不動産投資をしている方にとって、必ずしなければならないのが「確定申告」。
会社員や公務員などのいわゆる給与所得者は年末調整を会社側が行っているため、副業の経験がなければ不動産投資を開始して初めて確定申告をするという方も多いのではないでしょうか。
今回初めて、またはまだあまり慣れていない方のために、不動産投資の決算と確定申告について解説します。



目次
1. 不動産投資に必要な「決算」と「確定申告」とは
2. 決算書の重要性と注意ポイント
3. 実際の確定申告の流れ
4. 不動産投資の「経費」の境界線
5. 効率的に資産運用をするために

1.不動産投資に必要な「決算」と「確定申告」とは


不動産投資を行う上で「決算書」が必要となる必要は多々あります。
また、不動産投資を始めて所得が発生すれば、「確定申告」ももちろん行わなければなりません。
まずはこの2種類の意味と違いをしっかりと押さえておきましょう。

■決算とは?
決算とは、一般的に「法人が一定期間(基本は1年間)の収入・支出を計算し、利益や損失、資産状況をまとめたもの」を指します。たとえば3月決済であれば、4月1日~翌年3月31日までが会計期間になり、利益を精査してその集計を3月末日で行います。
不動産投資の場合、1年間(会計期間)の損益やキャッシュフロー状況、決算日時点の保有資産及び負債の状態をまとめたものになります。

■確定申告とは?
確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間の所得(収入から必要経費を引いた額)を確定させ、その所得にかかる税金を計算する手続きになります。これを税務署に申告しすることが「確定申告」です。税務署はその申告書により税金額を決定したり、場合によっては還付の手続きを行うことになるわけです。
会社員や公務員が勤務先から受ける“給与所得”は、会社が源泉徴収や年末調整という形で既に納税などの処理をしたあとですので、一定の上限を超えていない限り確定申告をする必要がありません。
対して、賃貸用不動産を所有し貸し付けを行うことで得られる不動産収入は、何も処理がされていない状態ですので確定申告を行わなければならないのです。

確定申告を行う時期は決まっており、通常であれば2月16日から3月15日の1か月間が申告書の提出期間になっています。申告が遅れたり怠った場合はペナルティが課されますので、必ず期間内に速やかに行いましょう。




2. 決算書の重要性と注意ポイント


決算をまとめた決算書は確定申告時だけでなく、金融機関の融資を申請する際などにも提出する必要があります。
作成を税理士に依頼するという方法もありますが、経済状況や財政状況などを自分で説明しなければならない状況もありますので、やはりできるだけ内容を把握しておきたいところです。
その際、間違いないよう正確に記入することを心掛けることが重要となります。そして、粉飾決算を絶対に行わないこと。粉飾決算とは、収入の過大計上や架空計上などを行い銀行からの融資を受けやすくする行為や、所得を低く改ざんし徴収される税金額を低く抑えようとする行為のことです。これらは違法行為として刑事上・民事上の責任を問われるばかりか、社会的な信頼を大きく失い様々な社会的制裁を受けることになりますので、心に留めておいてください。

また、毎月試算表を作成することをおすすめします。
この試算表は決算書になる前の集計表のことで、毎月しっかりと作成することで予定通りの収支になっているか確認が出来ますし、前年同期と比較することも可能です。試算表を参考にすることで、将来的な大規模修繕やリフォーム費用の計算をすることもできるなど早め早めに手を打つことが出来るようになる上、ある程度経過すれば決算の見込みも見えてくるでしょう。
融資を申し込む時に最新の試算表の提出を求められても焦ることが無くなりますし、もちろん決算書を作成する際にも慌てることもなくなります。


3. 実際の確定申告の流れ


不動産投資を続けていく限りは毎年確定申告を行うことになりますが、その流れはおおよそ次のようになります

①必要書類を集める
収入や経費など、収益物件の運営に関した必要書類を集める作業からはじまります。
家賃収入がわかる通帳などの写しや、各種税金の納付書、保険料の証明書のほか、経費がわかる領収書、さらにはローンの金利分を計上するためにローン支払い明細書も用意しておきましょう。マンションであれば、1年分の管理費・修繕積立金の明細書も必要になります。

なお確定申告は他の所得も含めて総合的に計算することになるため、例えば会社員が本業であったとすれば源泉徴収票を、医療費の控除を受けるのであればそちらに関した領収書などを用意しておきましょう。

②申告書類の色を選択する
申告書類は白色申告と青色申告があり、どちらかを選びます。

白色申告は、比較的作成が簡易的で分かりやすいというメリットがあります。不動産投資をはじめた初年度はほとんどがこちらの“白色申告”になるでしょう。初年度でなくても、拡大をせず小規模投資を維持していれば選択肢は白色申告のみになります。

逆に、貸家5棟以上、区分マンション・アパート10室以上など、不動産投資が事業規模であれば“青色申告”をすることが出来ます。こちらを選択した場合、複式簿記で詳細に会計処理をしなければならず、提出書類も増えたりと申告に費やす時間も多くなるのですが、最高65万円の「青色申告特別控除」が受けられるという大きなメリットが存在しています。そのため、可能であればこちらを検討しても良いかもしれません。

③決済と申告書類の作成
確定申告書には“A”と“B”の2種類が存在していますが、不動産投資の確定申告の場合は「確定申告書B」を使用します。給与所得がある場合は、一緒に「収支内訳書(不動産所得用)」を提出しなければならないため、こちらも併せて作成しましょう。
なおこの収支内訳書は減価償却費の計算も必要になりますので、注意しておきたいところです。

④税務署に提出する
必要書類と申告書への必要事項の記入が済んだら、期限内に税務署まで郵送または電子申告で提出して完了となります。納税は預貯金口座からの「振替納付」、「電子納付」、「クレジットカード納付」、「現金納付」の方法がありますので、都合の良いものを選択しましょう。

通常2月16日~3月15日の間になりますが、期限間際になると慌ててミスを誘発しやすくなりますし、直接税務署に向かう場合は大変混みあいますので、できるだけ余裕をもって早めに済ませておきたいところ。たとえ期日に遅れてしまっても「期限後申告」として受け付けてくれますが、延滞税や場合によっては無申告課税が課されることもあるため、無駄なトラブルを避けるためにも、日頃から書類の管理やお金の流れをしっかりと把握しておきましょう。




4. 不動産投資の「経費」の境界線


不動産投資で課税対象となっているのは、家賃収入から必要経費を差し引いた“所得”です。そのため、必要経費が高くなればなるほど所得が低くなり、所得が少なくなれば納める税金も減ることになります。経費を正しく計上することで節税につながるわけですが、実際にはどこまでを経費に含めてもいいのか境界線が難しいかもしれません。不動産投資の場合、「賃貸経営の業務に必要なものかどうか」が判断基準になりますが、どのようなものが経費として認められるのでしょうか。

①管理費・修繕積立金・修繕費・減価償却費
ワンルームマンション投資など区分マンションを所有している場合、毎月管理組合に徴収される管理費や修繕費は経費として計上することが出来ます。確定申告前に1年分の領収書をまとめて発行してもらう形になります。リフォーム代や修繕費のほか、実際の支出はないものの減価償却費も必要経費に含めることが可能なため、大きな節税効果が期待できます。

②保険料・税金・手数料
火災保険や地震保険など、所有物件にかける保険も経費となります。地震保険は主に1年更新である一方、火災保険は最長10年分をまとめて支払うこともできるのですが、計上する際には1年ごとに分割しなくてはなりません。
また、物件購入時に求められる不動産所得税、登録免許税のほか、固定資産税や課税文書に張り付ける印紙代も経費に含めることが可能となっております。
ほかにも、物件購入する際に不動産会社に支払う仲介手数料、司法司書への報酬、金融機関に支払うローンの利息代も経費に計上できますが、住民税や所得税は含まれませんので注意してください。

③広告費・勉強のための費用
不動産の入居者を募集するための広告宣伝費も経費に計上することが出来ます。ただし、特定の個人や会社に対する接待費などは広告宣伝費に含まれません。
不動産投資の分野は多くの書籍が販売されていますし、ネット上を含む各所でセミナーや勉強会が開催されていますが、こういったものの購入費や参加費用も「不動産投資に必要な知識を得るための出費」であるため全額経費として認められることになります。同じく、不動産市場の動向を知るための新聞購読料もこちらに含まれます。

あくまでも「不動産投資に関連している勉強」であることが条件ではあるのですが、宅地建物取引士やマンション管理士といった、不動産関連の資格の取得費用は認められないので気をつけましょう。

④その他
その他、「不動産投資に必要な費用」であれば、基本的に全額経費として計上することが可能です。
広告に載せる物件を撮影するためのカメラや、物件検索サイト登録や確定申告するのためのパソコン、書類や図面を印刷するためのプリンターなどのほか、内見時などの交通費などもこちらに含めることが出来ます。
電車代はもちろんのこと、車のガソリン代や駐車代、高速料金代、自動車税などの維持費、取得にかかった経費も認められることがあります。
ただし、プライベートなどと混同しやすい部分は全額を経費として計上することは難しい他、駐車違反やスピード違反などの反則金は計上することはできません。

■確定申告で認められなかった経費とは
はっきりと区別できるものは問題ないのですが、判断が難しいものは多く存在しています。
過去の事例から、どのようなものが確定申告で経費として認められなかったのか、しっかりと押さえておきましょう。

・住宅の専有面積のうち貸与していた2部屋分40平方メートルの広さ
・その建物にかかる水道・光熱費の50%
・インターネットや電話などの通信費
・スーツ代、コンタクトレンズ代
・自転車代
・日常生活の一環として行っていた電話の取次ぎ・郵便発送などに対する家族への給与

こちらは実際に経費計上が否定された一部になります。
しかし認められなかった理由が「不動産賃貸業としての関連性を客観的に示すことが出来なかったため」であることから、関連性を明確に説明することが出来れば、経費として認められた可能性もないわけではありません。
節税のためには可能な限り所得を減らしたいと考えがちですが、不動産投資に関係ない経費を計上しようとしてしまうと当局による税務庁舎の対象となってしまうため、内容には十分注意しましょう。


5. 効率的に資産運用をするために


普段確定申告をする習慣がない職業の方にとって、おそらく難しいと思われるかもしれません。
しかし不動産投資は他の投資に比べて多くを経費として計上することが可能で節税効果が高いため、資産運用としてもやはり魅力的であることには違いありません。
その節税効果を最大限に得るためには、経費として認められた費用を漏れなく計上し、無駄なく正しく確定申告をすること。しっかりと把握しポイントを抑えたうえで、賢く効率的に資産運用をすすめましょう。

小雪