前半では不動産物件選びの下準備として、不動産会社の探し方から選び方、購入を避けたい物件などをご紹介しました。
こちらではついに、絞られた不動産情報の中から「購入する物件」を選ぶ方法を確認していきましょう。



目次
3. 残った物件の中から一番良いものを選び出す
4. まとめ

3. 残った物件の中から一番良いものを選び出す


残された物件の中から、いよいよ不動産投資物件として購入する物件を選ぶ作業に入るわけですが、まずその前のワンクッションとして、「自分が何の目的で不動産投資を始めたいのか」を明確にする必要があります。それにより購入するべき物件が異なるため、チェックするポイントもまた別のものになるからです。

不動産投資を始める主な目的として挙げられるのは「副収入目的」もしくは「節税」。
どちらか片方だけが目的の場合もありますし、両方を目的とする方もいらっしゃるでしょう。


■副収入目的の場合
本業ではなく収入を増やす副業として、または老後の公的年金の足しとして、さらには不動産投資を本業にして不労所得で生活したいなど“家賃収入を得ること”を目的とした場合がこちらになります。
なお節税対策の場合でも、賃貸運営が成り立たなければ投資を行う意味がなくなりますので、共通の条件とも言えるでしょう。


●物件を投資用物件として見た条件

・利回りが相場から離れすぎていない
不動産投資は投資ですから、利回りに注目することは大前提になります。
ですが利回りが高ければ良いというわけではありません。高利回りの物件には必ず“その理由”が存在しているからです。例えば過去に殺人事件があった事故物件である、大規模修繕工事を間近に控えている、中には作為的に底上げされていることも否めません。
逆にあまりにも低利回りすぎる物件は運用しても黒字にならずに赤字が続き、経営が破綻してしまうことも考えられます。
重要なのは「相場から離れすぎていない」こと。エリアや物件属性から相場を調べ、極端に高くも低くもない物件を選びましょう。

・入居率が50%以上である
中古のマンションやアパートを一棟買いする場合は、“レントロール”を見ることで現在の空室率を調べることが可能になります。これは不動産の賃貸借条件を一覧表にしたもので、家賃や契約日、契約期間、敷金や属性などが記されており、今現在の空室状況が確認できるのです。
最低ラインは50%であり、これを超えてしまうと赤字の可能性が高くなりますので、50%以上であるかの確認が必須となります。

・空室期間が3か月未満
賃貸物件ですから、空室が出ることはそれほどおかしなことではありません。しかし、長期間空室が続く物件はその後も空室のままの可能性が高いため、できれば避けたほうがいいでしょう。
目安としては3か月ほどです。賃料を下げる、リフォームを行うなどの対処法はありますが、そのままの状態ではやや厳しくなります。
こちらもレントロールで確認することが出来ます。記載されていない場合は、担当者から確認を行いましょう。

・1981年6月以降に建てられているか
地震大国の日本では、大きな地震が発生するごとに建物の耐震基準が見直されています。その中でも特に大きい節目となっているのが、1981(昭和56)年6月1日。この日以降に適用されている基準を“新耐震基準”、それ以前に適用されていた基準が“旧耐震基準”になります。旧耐震では「震度5程度の地震で大きな損害を受けない」ことが基準であるため、1981年6月以降に建てられた新耐震基準のものを選びましょう。

・エリア人口が100万人以上
絞り込みの段階で「3大都市圏もしくは政令指定都市」としていましたが、可能であれば100万人以上の都市圏に限定します。人口が少ないほど賃貸物件の需要が低く、空室リスクが高まってしまうもの。売却をしようとしても流動性も低いため、相当な値下げをしても売れない状況に陥る可能性も秘めているのです。
ただし、50万人程度では絶対いけないというわけではないため、状況に応じて判断する必要があるかもしれません。

・土地値が高い
土地値(とちね)とは、土地のみを評価した売値価格設定を指します。
建物はいずれ老朽化し、耐用年数を超えてしまうと価値はなくなる一方で、土地は経年による劣化がなく、価値も大きく下げるようなことがありません。この土地値が物件価格の7割以上であれば、資産価値が下がりにくい物件と言えるでしょう。
国土交通省のサイトなどで調べることが出来ますが、あくまで参考程度であり土地値のみで判断するのは避けたほうが無難です。



・取引形態が売主である
取引態様が“仲介(媒介)”である場合、売主と買主の間に不動産会社が仲介しているため、その分の仲介手数料(物件価格の約3%程度)が必要になります。例えば5000万円の物件であれば、その仲介手数料は150万円ほど。非常に良い物件であればこの条件は除外しても問題ありませんが、余計な費用をかけたくないのであれば取引態様は“売主”のものを選びましょう。

・契約不適合責任が免責ではない
契約不適合責任とはその名前の通りに「契約の内容に適合していない」ことになります。
例えば物件の購入後に、老朽化による水漏れや木部の浸食、土壌の汚染などが発見された、面積が実物と異なっていたなど、それが“契約内容に含まれていなかった”場合は契約不適合となり、売主に修理代や損害賠償を求めることができる制度です。
これが“免責”となっていた場合は、原則として責任を追及することが不可能となります。
契約不適合責任免責の物件は安価であることが多いのですが、修理費の発生などのリスクを考えると選ばないほうが良いでしょう。

・借地権付きではない
購入したいと考えている物件の権利形態が「借地権」となっている場合、建物の購入はできますが土地は地主に“借りる”ことになります。つまり、建物だけを所有する形になります。
このような物件は所有権の場合と比べて担保評価が低くなりやすく、金融機関からの融資が受けづらいというデメリットが存在しています。地代の支払いが発生するほか、改装や改築、建て替えを行う際には地主の承諾が必要です。
そのため流動性が低く、売却しようにも買い手が見つかり辛いという点もあるのです。

・接道要件を満たしている
建物ばかりに気を取られてしまいがちですが、その建物と道路の接道状態も重要なポイントになります。建築基準法により、原則としてその敷地が4m以上の道路に2m以上接していなければ建築することはできません。つまり、満たしていない場合は、建物が老朽化したとしても建て替えを行うことが出来ないのです。
物件概要書に記載されている情報のため、確認することは必須となります。

・その他
携帯電話通信用のアンテナ設置や敷地内電柱による収入、プロパンガス導入による無料設備、自治会費及び町内会費の有無なども条件に含まれますが、必須というほどではありません。
また、容積率に空きがある場合は再建築の際に有利に働くことはあるものの、こちらも“あれば良い”という程度で構わないでしょう。


●賃貸物件として見た条件

・駅までの距離
駅から家までの距離を重視する人は多いため、駅から近いほど入居付けが楽というメリットがあります。
ですがバス停までの距離や運行頻度、家賃や周囲環境次第ではそれほど大きな差がないというデータもあるようです。駅に近ければ物件価格も高い一方で、遠ければ安いことから利回りが高いという特徴もあります。
駅から離れたエリアが不安であるならば、徒歩20分圏内を目安にすると良いかもしれません。

・駐車場の有無
駅から離れた物件の場合は、駐車場があることが重要視されます。特に物件がファミリー向けである場合、また地方寄りのエリアであれば車を所有する世帯が非常に多くなるため、駐車場がない物件は入居者に選ばれにくくなっているのです。
敷地内駐車場がないようであれば近隣に借りれられる場所はないか、それもないのであればやや難しいと言えるでしょう。

・周囲の生活施設場状況
コンビニやスーパーといった生活に必須である施設が周囲に充実していれば、入居付けしやすくなります。
また利用頻度は下がりますが市役所などといった公共施設が近い場合もメリットになります。

その逆で、飛行場や工場、ゴミ焼却場、ガソリンスタンド、さらには墓地や葬儀場など、“嫌悪施設”と呼ばれるものがある場合はデメリットになりやすいため注意しましょう。

・バストイレ別である
賃貸物件を探す際「お風呂とトイレは別がいい」という人は多く存在しています。バス・トイレ別の物件はセパレートタイプとも呼ばれ、洗い場がゆったりと使える、収納スペースが確保できる、複数人数いてもトイレが使いやすいなどといった理由から、やはり好まれるようです。
お風呂とトイレが一緒であるユニットバスは、排水管が1つであるケースが多く漏水事故が少ないなどといったメリットはありますが、単身向けの物件以外はセパレートタイプを選んだほうが安心できるでしょう。

・エリアの需要に適している
学生や単身者が多いエリアであればワンルームや1K、ファミリー層に好まれるエリアであれば2LDKや3LDKなど、エリアの需要に適しているかは重要になります。ただし、他の賃貸物件と競合する可能性も高くなるため、需要と供給のバランスも確認しなければなりません。

・設備内容の充実
人気の高い設備がある物件は入居付けがしやすくなるのは当然のことでしょう。
ウォークインクローゼットやオートロック、TVモニター付きインターホン、無料インターネット、ファミリー向けであればカウンターキッチンなど、広告を出す際にもアピールポイントにもなります。
ただし無料インターネットの場合はその利用料が家主負担のケースもありますので注意しましょう。


●建築物として見た条件

・リフォーム率が高い
マンションやアパートの1棟買いの場合、内装のリフォーム率を確認することが重要になります。
ユニットバスからセパレートタイプへ変更、畳からフローリングへの張替えなど、物件の部屋数のうち何部屋までリフォームが完了しているのかを確認しましょう。この割合が低ければ、後にリフォーム費用が掛かることになるため注意しなくてはなりません。

・大規模修繕工事が実施済である
どれだけ頑丈に建てられたマンションであろうとも経年による劣化は避けられないため、外壁塗装や屋上防水など、定期的な大規模修繕工事は必須です。非常に高額な出費となりますので、これらが実施直後などであればその出費が抑えられるため有利になるでしょう。

・その他
エレベーターや自動火災報知機、貯水槽・給水ポンプ、浄化槽、オートロックなどはメンテナンス費や定期的な交換が必要となるため、履歴の確認を物件概要書や担当者から確認を行います。
また、天井カセット型エアコンや室外機1つで複数エアコンが運転できるマルチエアコンなどといった特殊なエアコンは修理費が高額となりやすく付け替えも難しいため、設置されている物件は避けたほうが良いかもしれません。


●内見時に確認すべき条件
ここまでの条件は資料や担当などから確認できるものでした。
ここからは実際に現地で直接確かめない限り確認できないものなので、問題がないと判断した物件から内見することになります。

・図面と現状の確認
不動産関係の資料には「資料と現状が異なる場合は現状を優先する」と記載されていることが多くなっています。
購入してから違うことがわかっても責任を問うことはできないため、実際に現状を確認し、資料と違いがないかを確認することは重要です。

・実際の周囲環境
物件に向かう際は車で直接向かうのではなく、最寄りの駅から歩くことをおすすめします。
実際の距離感や周囲の状況、例えばコンビニなどといったお店の数や交通量、高低差など、体感することで住みやすさが判断できるでしょう。

・入居者の状況
実際に住んでいる入居者の状況も確認します。
ベランダから見た雰囲気や廊下に荷物が置かれていないか、駐車場はどのような車が止まっているか、ゴミ置き場はきれいに掃除されているかどうかを見ることで、どのような入居者が住んでいるのか判断できるでしょう。


■節税目的(所得税・住民税)の場合
多額の税金がかかるイメージもある不動産投資ですが、活用次第では節税効果が期待できます。
そのうち、所得税と住民税の節税を目的とした場合の条件はこちらです。



・木造である
所得税と住民税の節税が目的の場合、大きなポイントとなるのは「減価償却費」になります。
減価償却費とは“実際の出資を伴わない経費”であり、経費として計上することで利益を減らし、支払うべき税金を抑えることが可能となるのです。これは建物の法的耐用年数が短いものほど1年で計上できる額が増えるため、耐用年数が22年と最も短い木造を選ぶことに意味があるのです。

・築年数が高い中古物件
節税効果を期待するのであれば、選択肢は築年数が高い中古物件のみになります。
築年数がすでに法的耐用年数を超えている場合は、減価償却期間は「法的耐用年数×20%」となり、例えば“法的耐用年数22年を超えた中古木造物件”を購入すれば、その減価償却期間は“4年間”です。このわずか4年間という短期間で減価償却費を計上できるのは、節税効果としては非常に大きいものでしょう。
つまり、築年数22年を超えた木造中古物件が狙いとなります。

・建物価格割合が高い
物件価格とは、土地の価格と建物の価格を足したものになります。土地は経年による劣化がないため減価償却費を計上することができません。つまり節税効果を求めるのであれば、価格のうちの建物の割合をできる限り大きくする必要があるのです。
そして、物件価格のうちの土地価格と建物価格のそれぞれの割合は売主買主間で決めることができるので、そのうちの建物の割合を大きくしてもらえるように交渉することになります。

ただし、売主が不動産会社などといった法人が売主の場合は、建物価格に消費税が課せられる(土地は非課税)ため、交渉は非常に難しいと考えたほうが良いでしょう。


■節税目的(相続税)の場合
相続税とは、亡くなった人の財産を受け継ぐ際、その相続をした人にかかる税金です。
例えば1億円を現金で持っていたのであれば、額面通り評価額は1億になります。しかし1億円で不動産を購入し、さらに賃貸として貸し出していればおよそ額面の5~6割ほど、約5000~6000万円の評価額となるため、その評価額の差だけ相続税を抑えることが可能となるのです。
同じ節税目的であろうとも、こちらの相続税対策の場合は所得税・住民税のケースと全く異なるため注意が必要となります。

・都心部である
相続税目的で不動産を購入する場合に最も重要視するのは「評価額を多く圧縮できる物件」であること。
具体的に言うと、物件の価格が一番高い“都心部”の物件のみが選択肢になります。地方は時価が低くなりやすいため、除外しなくてはなりません。

・サブリース契約を結ぶのも選択肢に
保有物件の入居率が高いほど相続税評価額は低くなるという性質を持っています。
そしてサブリース契約は、不動産管理会社がアパートやマンションをオーナーから借り上げ、入居者に転貸するシステムです。契約を結んでいる場合は管理会社にすべてを貸している状態になりますから「入居率100%」と判断され、評価額を下げる効果が期待できるでしょう。
とはいえ、サブリース契約ならではのデメリットもありますので、それらを踏まえた上でメリットが上回るのであれば選択肢に入れても良いかもしれません。

・その他
相続後に売却する可能性があるのであれば流動性の高い物件を、そのまま賃貸物件として運用していくのであれば当然利回りの高い物件を選ぶ必要があります。また、相続後に物件を即売却すると租税回避行為とみなされる恐れがあるため、最低でも約4年間は所有しなくてはなりません。その間に赤字経営となってしまえば元も子もありませんので、ある程度利回りを確保できる物件を選ぶ必要があるのです。


4.まとめ


いかがでしたでしょうか。重要視するべきことが多すぎて、難しいと考えてしまうのは当然のことでしょう。
不動産はその名が示す通り動かすことはできませんし、ひとつとして同じ物件というものは存在していません。そのため、本当に良いのかどうか判断するのが難しいのは、ある意味仕方のないことともいえるのです。

確認すべきことはたくさんありますが、価格や利回りなどといった目先のものだけにとらわれず、目的に応じそれに見合った物件選びをしっかりとすれば、おのずと成功に近づけるのではないでしょうか。

小雪