不動産投資を行う上で、確実に把握しておかなければならない知識のひとつが「経費」です。
経費を正しく計上し利益を圧縮することによって節税につながり、ひいては不動産投資の成否も左右する重要なものになります。しかも税務署は「未払いの税金」に対しては的確に請求しますが、経費を計上せずに「多く支払っている税金」に対しては何の対応もしません。
つまり、経費として認められているものと、認められていないものを投資家本人がしっかりと把握しておく必要があるのです。

ここでは不動産投資て認められる経費から認められない経費、経費に対する考え方までをご説明します。



目次
1. 不動産投資で認められている経費
2. 不動産投資で認めらない経費
3. 判断が難しい経費
4. 経費は「大きくする」ことが正解ではない?
5. 節税に必要なのは予測すること
6. まとめ

1. 不動産投資で認められている経費


経費とは「事業にかかる費用」であり、例えば会社で仕事をしているのであれば、文房具などの事務用品、パソコンの周辺機器から、デスクやオフィスチェアなどの大型家具、営業や打ち合わせにかかる交通費などが必要となるでしょう。これらを購入したり修理するために必要となる費用は、経費扱いになるのです。

そして不動産投資も事業であることから、購入や維持のためには様々な費用が発生することになります。
どのような種類があり、経費として認められているのか、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。


■ローンの金利
不動産投資をするためには土地や建物などを購入することが必須であり、その際にローンを利用して購入することが一般的です。この際の、ローンの“金利”の部分は経費として計上することができます。ただし、建物及び設備を購入した部分の金利はすべて計上することが可能ですが、土地の購入部分にあたる金利は例外を除いて経費計上することができないため注意が必要です。
元金と金利のそれぞれの金額は、各金融会社によって返済表が準備されていますので、そちらで確認することになります。


■各種保険料
投資用物件を購入する際は、火災保険や地震保険に加入することが一般的ですが、これらにかかる保険料は経費計上することが可能です。また、孤独死保険なども不動産収入を得るためのものですので、経費に含めることができます。
その一方で、社会保険は物件ではなく個人にかける保険料になるため、必要経費にはあたりません。


■管理委託料
入居者の募集やその対応業務、家賃交渉やトラブル対応までの業務全般を管理会社に任せている方も多いでしょう。その管理委託料も、利益を上げるために必要なものであることから、経費として計上することが出来ます。
1年分の明細で確定申告に対応することが可能ですが、不安なのであれば経費に関する資料をまとめて作成してもらえる管理会社も存在していますので、あらかじめそういった会社を選んでおくというのも手かもしれません。


■管理費
建物を維持し管理するための費用は、当然経費計上できます。
中でもワンルームマンション投資の場合は、所有している部屋だけでなく、共用部分の清掃や各種整備の保守・点検などが必要となり、管理費として毎月支払う必要があります。またこの場合、上述した委託管理会社と、マンションそのものの管理会社は異なることがほとんどのようです。
なお状況によっては、管理会社を通すことなく直接費用を支払うこともあるため、そのような場合は請求書を取っておきましょう。


■広告宣伝費
不動産投資として賃貸経営を行う場合、入居者がいることが大前提であることから、その入居付けのための広告宣伝費も経費として認められているものです。賃貸仲介会社に支払う仲介手数料もこちらに含められます。
中には入居者プレゼントとして、家具や家電、雑貨や食品などを贈るケースもありますが、こちらも交際費となりますが経費として計上ができます。


■修繕費
建物や設備に不具合が生じれば、原則としてオーナーの負担で修理しなければなりません。具体的にはリフォーム費や設備交換費などが修繕費となり、経費扱いになります。
退去に伴った原状回復のリフォームなども経費に含まれますが、建物の性能を向上させるための工事費用などは経費として認められません。こちらはやや判断が難しいため、場合によっては税理士などの専門家に相談する必要もあるでしょう。


■各種税金
税金の種類によって経費計上できるものとできないものがあり、計上できるものとして

・固定資産税
・都市計画税
・登録免許税
・不動産所得税
・印紙税
・利子税
・法人事業税

など「不動産投資を行う上でかかる税金」であれば経費として認められます。
また、所有物件の視察や見回り、打ち合わせの移動などで自家用車を使用している場合は、自動車税や重量税も経費計上できるものの、あくまでも不動産投資に使用している部分のみになりますので注意しましょう。


■専門家報酬
不動産投資を行う上で、様々な専門家に依頼することがあります。
司法書士への登記依頼、税理士への確定申告依頼、場合によってはトラブル対応時に弁護士へ訴訟依頼することもあるでしょう。この際に発生する報酬も経費計上が可能です。


■通信料
不動産会社や管理会社との連絡に使用する際に利用する携帯電話やスマートフォンの購入代金、通話料や利用料などは経費として計上が出来ます。また、物件の情報収集や書類作成などにパソコンを使うのであれば、本体やソフト、アプリの購入代金、プロバイダー利用料も不動産投資に必要な経費としてみなされます。
ただし、不動産投資専用としてではなく私用でも使っているのであれば、全額を経費として計上することは出来ません。こちらでも「不動産投資に使用した分」だけが経費計上することができるのです。


■交通費
不動産購入のための現地訪問や所有物件の現状確認、不動産会社や金融機関へ出向くことも多いでしょう。この際に利用する電車やバスなどの運賃、自家用車であればガソリン代や高速道路料金、駐車場代、遠距離であればホテルの宿泊費などは経費として計上できます。領収書をもらうことが出来れば問題ありませんが、もらえない場合は“旅費清算書”を作成することになります。
なお当然ですが、不動産投資を行う上で使用したものだけが経費となり、私的に利用した交通費や旅費や経費として認められません。


■不動産投資のための学習費
不動産投資を続けるためには、多くの情報と知識が必要となります。それらを得るための費用は、経費として計上することができます。具体的には新聞や書籍の購入費はもちろんのこと、セミナーや勉強会への参加費も含まれます。もちろん「不動産投資をする上で必要」なもののみであって、無関係な雑誌や漫画などは除外されます。


■交際費
不動産会社や管理会社の担当者と打ち合わせの際にかかった飲食代も、経費に含めることが可能です。こちらも不動産投資の関係者のみに限られており、家族や知人など関係のない人との食事をした場合、または日常的な食費なども不動産関連ではないため経費にすることはできません。


■減価償却費
ここまでに挙げられた経費は実際に支払う費用になりますが、この減価償却費に限り「実際の出費はないが経費として認められている」ものになります。

建築物は、経年で価値が減少していくものである減価償却資産になります。そのため購入費用を一括ではなく、耐用年数に振り分けて経費計上することができるのです。
ただし、減価償却資産は“建物部分”に限ります。土地は経年しても劣化せず、減価償却の対象外になりますので注意しましょう。




2. 不動産投資で認めらない経費


ここまでは経費と認められているものをご紹介しました。
基本的に、「不動産収入を得るために必要なもの」であれば経費に含められる傾向があります。しかし、不動産関連だからと経費で落とせると思っていたのに実際にはできず、誤って計上した結果、収益に影響を与えるどころか税務調査が入ってしまった、などという状況に陥る可能性も否めません。

そんなことにならないために、ここからは経費として認められなかった事例をご紹介します。


■衣装代
不動産投資を行う上で、不動産会社や管理会社、金融機関の担当者などと打ち合わせをすることも多く、そういったシーンではスーツなど着用する人がほとんどでしょう。しかし、スーツは“ファッションアイテム”という認識であり、私的にも使用できるものであるため、経費として計上することは不可能です。たとえ不動産投資での打ち合わせの際にしか着用しないとしても、認められない可能性が高いでしょう。
スーツだけでなく、ビジネスバッグや腕時計、コンタクトレンズなども同様となっております。


■各種会費
スポーツクラブやジムなどの会費は、経費として認められることはありません。
一般的な会社であれば福利厚生として利用することもありますが、個人事業主の場合は福利厚生は認められておらず、このような会費はたとえ情報交換の場に利用していたとしても経費計上することはできません。
なお、個人ではなく法人化した場合は経費として認められるものの、「家族以外の従業員」が存在している必要があり、従業員が家族のみの場合はやはり認められていません。


■反則金・罰金
不動産投資に必要となる車にかかる費用、例えば購入代金や車検代、自動車税や保険料は自動車関連費用として経費計上することが可能ですが、スピード違反や駐車違反に伴う反則金及び罰金は、経費として計上することができません。
ただし、レッカー代は反則金や罰金ではないため、その代金は経費として認められます。


■一部の税金
固定資産税や都市計画税、不動産所得税などは不動産投資を行う上で欠かせない税金であるため、経費に計上することが出来るということは上述しました。しかし、所得税や住民税、法人税などは個人に対して課せられるものであるため、経費として認められることはありません。


■資格取得費用
宅地建物取引士やマンション経営管理士、賃貸不動産経営管理士、住宅診断士、不動産鑑定士など、不動産投資にまつわる資格は多数存在しています。いずれも取得しておくことで、物件所得や運用においてプロの視点で見極めることができるようになるため、有利になることは間違いありません。
ですがたとえ不動産関連のものであっても、そのための費用を経費として計上することは不可能です。資格所得費用はあくまでも「個人のスキルを高める」ものであると見なされているのです。


3. 判断が難しい経費


たとえ「不動産投資関連の出費」であろうとも、条件次第では経費として計上が出来て、また条件によっては経費として認められないといったものも存在しています。


■工事費用
最も判断が難しいのは、物件の工事を行った際の費用の問題です。
修繕費の項目でもご説明しましたが、

「原状回復・維持のため」の工事→経費として認められている(修繕費)
「性能を向上させるため」の工事→経費として認められていない(資本的支出)

の2ケースが存在しています。
双方ともに物件の工事であり、多額の出費があることには違いありません。ですがその工事内容によって判断しなければならないので、場合によっては非常に難しい問題になることもあるでしょう。

経費として認められた工事例をあげてみますと、
・同じグレードの壁紙や床の張替え
・同じグレードの外壁工事
・同じグレードのキッチンやガス給湯器への変更
・屋上防水の修理
・畳の表替え
このように、建物の老朽化や退去者が出た後の“原状回復や現状維持のための工事”が「修繕費」であり、経費対象となります。あくまでも原状回復であり、グレードの変更がなければ物件の価値を高めるものともみなされないため、支出があった年に一括で経費として計上が出来るのです。

逆に経費として認められなかった工事例をあげますと、
・間取りの変更
・畳から高グレードのフローリングへの張替え
・高グレードの壁紙への張替え
・最新のシステムキッチンやユニットバスへの変更
・事務所から居住用へ改装

これらのような、“改良による耐久性の向上、物件の価値を高めるための工事”は修繕費ではなく「資本的支出」になります。その年の必要経費として計上することはできませんが、減価償却資産にあたるためその法的耐用年数の期間にわたって毎年償却していくことになるでしょう。




4. 経費は「大きくする」ことが正解ではない?


経費で落とせるものはすべて落とせば良い、と考えている方も中にはいらっしゃるかもしれません。
確かに、最終的に支払う税金額が抑えられれば、節税としては成功と言えるでしょう。

しかしすべての経費を最大化することが正解ではないのです。


■最大化しても良い経費
最大化したい経費であるのが“減価償却費”になります。
こちらも減価償却費の項で上述しました通り、「実際の出費はないが経費として認められている」経費です。

物件の価格は、土地価格と建物価格の2つから成り立っていますが、これは常識の範囲内であれば売主と交渉して割合を変更してもらうことができます。この際、建物部分のみが減価償却資産であることから、建物割合を大きくしたほうが減価償却費を多く計上することが可能なのです。
また、構造や築年で減価償却期間が変化するため、節税が不動産投資最大の目的であるのならば減価償却費が出やすい不動産を選ぶというのもひとつの手でしょう。

とはいえ、減価償却した分だけ物件の簿価が低くなるため、売却時には会計上の利益が出やすいというデメリットも存在しています。不動産の売却で買収益が出た場合は譲渡所得税が発生しますが、譲渡所得税は損益通算などができません。この際の利益はあくまでも“会計上”だけであり、「実際には利益が出ていなかったとしても出ているとみなされる」こともあるのです。

また、年収1200万円未満の場合は減価償却を最大化して得られるメリットが少ないため、減価償却費にそこまでこだわる必要はないかもしれません。


■最大化しないほうが良い経費
減価償却費以外のすべての経費は最小限に抑えるのが基本です。

たとえ経費として計上できるとしても、同じ額の出費が必要になります。
「不動産投資を行う上で必要な支出を、認められている範囲限界まで経費計上する」ということは、節税であり経営としても重要なものになりますが、「経費にできる範囲限界まで意図的に出費する」ということは望ましいことではありません。たとえ確定申告で所得税が還付されたとしても、必要以上に出費しているのであれば本末転倒だからです。

確かに、大きく節税できれば得した気分になるでしょうが、「経費で落とせる」ということはお金が湧く魔法ではありません。余計な出費をして経費計上するのであれば、不必要な支出をせずにその分税金を支払ったほうが、実際には手元にはお金は多く残るのです。必要でないものは最小限に抑える、ということを覚えておきましょう。


5. 節税に必要なのは予測すること


不動産投資には様々な経費が存在していることをご紹介しました。
経費というものは多ければ良いというものではなく、節税という名目で支出を増やす行為に意味はほとんどありません。不動産投資で節税が出来るということ自体は確かに事実です。しかしそのためには事前に経費を計算し、どの程度の効果が得られるのか見極める必要があります。

たとえば、経費が思っていたほど「かからなかった」場合。
節税の効果を得るのであれば、減価償却費で会計上の赤字を出して損益通算をしなくてはなりません。
予測せずに不動産投資を始めた結果、赤字にならずに利益が出てしまい、「節税どころか税金が増えた」「大した節税効果が得られなかった」という状況に陥ることもありえるでしょう。

その逆で、経費が思ってた以上に「かかってしまった」場合。
不動産投資には、急な設備の故障や建物の不具合などといったトラブルがつきものです。いくら経費として認められ後に還付金が得られるとしても、その時点では手元の資金で賄わなければなりません。このような突発的な出費を含めた経費の予測を行わなければ、経営が悪化し資金ショートすることもあるのです。

ただ、予測することが重要とはいえ、経費の正確な額は不動産を購入するまでは確定ではありません。
しかしローン金利や税金、管理委託料、専門家報酬といったものはある程度であれば予測がしやすいものですし、購入を予定している物件の空室率や入居期間などを調べることによって、広告宣伝費もおおよその額が予想できます。交際費や通信費、交通費などはそれほど大きくない金額ですが、こちらもある程度の予測を付けることは可能です。
不動産投資の成功確率を少しでも上げる意味でも、事前の経費見積もりは必ず行っておきたいものであるといえるでしょう。


6. まとめ


不動産投資を行うのであれば、税金や経費などの知識を身につけておくことは必要不可欠です。知識があれば経費を上手に利用して賢く節税が出来たり、トラブルをうまく回避することも可能でしょう。

それぞれの経費をしっかりと認識し、経費に対する考え方などを理解することは重要ですが、不安を感じるのであれば不動産会社や税理士といった専門家のサポートを受けることもひとつの手になります。経費を正しく利用し、上手に節税しながら不動産投資を行いましょう。

小雪