親や親戚などが亡くなった際、不動産を相続することはめずらしくありません。その不動産が「投資物件であった」というケースも最近では増えているようです。
しかし不動産投資の経験も知識もない人にとっては、投資物件をどう扱えば良いのか戸惑ってしまうでしょう。投資物件としてそのまま運用を引き継ぐ場合でも、または売却をしたい場合でも、投資物件ならではの手続きが必要なのです。

そこで今回は、投資物件を相続した場合の流れと必要な手続きをご紹介します。



目次
1. 投資物件の所有者を決める
2. 債務の引継ぎ
3. 投資物件の名義変更
4. 準確定申告を行う
5. 相続税の納税
6. 管理会社や借主への連絡
7. 運用を続けるか売却かの検討
8. まとめ

1. 投資物件の所有者を決める


相続人が1人ならば単純な話になりますが、複数人の場合は難しくなるケースもめずらしくありません。特に投資物件のような不動産はきれいにわけることが非常に難しく、もめることも多いでしょう。原則として遺産分割は“遺言に従う”ため、遺言書の有無と遺産の内容を確認しておくことが必須となります。
遺言があればそのように、遺されていない場合は相続人による遺産分割協議を行い、所有者を決定します。遺産分割協議で決めた場合は、全員の同意と押印がされた“遺産分割協議書”が不動産の名義変更時に必須となりますので、必ず作成しておきましょう。

不動産の所有者を1人に決めずに兄弟で共有名義にすることも多いですが、これは投資物件の場合はおすすめできません。売却時はもちろん、修繕をする際にも名義人全員の同意が必要となるため、時間も手間も取られることになるからです。


■賃料の一時的な取り扱いをどうする?
所有者の決定と同時に、「一時的な賃料の取り扱い」についても決めておきましょう。
新しい所有者が決定しても、不動産の名義変更が完了するまでの期間は被相続人(亡くなった人)のものであり、この間に発生した賃料は被相続人のもの、つまり遺産分割の対象に含まれる可能性もあるのです。厳密に法律上での取り決めは存在していませんが、後々にわだかまりを遺さないためにも予め話し合っておいたほうが無難でしょう。


2. 債務の引継ぎ


相続とは不動産や貯蓄などといった“プラスの遺産”をもらうだけではありません。個人の権利だけではなく義務も含めた“マイナスの遺産”、つまり負債も引き継ぐことになります。
被相続人が投資物件を所有していた場合、それが相続税対策である可能性が高いため、まずはじめに「ローンの残債」を確認しておきましょう。財産を減らすために借金をわざと残しているケースが多いからです。


■団体信用生命保険の有無
被相続人が団体信用生命保険(以下、団信)に加入していた場合、債務者が亡くなった時点で保険金によってローン残高が支払われるため、債務の引継ぎを行う必要がありません。ただし、不動産投資ローンの場合は団信加入が必須ではないため、前述したように相続税対策として所有していた場合は加入していないことも考えられます。




3. 投資物件の名義変更


相続人が決定したら、投資物件の名義人を被相続人から相続人へ名義変更を行います。
ここでの名義変更は、登記簿謄本に記載されている所有者の名義を変更する登記のことを指します。
名義変更時に発生する費用は

・司法書士報酬
・登録免許税
・書類取得費用

になります。
登記に関しては司法書士に依頼しますので、当然その報酬は必須です。また、登記を申請する際には登録免許税という税が発生するため、司法書士に依頼している場合はそちらへ支払う形となります。
なお書類所得費用に関しては「遺言書」による名義変更か、「遺産分割協議書」による名義変更かの2パターンに分かれるため、やや注意が必要です。


4. 準確定申告を行う


不動産投資を行っているのであれば不動産所得があるため、確定申告を毎年行います。
しかし、納税者(被相続人)が年の途中で亡くなった場合、1月1日から死亡した日までに確定した所得金額及び税額を計算し、申告と納税を行わなくてはなりません。これが、「準確定申告」となります。
なお、相続の開始があったことを知った日の“翌日から4か月以内”という期限がありますので、忘れないよう早めに行っておきましょう。


5. 相続税の納税


相続によって財産を取得した場合、発生するのが「相続税」です。
相続税はすべての相続人に必ずかかるわけではなく、相続した財産の額から借金や葬式費用などを差し引いた残額が“基礎控除額を超える場合のみ”にかかることになります。一定の金額を満たさなければ相続税はかからず申告も必要ありませんが、資産運用として不動産投資を行っていた人の相続の場合は、相続税の課税対象になっていることが多いでしょう。
基礎控除額の計算式は

3,000万円+(600万円×法定相続人数)

となり、例えば「配偶者と子2人」が相続人の場合は、計算式に当てはめると4,800万円となります。被相続人の財産がこの4,800万円を超えていれば相続税が発生し、越えていなければ相続税はかかりません。
なお、この相続税の申告及び納税は、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内」に行う必要があります




6. 管理会社や借主への連絡


相続によって投資物件の名義人が変更されたのであれば、管理会社及び借主へ連絡を行いましょう。
必ず伝えるべき内容は

・連絡窓口
・振込口座

の2つです。
投資物件の所有者、つまり貸主には賃貸人として修繕義務や費用償還義務が存在しているため、常に連絡が取れる状態である必要があります。借主からの修繕の依頼や解約の申し出を行う際の、新しい連絡窓口を必ず伝えておきましょう。
銀行口座は名義人が死亡した場合、その口座が凍結されます。凍結されることによって家賃の振り込みなども不可能になるため、早急な連絡が必要です。なお、管理会社を利用して物件を管理している場合は、管理会社によって「賃貸人変更通知書」が借主に送付されることがほとんどとなっています。

また、投資物件の相続人は「敷金返還義務」も引き継ぐことを忘れてはいけません。借主が退去する際には、預かっていた敷金の返還が求められることになるのです。そのため、引き継いだ直後に退去が発生した場合、手持ちの資金から敷金を返還するケースもあり得るでしょう。


7. 運用を続けるか売却かの検討


無事に投資物件の引継ぎが完了した時点で、ようやく経営を継続するか売却するか今後の方針を検討します。
資産運用や経営の経験がなければ、不安を感じる人も多いはずです。不動産投資にはリスクはつきもののため、入居者が見つからず空室が出れば収入はありませんし、入居者がいたとしても修繕などによる出費、住民間のトラブルへの対応なども求められるでしょう。たとえ管理会社に委託していたとしても、最終的な判断は貸主である所有者に求められるため、何もしなくても良いということはありません。

もちろん、立地に問題がなく空室も少なく、大規模な修繕もしばらく必要としないような良い物件、または修繕が必要であっても許容範囲のものであれば、経営を続けていくのもひとつの手でしょう。しかし、相続で引き継ぐような投資物件は築年数が経過しているものがほとんどですので、無理に保有を続けるよりも“オーナーチェンジ物件”として売却し、現金化してしまうのも選択肢になります。


8. まとめ


投資物件を相続した場合の流れと手続きについてをお伝えしました。

一般的な居住用物件と異なり、投資物件ならではの手順が含まれていることが特徴です。
投資物件は「不労収益を得られる」などというメリットばかりが注目され、経営自体にかかるコストや手間が見逃される傾向が見られます。デメリットもしっかりと検討した上で、相続するか否かを決める必要があるのです。

相続して経営を継ぐ場合も、売却をして現金化する場合でも、最初の流れはどちらも同じですので手続きの流れを把握しておいたほうがスムーズに進めることが出来ます。手続きの期限が決められているものもあるため、今回ご紹介した流れをもとにして進めていくと良いでしょう。

小雪