不動産投資を行う上で重要とされているのは“出口戦略”です。
不動産投資の場合、その投資の成否が判別できるのは「投資物件を売却して不動産投資を完全に終了させた」時点であり、運用中ではありません。どれだけ運用中に利益が出ていたとしても、投資物件が思っていた価格で売れず大きな損失を出してしまえば、総合的に見ても投資失敗と言えるでしょう。
それほど大きな比重を占めている出口戦略ですが、経験が浅い不動産投資家は売却の時点まで考えが及びにくいもの。そこでそのような不動産初心者の方でも安心できるよう、出口戦略についてご説明します。
目次
1. 出口戦略とは?
2. 主な出口戦略のパターン
3. 売却を考えるタイミングとは
4. 出口戦略を考えた投資物件の選び方
5. まとめ
1. 出口戦略とは?
不動産投資においての出口戦略とは、簡単に言ってしまえば「投資物件を最終的にどうするか」になります。
元々は軍事用語であり“損失・被害を最小限にして撤退する戦略”を指します。これが経済での用語にも転用され“撤退時に経済定期損失を最小限にする”というような意味を持っているのです。
不動産投資初心者や経験の浅い方などは、投資物件を探して購入することに精一杯であり、最終的にその物件をどうするのか、などということまでには考えが及びにくいかもしれません。しかし投資物件を選んでいる時点からすでに出口戦略は始まっており、どの出口にいつ向かうのかをしっかりと意識しなくてはなりません。
どのような形で不動産投資を終わらせたいのか、その希望を明確にするところからスタートしましょう。
2. 主な出口戦略のパターン
まずは出口戦略としてどのようなものがあるのかを知る必要があります。
一般的な不動産投資で扱われることが多い、マンション、アパート、一戸建ての場合で考えますと、考えられる出口は4つ。順番にどのようなものがあるのか見ていきましょう。
■投資用物件として売却する
まずは投資物件(収益物件)をそのまま投資物件として売却する方法です。
売却する相手は、大半が同じ不動産投資家になります。不動産投資家が投資物件に対して主に見ているものは「収益性」であるため、この収益性が高い物件であれば高い値で売ることも可能でしょう。
収益性が高い状態を維持するために投資運用中にできることは
・高めの家賃設定を保つこと
・入居率を上げること
などが挙げられます。
収益性は“年間家賃収入”と“期待利回り”の2つが大きく影響を与えますので、これらを維持できるようであればこの方法が一番良い選択肢になります。
■土地として売却する
次に建物を取り壊し、更地にして売却をする方法になります。
この場合は一戸建て、もしくはアパートやマンションを一棟まるごと所有している場合に限られ、区分マンション投資では選択することはできません。
投資物件として売却する際には「収益性」を見ましたが、その収益性が低く「資産性」のほうが高い値が付くのであれば、こちらの方法になります。
また、人が住めないほどの古屋や違法建築、または事故・事件などが発生した物件もこちらが選ばれることが多いようです。
更地の状態にするためには入居者がいる状態ではできませんから、運用中にまず
・退去交渉を行う
・定期借家契約を選ぶ
これらを行い、退去が済んだらようやく更地にすることが可能となります。
とはいえ、解体費用などの発生や固定資産税の負担額の増加など、デメリットも非常に大きいためあまり選ばれることはないかもしれません。建物の問題が大きくそのままでは買い手が見つからないなどに限り、こちらを選択することになるでしょう。
■居住用物件として売却する
こちらは投資用の物件としてではなく、居住用の物件として売却する手段です。
売却する相手の大半は一般の個人になります。立地や設備にも左右されますが、居住用として販売しても遜色のない物件であれば、投資物件として売却するよりも高額になる可能性もあるでしょう。周囲の類似中古物件がどの程度で販売されているのか確認し、収益性や資産性から見た価格よりも高値がつくと判断したのであればこちらを選ぶのもひとつの手になります。
物件のオーナー側から現在の入居者に購入の打診をするケースもある一方で、入居者側から購入を申し出るケースもあり、中でもファミリー向け投資物件の場合に多いようです。
ただし、確実性はそれほど高くはないため、過度な期待は避けたほうが良いかもしれません。
■自宅として所有する
将来的に自宅にして住みたい、という方も中にはいらっしゃるでしょう。
確かに、居住用でも投資用でも「人が住む」という基本的な用途は同じですから、そこに住むこと自体は不可能ではありません。
とはいえ購入時から“いつか自分が住む”ことを前提に購入してしまえば、ついつい設備や住環境を重視してしまい、価格も高額になりがちです。そうなれば当然利回りも低くなり、さらにその高額な価格に対して見合うだけの家賃が取れるかも非常に難しい問題になります。
また、投資物件として購入する物件の多くは都心の単身者向けのワンルームマンションです。単身者は通勤のアクセスの良さを最重視するケースが多く、設備や周囲環境をそれほど気にしない傾向が強くなっています。
その上、いざ自宅にしようとした時に自分が同じ単身者であればそれほど気にならないかもしれませんが、例えば10年後、20年後、ライフスタイルや家族構成が大きく変わっている可能性もあるでしょう。住みたくてもその物件が自分たちの自宅に適していない、と言う状況になっていることも否定できません。
出口戦略として「最終的に自分で住むことを購入時から考える」ということは、できれば避けたほうが良いでしょう。
3. 売却を考えるタイミングとは
購入時から売却することを考えるのは必要なことである、というのはご説明した通りです。
しかし次に疑問となってくるのは、「いつ売却をするのか?」。どのタイミングで物件の売却を検討したほうが良いのでしょうか?
■取得日から5年を超えた時
物件を売却する際には、その売却益に応じて“譲渡所得”という税金が発生します。
譲渡所得税は物件を保有していた期間によって税率が異なり、その変わり目が“5年目”にあるのです。
保有期間が5年以内であれば“短期譲渡”となり税率は約39%、5年以上経過していれば“長期譲渡”となり税率は20%と、その差はおよそ倍近く。よほど急激な値上がりがない限り、短期譲渡期間内の売却は避けたほうが無難でしょう。売却を考えるのであれば、長期譲渡に切り替わったタイミングとなります。
ただし注意しなくてはならないのは、年数のカウントは“所得日”ではなく“1月1日”の時点です。購入してから1月1日を5回超えることでようやく5年であるとされるため、「所得してからおおよそ6年目」と覚えておくと良いかもしれません。
■減価償却期間が終了した時
“減価償却費”とは、実際の支出を伴わない経費です。支出がないにもかかわらず経費として計上できるため、所得を圧縮し節税することが可能となっています。この減価償却費には期間が設定されていますので、終了したタイミングで売却を考えるというのも選択肢になるでしょう。
減価償却期間が終了して減価償却費がなくなれば、当然経費に計上することはできません。実際には収入が増加していなくても減価償却がなくなった分だけ年間の利益が増え、税金の額も大きくなります。
ですので、減価償却期間が終了した時が売却のタイミングであるともいえるのです。
■デットクロスを迎える前
不動産投資においてのデットクロスとは、「ローンの元金返済額が減価償却費を上回った状態」のことを指します。減価償却費期間が終了した、またはローンの返済額における元金の割合が上がった場合などに発生し、黒字なのに手元のお金がない、という状況に陥ることもあるでしょう。
デットクロスを迎えた投資物件は、表面上は黒字であろうとも保有のメリットがありません。最悪、黒字倒産と言うケースもあり得るため、このデットクロスを迎える前に売却に出してしまったほうが賢明となります。
売却を考えるタイミングをご紹介しましたが、これらはあくまで「検討」を考えるタイミングであって、売らなければならないタイミングではありません。
例えば賃貸運営がうまく行き、投資物件が利益が出るような価格で売却できそうであれば、長期譲渡に切り替わったそのタイミングが売り時になるでしょう。物件によっては減価償却期間が終了するまで、またはデットクロスになるまで保有したほうが良いケースも存在しています。また、空室が多いなど賃貸運営に問題が発生した場合は、こちらでお伝えしたタイミング以外での検討はもちろん必要です。
それぞれの物件の状況に応じて、判断することが重要となります。
4. 出口戦略を考えた投資物件の選び方
誰しも失敗はしたくないもの。何度もお伝えしている通り「投資物件を購入する前から出口戦略を考える」ことは大前提になります。
では、出口戦略を考える上で物件を探す際には、どのように点に注意して選べばよいでしょうか?
■家賃の下がらない物件
家賃が高い状態でを保てれば、収益性が高くなるため投資物件として売却しやすくなります。
投資物件の売却価格は年間の家賃収入の増減によって左右されるため、保有期間中に家賃の下がらない物件を選ぶことが必須です。
とはいえ、無理に高い状態に設定したままであれば入居率にも響き、それに伴って収益性に影響を及ぼしますので、「家賃を下げなくても高い入居率が保てる物件」を選びましょう。
●新築の場合
家賃の急降下が起こりやすいのは特に新築物件になります。
新築物件には“新築プレミアム”という言葉がある通り、周囲の同条件の中古物件より高く設定しても入居者を見つけることができるでしょう。ただしこれは、「一番最初の入居者」に限るのです。入居した時点で新築物件ではなくなります。そのまま最初の入居者が住み続ければ高いままの家賃を得ることが出来ますが、退去してしまえば周囲の中古物件と同じ条件であるため、当然、家賃を下げざるを得ません。
収益性で見た場合、新築物件はやや注意が必要でしょう。
●中古の場合
中古物件は家賃の下落幅が少ないため、新築物件ほど注意が必要ではありません。
が、長期間入居していた住民が退去した場合など、下落のタイミングがないわけではないのです。
マンションやアパートの一棟買いを予定している場合は、賃貸借条件を一覧にした“レントロール”を確認しましょう。同じ間取りで古くからの入居者の賃料と、直近の入居者の賃料の差を比較し、金額差が少ないほうが家賃の下落のリスクが低い物件になります。
■自己資金を投入する
購入時に自己資金、つまり「頭金+諸費用」を投入するのも、出口戦略を見据える上では重要なポイントです。
不動産投資において、投資物件は融資を受けて購入するという考え方が基本です。ですが、購入した物件を売却する際にはローン残債を一括で返済しなくてはなりません。物件がローン残債以上の金額で売却できれば問題ない一方で、フルローンで購入したなどローン残債以下でしか売れなかった場合、手元の資金がなければ売却することも不可能になります。
自己資金を投入していればそれだけローン総額が減りますから、投入しなかったケースよりも比較的早めに売却価格が残債を上回ることができるのです。売却可能となる時期を早めるためにも、入れられる範囲で自己資金を投入したほうが良いでしょう。
■融資難易度の低い物件
物件によって融資難易度があり、融資審査が通りやすいものと通りにくいものが存在しています。この融資難易度が低い物件ほど買える人の数が増えて売却しやすくなるということですから、出口戦略に困りにくくなるということです。
融資難易度が低い物件は、
・違法建築ではない
・土地価格が物件価格より高い
・物件価格自体が高くない
となっています。もちろん例外もありますが、おおむねこれらを満たしている物件は融資難易度が低いものであることがほとんどです。
ただし、融資難易度が低い物件というのは購入希望者も多くなるためその分物件価格が上がり、その結果利回りも低くなる傾向が見られます。自分が求めている収益性との兼ね合いをつけた上で、納得できる物件を見つけ出しましょう。
5. まとめ
入口があれば出口があるように、不動産投資を始めれば必ず終わりがあります。
不動産投資における出口戦略とは、投資物件を最終的にどうするかであり、これを購入前から考えることは投資を成功させるためにも必要不可欠なものです。
しかし出口の幅が広くとれるような物件は人気が高く、物件価格も高額になりますので、収益性が低くなりがちという欠点もあるため、本末転倒にならないよう注意しなくてはなりません。自分が出口戦略で求めるものと、投資物件に求めている収益性のバランスを考えながら、物件購入を行うことが重要なのです。
不動産投資で成功をおさめたいのであれば、ぜひ“始め方”だけではなく“終わり方”をしっかりと描いてから始めましょう。
小雪