまり実際にお金が出て行っているわけではないのに、必要経費として収入から引くことが出来るので所得が低くなり、結果、所得にかかる税金も抑えられるというわけです。
ただし、土地はどれだけ時間が経過しても劣化せず価値が減ることもないため、減価償却の対象ではありません。ですので、不動産投資で減価償却の対象となるのは、土地以外の建物部分だけになります。
■減価償却費の計算式
「減価償却費」を計算するためには、まず建物の耐用年数と償却率を知る必要があるでしょう。
減価償却の対象になる資産のことを“償却資産”と言いますが、これらは耐用年数が定められており、一般的には堅牢で寿命が長いとされているものほど耐用年数が長くなっています。建物であれば木造(W造)、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)など構造によって変化し、それぞれの法的耐用年数と償却率は以下になります。
・鉄筋コンクリート造 47年 0.022
・鉄骨造(鉄骨厚4mm超) 34年 0.03
・鉄骨造(鉄骨厚3~4mm以下)27年 0.038
・木造 22年 0.046
なお、この耐用年数はあくまで法的に決められたものであり、実際の建物の寿命ではありません。
償却率は建物の価値に対して毎年減少する割合で、耐用年数をおおむね1で割った数値になっています。
そして、建物の取得価格に償却率をかけたものが減価償却費になり、
「建物の取得価格×償却率=減価償却費」
が計算式になります。
これを踏まえて、5000万円の木造一戸建てと鉄筋コンクリート造のマンションを投資用物件として購入したケースで計算してみましょう。
・木造一戸建ての減価償却費
5000万円×償却率0.046=230万円
・鉄筋コンクリート造の減価償却費
5000万円×償却率0.022=110万円
それぞれその金額分を必要経費として収入から引くことが出来るのですが、同じ金額の建物でも構造によって差が出ることがわかりましたでしょうか。このケースでは木造のほうが耐用年数が短いため、1年間の必要経費を多く差し引くことが出来るのです。
2. 中古物件は取得時の耐用年数によって変化
新築物件の減価償却費の計算方法は、上述の通りそれほど難しいものではないでしょう。
ただし、中古物件を投資用として購入した場合は、そのままではなく「残りの耐用年数」を計算して出す必要があるのです。
中古物件の耐用年数を出す計算式は以下の2種類になります
①法的耐用年数を超えていない場合
(新築時の耐用年数-経過年数)+経過年数×0.2=取得時の耐用年数
②法的耐用年数を超えている場合
新築時の耐用年数×0.2=取得時の耐用年数
この時、取得時の耐用年数に1年未満の端数がある際には切り捨て、2年未満になった際には2年とすることが前提になります。
これを踏まえまして、実際に例を使って計算してみましょう。
●築20年の鉄筋コンクリート造の中古マンションの耐用年数は?
新築時の鉄筋コンクリート造の法的耐用年数は47年です。築20年の中古マンションであれば、①の計算式に当てはめると「(47年-20年)+20年×0.2)」になり、計算の結果、取得時の耐用年数は「31年」であることがわかります。
●築50年の鉄筋コンクリート造の中古マンションの耐用年数は?
こちらも鉄筋コンクリート造ですから、法的耐用年数は同じく47年です。しかし、築年数は50年とすでに超えているため、使用する計算式は②になります。結果「47年×0.2」で、9.4年と出るのですが、1年未満の端数は切り捨てになるため、この中古物件の取得時の耐用年数は「9年」になるのです。
このように、中古物件は新築物件より耐用年数が短くなるのが特徴です。耐用年数が短くなればその分減価償却費の割合も高くなり、多くの節税効果が期待できると言っても間違いありません。
3. 大規模修繕などは減価償却費に影響するか
賃貸経営をしていくのであれば、修繕などを定期的に行う必要が出てきます。共用部分の蛍光灯の取り換えや部屋の給湯器の修理といった小さいものから、外壁の塗装や屋上防水といった大きな修繕工事、さらには退去後のリフォームを実施する際にも、修繕費は発生するでしょう。また、賃貸物件としての魅力をより高めるためのリフォームや新しい設備の導入、中にはリノベーションを行い心機一転を狙うことあるかもしれません。
このような工事を行った場合、その内容次第で「修繕費」もしくは「資本的支出」の2種類に分かれます。
修繕費:必要経費となるため、支出した年に一括で経費にすることが出来ます。
資本的支出:まず資産に計上して、その後に耐用年数に渡って減価償却費として経費化されます。
基本的にどちらも経費として計上することが可能であることに違いありません。この2種類の大きな違いは、「一括で経費にするか」、「数年にわたって経費にするか」になります。
ただしどちらに仕訳されるべきかの判断はやや難しく、税理士によっても異なる判別をされるほど。
一般的な目安としては、以下のケースに該当した場合は修繕費として計上されることが多くなってるようです。
・金額が20万円未満
・おおむね3年周期で工事を行っているもの
・区分不明であっても60万円未満又は取得価格の10%以下
しかし実務上はどちらに該当するか判別が難しい状況がほとんどのため、不安であれば税理士や税務署などの専門家に相談したほうが良いでしょう。
また、資本的支出と判断した場合の耐用年数は、外壁塗装など本体部分であれば建物と同じ耐用年数に、キッチンやユニットバスなどの設備部分であれば15年が耐用年数になります。
■少額減価償却資産の特例を活用する
青色申告をする個人事業主は、1個(または1組)当たり30万円未満の少額減価償却資産については、購入もしくは使用開始をした年度に一括で経費計上できる「少額減価償却資産の特例」を使用することも可能です。
例えば、宅配ボックスや防犯カメラの設置、防犯灯などの追加など、1個当たりの金額が30万未満のものはこの特例の対象になり、購入した年度に一括経費計上することが出来ます。
こちらは青色申告のみの特例で、白色申告者の場合は10万円未満の減価償却資産までしか一括で経費計上することができません。
さらに青色申告であっても合計限度額の上限も設定されていますので注意しておきましょう。
4. 売却時には減価償却費が問題になることも
所得の計算上において、減価償却費が必要経費になることはここまで説明した通りですが、不動産を売却する際にはその減価償却費に注意しなければなりません。中古物件を売却したときに、譲渡所得がプラスになった場合にかかる所得税には、減価償却費が控除されるからです。
この譲渡所得の計算は「売却金額-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得」になります。
物件を手に入れてから売却するまでの減価償却費の累計費を取得費から差し引かねばならないため、その分売却金額から引ける所得費が少なくなり、その結果譲渡所得が多くなり課税対象になってしまうというわけです。
賃貸経営している際には有利に働く減価償却費ですが、売却をする際には思わぬ落とし穴になってしまうことも考えられるので、不動産の売却の検討を始める際にはあらかじめ減価償却費を計算しておくことが必要でしょう。
5.利点だけでなく注意点もあらかじめ知っておくこと
中古マンションや中古アパートなど、中古物件を不動産投資として購入するのであれば減価償却の計算はぜひとも押さえておきたい知識です。この減価償却費は節税効果など大きなメリットになることで注目されがちですが、逆に減価償却費が不利になる点も存在していることなども知っておくことが、長く安定した賃貸経営につながるのかもしれません。
小雪