不動産投資ローンを利用して不動産投資を始めようと考えているのであれば、検討しなくてはならないのが「ガン団信」に加入するのかどうか。生命保険の代わりにもなる“団体信用生命保険(団信)”の中でも特に利用者が多い特約ではあるものの、不動産投資ローン利用の必須条件ではないため、加入に悩む人も少なくありません。

この記事では、団体信用保険とガン団信の仕組みと補償内容から、メリットとデメリット、さらには利用する場合の注意点まで、ガン団信について知っておくべき内容を解説します。



目次
1. 団体信用生命保険とガン団信とは
2. ガン団信の仕組み
3. 本当にガン団信は必要なのか?
4. ガン団信を利用する際に注意すべきこと
5. ガン団信の以外のオプションとは?
6. まとめ

1. 団体信用生命保険とガン団信とは


まずは団体信用生命保険とガン団信がどういうものなのか、どのような違いがあるのかを押さえておきましょう。


■団体信用生命保険(団信)
団体信用生命保険、通称「団信(以下、団信)」とは、ローン返済期間中の契約者に“万が一”のことが発生した場合、保険会社がその時点でのローン残債を弁済してくれるという保険です。契約者は保険料として上乗せされた金利を支払うことになりますが、もしもの際にも数千万円という大きな借金を家族に残す心配がなくなる、非常に重要なものになります。
一般的に、住宅ローンの借り入れの際には団信への加入が必須となりますが、不動産投資ローンの場合は任意のケースも多いため、加入するかは自己の判断に委ねられることになるでしょう。

通常の団信でローンの残債が弁済されるのは、契約者が死亡もしくは高度障害になった場合のみです。そのうちの高度障害とは「両目の視力を永久に完全に失った状態」や「言語またはそしゃくの機能を永久に完全に失った状態」であるなど、1人で生活することが不可能な程度の重度障害でなければ認定を受けることはできません。


■ガン診断特約付団体信用生命保険(ガン団信)
ガン診断特約付団体信用生命保険、通称「ガン団信(以下、ガン団信)」とは団信につける特約であり、わかりやすく言えば「オプション」になります。通常と同じく死亡もしくは高度障害に加えて、特定のガン(悪性新生物)と診断確定された時点でローン返済が免除されることになるのです。
こちらは団信の特約であるため、住宅及び不動産投資ローンどちらのケースも必須ではありません。

●ガン団信加入のメリット
なによりも「もしもの際の備え」として、安心できることがガン団信加入のメリットとなります。
特定のガンと診断確定されることでもローンが完済されるため、これまで支払いに充てていたお金を治療費に回すことも可能ですし、生活費として利用することもできるでしょう。
治療で後にガンが完治したとしても、支払いの再開を求められることもありません。

●ガン団信加入のデメリット
保障が手厚くなる分、金利の上乗せがされるため、ローン返済額が増えることがデメリットとして挙げられます。月々の返済額が増加することでキャッシュフローが悪化し、経営が難しくなってしまってはリスク対策として本末転倒かもしれません。


2. ガン団信の仕組み


ガン団信に加入するかしないかの判断は、「ガン団信」の仕組みや加入条件を知る必要があるでしょう。
利用条件や支払い条件、対象になるガンと対象外のガンなどについてはこちらになります。


■利用条件
ガン団信を含めた団信そのものが一般的な“生命保険”と同じ扱いであるため、加入審査が入ることになります。持病や過去に大きな病歴があるなど、健康上の理由で加入できないケースもあり得るでしょう。
そして、加入にあたり「健康状態の告知義務」が存在し、必ず過去から現在に渡って病歴があるのならば、それを伝える義務があります。もし伝えなかった、または虚偽の報告をした場合には告知義務違反となり、解約や保険金の支払い拒否などといったペナルティが発生するのです。

そのため、健康状態に問題がある場合は団信への加入は非常に難しくなります。
不動産投資ローンであれば、団信への加入が任意のものであれば問題ありません。が、必須のものでは利用が出来ませんので、その場合は不動産会社の担当者と相談したほうが良いでしょう。




■補償内容
通常の団信としてではなく、ガン団信(ガン特約)独自の補償内容としては、契約する金融機関によって内容は異なるものの、原則「特定のガンと診断された場合」にも保険金が支払われる、つまりローン残債の弁済が行われることになります。

なお、多くのガン特約では支払い免除の条件として「生まれて初めて罹患した場合」というものがあるため、過去に患った経験がある種類のガン(例えば胃ガンを患った経験があれば胃ガン)は保証対象外になりますので注意しましょう。


■補償対象にならないガン
保障対象外となるガンの種類は保険会社によって異なりますが、大腸の粘膜内ガンや子宮頚部の上皮内ガン、乳腺の非浸潤性乳管ガンなどといった“上皮内新生物”及び“皮膚の悪性黒色種以外の皮膚ガン”などは対象として認められないことが多くなっているようです。
また、加入から一定の期間が経過しないと保証対象にならないケースもありますので、事前の確認が必須になるでしょう。


■利用金利
住宅ローンでも不動産投資ローンでも、団信の保険料の支払いは金利に上乗せする形で支払います。上乗せされる金利は金融機関や保険商品などで異なりますが、およそ0.1~0.3程度。不動産投資において、少しの金利の差が将来的に大きな違いを生み出すことは間違いありません。支払いの差額をシミュレーションし、その金額を確認してから「本当に団信加入する価値があるのか」をしっかりと考える必要があるでしょう。


3. 本当にガン団信は必要なのか?


ガン団信がどのようなものなのかその仕組みまでを解説しましたが、やはり重要なのは「はたしてガン団信は必要なのか?」です。ガンに関するデータを確認した上で、ガン団信の必要性について考えてみましょう。


■ガン患者に関するデータから考える
厚生労働省のデータによりますと、2017(平成29)年には178.2万人が新たにガンと診断されています。2014(平成26)年の時点では151.8万人、2011(平成23)年の時点では152.6万人であることから、ガン患者数は増加傾向にあることがわかるでしょう。これは医療技術が発達したことにより、ガン以外の病気で亡くなる患者が減少していることを表していると考えられますが、それに加えて従来ならば見つけることが難しかったガン、または超早期のガンも発見できるようになったという側面もあります。その上、国や自治体の働きかけにより多くの人が健康診断や人間ドッグを受けるようになった結果、そこでガンが見つかったというケースも多くなっているのです。


■ガンになった後の現状
ガン患者が増加する一方で、ガンは不治の病ではなく「治る時代」になりつつあります。短期間の入院や日帰り手術も増加し、近年では働きながらガンの治療を続ける人もめずらしくはないのです。
ですが、就労世帯がガンと診断されたことにより、解雇や依願退職、廃業などに追い込まれる場合があることも見逃すことはできない事実です。治療費に加えて生活費や子供の教育費などといった様々な出費が考えられますので、リスク対策としてガン団信を選択肢に入れるのは必要なことといえるでしょう。




4. ガン団信を利用する際に注意すべきこと


ガン団信に加入するのであれば、あらかじめ理解しておかなければならないことが存在しています。
注意点をまとめましたので、しっかりと押さえておきましょう。


■必ず加入できるわけではない
ガン団信は生命保険の一種です。上述しました通り、加入に審査と健康状態についての告知義務が存在しています。それにより、ガン団信に加入できない可能性があるのです。
加入を希望していたとしても、必ず入れるというわけではない点には注意しましょう。


■ローンを完済した時点で保証が終わる
そもそも団信というものが「ローン支払い時のリスク軽減」であるため、そのローンの支払いが完了してしまえば保証期間が終わります。たとえばローンが完済した直後にガンが発見されたとしても、何の保証も受けることはできません。
これは繰り上げ返済を行った場合も含まれますので、繰り上げ返済を考えている際には合わせて考慮することをおすすめします。


■契約内容の更新は不可能
ガン団信を含む団信はローン契約時にのみ加入が可能であり、「しばらくたって余裕が出来てから加入する」というようなことはできません。また、別の団信への変更や追加なども不可能です。
団信へ加入すればその分だけ返済額が増えるため、加入時に躊躇してしまうのは当然のことかもしれません。万が一の場合のリスクと、返済額が増えるリスクのどちらに備えるかを十分検討し、利用できる保険について調べた上で選択を行いましょう。


■生命保険に加入してる場合の注意点
団信は保険の一種であるとお伝えしました通り、一般的な生命保険で補償される内容と重複する可能性があります。生命保険に既に加入しているのであれば、補償内容についての確認をしてから加入の検討を行うほうが良いでしょう。
必要な保険料だけを支払い、無駄な出費は可能な限り抑えたいところです。


5. ガン団信の以外のオプションとは?


団信は「ローン契約者がローン返済期間中に契約者に死亡もしくは高度障害であると診断確定された場合」、ガン団信は通常の団信に追加して「特定のガン(悪性新生物)であると診断確定された場合」に、ローン残債が免除されるシステムです。
ですが、ローンの返済が難しくなるリスクは、死亡や高度障害、ましてやガンだけではありません。
近年では脳卒中、急性心筋梗塞にガンを含めた「3大疾病特約」を付帯して保障できるようにする金融機関も増加傾向にありますし、さらには糖尿病や高血圧疾患、肝疾患、腎疾患なども含めた「7大疾病特約」を保証するところも見られるようになりました。

こういった手厚い保障は、リスクへの備えや不安の解消にもつながることは確かでしょう。
しかし当然ながら、手厚くなれば手厚くなるほど金利は上がり、合計のローン返済額も上がることになります。さらに途中で付け加えることはもちろんのこと、外すこともできませんので、契約時には現状や将来的な生活環境を考慮した上で選択することが必須なのです。


6. まとめ


住宅ローンや不動産ローンは基本的に長い時間をかけて返済していくものです。その分、返済中に事故や病気などで収入がなくなってしまい、ローンの返済が難しくなるかもしれない、というリスクが潜んでいます。
それらの不安を解消するものが団信であり、ガン団信でもあるのです。
加入しておくことで「もしも」が保障され、ローンの返済を気にすることなく治療に専念することができるというのは大きな安心であることは間違いありません。

その一方で、ローン金利が上乗せされるために返済額が上がるなどといったデメリットも存在していることも確かです。
リスクとデメリットを理解した上で比較し、しっかりと見極めてから加入の判断をしましょう。

小雪