不動産投資を始めるにあたって、ローンを利用して資金を作るのが一般的です。この場合、マイホームを購入する際に使用する住宅ローンではなく、アパートローン(不動産投資ローン)を利用することになります。
しかし、住宅ローンなどを含めた様々なローンがそうであるように、アパートローンも金融機関ごとに融資条件や金利などが異なっているため、「希望額が借りられればどこでも良い」ということではありません。その後のキャッシュフローや返済総額、さらには投資自体の成否にも関わってくるものですので、融資先を慎重に選ぶ必要があるのです。

今回は、アパートローンと他のローンとの違いから選び方、審査を有利に進めるためのポイントまでをご紹介します。



目次
1. アパートローンと他のローンとの差
2. アパートローンはどう選ぶ?組み方は?
3. 審査を有利に進める上で押さえておきたいポイント
4. 判断は自分の状況にあわせることが重要

1. アパートローンと他のローンとの差


不動産投資用物件を購入する際に利用するローンが、こちらのアパートローンになります。
不動産投資ローンやマンションローンともいわれるこのローンは、名前に“アパート”とつくため勘違いしてしまいそうですが、アパートだけではなくマンションや一戸建てなど投資物件の購入費や建設費、リフォーム費、または借り換えとしてであれば問題なく利用することが可能です。
賃貸として第3者に貸し出して家賃収入を得ることを目的とした“投資用物件”のためのローン、と考えても良いでしょう。

融資審査では契約者の“属性”、購入予定の物件の“資産価値(担保価値)”、さらに“収益性”を主に見るようです。アパートローンの返済原資は収益不動産から得られる家賃であるため、特に収益性が重視される傾向にあります。


■住宅ローンと違う点
住宅ローンはアパートローンと同じく不動産取得を目的としています。が、“投資用”物件購入を目的としたアパートローンに対して、住宅ローンは“居住用”不動産の購入を目的としたローンになります。自分たち、もしくは親族の居住用として不動産を購入する際にのみ利用できるもので、収益不動産の購入時には利用することはできません。

取得する目的が異なるということは、当然ながら返済原資も異なります。
返済原資とは「ローンを返済するお金はどこから入手するか」であり、アパートローンの場合は上述した通り収益不動産から得られる家賃であるために収益性が重視されます。その一方で住宅ローンの場合は「給与」になりますので、職種や健康状態など“契約者本人の属性”を重視して審査されることになるのです。
また住宅ローンは、アパートローンを含めた多くのローンの金利と比較しても非常に低く設定されているという特徴もあります。


■プロパーローンと違う点
プロパーローンの「プロパー(proper)」には“固有の”、“独自の”という意味を持っているとおり、各金融機関が独自のプランで貸し出しているローンになります。どの金融機関もほとんど広告を行うことがないため、こういったローンが存在していることすら知らない人も多いのではないでしょうか。

一般的なローンと違って保証人や保証会社を介さないことがプロパーローン最大の特徴で、金融機関は自社でリスクを負うことになります。金利や審査基準などは金融機関によって異なり、独自で審査を行って融資を実行するため、完全なオーダーメイドで融資を受けることができるのです。


■不動産担保ローンと違う点
これから購入しようとしている不動産を担保にするアパートローンに対して、すでに所有している建物や土地などの不動産を担保にすることで融資が受けられるのが不動産担保ローンになります。アパートローンは投資用物件の購入に限定されますが、不動産担保ローンは用途の限定がされていません。

もちろん返済が滞れば担保にした不動産が売却されてしまうというリスクはあるものの、まとまった金額を長期間借りられるのがこのローンのメリットになります。




2. アパートローンはどう選ぶ?組み方は?


アパートローンは金利や条件などが金融機関によって大きく異なるため、「借りられればどこでも良い」というものではありません。不動産投資は区分マンション投資でもアパート投資であろうとも経営であり、事業です。たとえ収益性が高い物件であろうとも、キャッシュフローが確保できなければ投資の失敗という現実が突き付けられるでしょう。
ローンを選ぶ際にはどのような点に注目して、どのように組めばよいのでしょうか?


■融資金額の上限
近年、特に不動産投資に対する融資が厳しくなってきています。2015年の税制改正により相続税の基礎控除額が大幅に減額されたことで、その対策として不動産投資を始める人が急増。マイナス金利の影響もあって、一時はバブル期をしのぐほどの過熱状態になりました。これを危惧した金融庁がストップを出したことにより、各金融機関はより厳しい融資審査を行うこととなったのです。
そのため、フルローンやオーバーローンで不動産投資を始めようとするのは、現時点では非常に難しいと考えていいでしょう。融資額を物件の購入金額の80~90%程度を上限とする金融機関が多いことから、全体の20%ほどの頭金を入れておく必要があります。

また、株式会社MFSが行った調査によりますと、借入金額に対する全体の平均年収倍率は11.8倍とされています。年収倍率8倍までの融資事前承認率が40%である一方、年収倍率15%以上ではほぼ0%という結果となっていますので、融資金額は個人年収の8~10倍程度が一般的である、と考えておきましょう。


■融資期間の長さ
アパートローンの返済期間は、建物の法的耐用年数をもとにして決まることが一般的です。条件次第では最長でおよそ35年程度が可能となっているようですが、金利の負担を考慮すると可能な限り短くしたいと考えてもおかしくはありません。
返済期間が短くなるということは利息が少なくなり、トータルの返済額が抑えられるというメリットがあります。
その反面、毎月の返済額が大きくなりますから、ある程度資産に余裕がなければ空室リスクや急な修繕費などに対応することが出来ず、支払い不能になる危険性も孕んでいます。

逆に長期融資でのメリットは、月の返済額が抑えられるため資金に余裕を持たせられるということ。もちろんトータルでの支払総額が嵩む、完済した時には建物の築年数が進み資産価値がほとんどない、などといったデメリットもあるでしょう。
どちらが正しいということはありませんので、自分に合った範囲で設定することが重要です。


■金利の選択
住宅ローンと同じく、頭を悩ますのがこの金利選びでしょう。アパートローンの金利も変動金利と固定金利の2種類があります。経済や景気動向、金融施策などによって変化するため、こちらもどちらが正しくどちらが有利かどうかは、一概に言い切ることができません。

変動金利最大のメリットは、固定金利よりも低いこと。もちろん“変動”ですから、将来的に金利が上昇する可能性もゼロではありません。ですが低金利が続いている現在、たとえこの先金利が上昇したとしても支払利息の総額は固定金利の場合より安くなることが期待できると考えても良いでしょう。

固定金利のメリットは、ローンの返済額と金利分の返済額が事前に確定することと、インフレが起きて金利が急上昇したとしても契約時の金利が維持されるということです。資金計画が立てやすく、先が見通せるのは固定金利ならではになります。
ただしデメリットとして、変動の約1.5倍ほど金利が高い、金利が下がったとしても恩恵を受けることが出来ない、繰り上げ返済に対した違約金が設定されているなどがありますので注意しましょう。


■ローンの返済方法
アパートローンには“元利均等返済”と“元金均等返済”の2種類があります。
元利均等返済とは「毎月の返済額が一定」に設定されているため、返済計画が立てやすいのが特徴です。一般的な返済方法になります。
当初は月の返済額の内訳は利息分が多くを占めているものの、返済が進むに伴って元金が多くなっていきます。そのため元金が減るのに時間がかかり、総支払利息は元金均等返済よりも多くなるというデメリットが存在しています。

元金均等返済は、返済額のうち元金の金額が一定で設定してあるものになります。借り入れ当初は返済額が大きくなりがちですが、最初から狙い撃ちで元金を減らすことができるので、返済が進行するごとに月の返済額は小さくなっていくのが特徴になります。
負担が大きくなるため資産状況などの審査が厳しくなるというデメリットもある一方で、長期運用による家賃下落リスクへの対策ともなり得るというメリットがあるのです。


■団体信用生命保険の有無
団体信用生命保険(以下、団信)とは加入しておくことで、ローン契約者が死亡または高度障害となった場合、残債の支払いが免除された上で不動産を残すことが可能となります。団信へ加入した場合は金利が上乗せされますが、遺族へ安定した収入を得る仕組みを残せるというメリットは大きいでしょう。

しかし、相続税対策で不動産を所有しようとしているのであれば、団信への加入は慎重にならなくてはなりません。
相続が発生した時には“相続財産”を多く所有しているほど、相続税が発生する可能性が高まります。この相続財産は資産と負債を相殺したものを指し、アパートローンを含むローンは負債にあたります。ローンが残っていれば債務控除の対象となり、その分課税額が差し引かれることになります。が、団信に加入していると加入者が亡くなった時点でローン(負債)がゼロになるため、そのまま差し引かれることなく多額の相続税を支払うことになるのです。

相続時に「あえて」ローンを残したほうが良いというケースも考えられますので、団信への加入が本当に必要なのかどうか考慮することが重要です。
ただし、加入が必須なもの、加入するか選択が出来るものがあるため、事前での確認が必須となります。


■保証料や手数料などに注意
金融機関によって、さまざまな保証料や手数料がかかることがあります。
たとえばアパートローンは保証会社を利用しますが、この際にかかる保証料は金融機関側が負担するところもあれば、契約者が負担するところもあるのです。
また、繰り上げ返済を行うのであれば過剰分の保証料が返金されますが、事務取扱手数料が発生することも忘れてはいけません。

これらは金融機関ごとに異なりますし、場合によっては他に発生する手数料などもありますので、事前の確認は必ずしておきましょう。


3. 審査を有利に進める上で押さえておきたいポイント


アパートローンの審査は住宅ローンの審査と似てはいるものの、重視されるポイントが異なります。
“収益性”をはじめ、“担保価値”と“属性”がチェックされますが、審査を通りやすくするためには以下を踏まえておくのがコツになります。




■信用性の高い事業計画書を作成しておく
不動産投資は事業になりますから、無計画で始めるわけにはいきません。事業計画を立てることにより長期的な目線で不動産投資を考えることが可能となり、それらをまとめた事業計画書を提出することで金融機関への説得材料にもなるのです。

ただし楽観的な数字、実現性のない内容では意味がありません。金融機関側も事業計画書を鵜呑みにはせずに独自に調査を行いますから、根拠のある信頼性の高いものでなければならないのです。


■個人属性に注意
アパートローンの返済原資は主に家賃収入ですので“収益性”が重視されるということを前述しましたが、収益性の良い物件であれば確実に融資が受けられるというわけでもありません。契約者の年収、勤務先情報、勤務年齢、家族構成などといった“属性”ももちろん審査されることになります。

気を付けなくてはならないのは、借り入れ状況です。住宅ローン、または車のローンがあるから審査は通らないといったことはないものの、融資額などで不利になりやすいのは事実です。その時点でローンをひとつも利用していないというものが理想ですが、難しいのであれば可能な限りの繰り上げ返済などを利用するのが手になります。


■金融機関ごとの条件を比較する
これまでご紹介した通り、金融機関によって金利や融資条件など諸々が異なっています。
低金利など条件の良い金融機関から融資を受けたいのは当然ですが、好条件のものほど審査が厳しいという傾向が見られます。とはいえ、絶対に通らないというわけではなく、不可能だと思っていた場所が通ったという話もないわけでもありません。複数の金融機関の意向を確認した上で、条件の比較を行いましょう。


4. 判断は自分の状況にあわせることが重要


不動産投資を始めるためには、アパートローンを活用することはある意味必須と言えます。しかし初めての不動産投資であれば、どこから受ければよいのか、どれだけ融資が受けられるのか、資金調達方法に大きな不安があるのは当然のことでしょう。そのような場合は、不動産会社やハウスメーカーなどと提携している金融機関の提携ローンを利用するというのもひとつの手です。

ですが長期間にわたって返済を行いますから、1%の金利の違いでも総返済額に大きな差が出てしまいます。そのため、融資を受ける金融会社の選択はかなり重要であると言っても間違いないでしょう。
目先の「融資を受けること」を目標とせず、自分の状況を見極めたうえで先を見据え、より良い融資先を選びましょう。

小雪