「以前は不動産投資で消費税還付を受けられた」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。不動産購入は高額な買い物である分消費税の負担も大きく、少しでも有利な方法があるのならそちらを選びたいものです。
しかし残念ながら、現在では不動産投資における消費税還付を受けることはできなくなっています。

なぜ消費税還付が受けられなくなったのか、今でも受けられる方法は残されているのか、詳しく見ていきましょう。



目次
1. 消費税と不動産投資における消費税還付
2. なぜ不動産投資で消費税還付が受けられないのか
3. 消費税還付が受けられた時代とは
4. 現在でも受けられる消費税還付
5. まとめ

1. 消費税と不動産投資における消費税還付


まず前提として、マンションやアパート、一戸建てなどといった居住用不動産賃貸業で消費税還付を受けることはできません。以前はある手順を踏むことによって受けることはできたものの、現時点では規制により不可能となりました。

なぜ消費税還付が受けられないのか、その前にまずは消費税と消費税還付の仕組みについて説明します。


■消費税の仕組み
そもそも消費税とは、その名の通り「物やサービスを消費する際に課税される税金」です。
消費者が税を負担し事業者が国に納めるのですが、税金を負担する義務がある“担税者(消費者)”と、預かった税金を国に納めることになる“納税者(事業者)”が異なる「間接税」のひとつがこの消費税になります。

不動産投資を始めるのであれば、不動産を購入または新築するところからスタートするでしょう。
消費税は商品の販売やサービスの提供など“消費される”ものに対して課税されるため、不動産投資家も当然消費者であり、消費税の課税対象となります。なお、土地は消費される性質を持っていませんので非課税となります。


■消費税還付とは
最初に説明した通り、消費税は消費者が負担し、預かった税を事業者が税務署へ納めるものです。
事業者は売上に含まれている税を「一時的に預かっている」状態ですから、それを納税しなくてはならない一方で、商品を仕入れた先に対しては「消費者として消費税を支払う」必要もあります。その時に消費税が二重課税にならないよう、事業者は“預かった消費税額”から、“仕入れにかかった消費税”を差し引いて納税するのです。

この際、預かった消費税と支払った消費税に差額が生まれる場合があります。
もし、預かった消費税よりも支払った消費税が多いのであれば、その差額分が還付されることになります。この制度が「消費税還付」です。
当然ですが、預かった消費税よりも支払った消費税が少なければ、差額分を納税しなければなりません。


2. なぜ不動産投資で消費税還付が受けられないのか


不動産投資には不動産の購入が必須であり、不動産は高額な商品です。購入時に多額の消費税を支払っている分、経営で消費税還付が受けられるのであれば、非常に助かることは間違いありません。
なぜ、不動産オーナーでは消費税還付が受けられないのか、いよいよその理由を見ていきましょう。


■家賃収入が非課税売上のため
まず、「家賃収入は非課税売上」ということが挙げられます。
根本的に消費税還付は「消費者から預かった消費税」よりも「支払った消費税が多い」状態でなければ受けられません。居住用賃貸物件から得られる家賃収入は非課税売上のため、消費税が含まれていないのです。

消費税還付の大前提は消費者から消費税を預かっていることであり、売上に消費税が含まれていない限り発生することはありません。そして、住宅用賃貸物件の家賃は「人々の生活に必要不可欠のものであり、消費の概念にそぐわないもの」と判断されていることから、非課税とされています。
居住用賃貸物件オーナーの売上である家賃収入は、消費税が含まれていない非課税売上であるため、そもそも前提から除外されているのです。




■大半のオーナーが免税事業者であるため
消費税還付を受けられないもうひとつの理由が、不動産賃貸経営を行っているオーナーのほとんどが「免税事業者である」ことになります。
同じ事業者であったとしても、「課税事業者」と「非課税事業者」の2つに分かれており、このうちの非課税事業者には納税義務が存在していません。課税事業者と非課税事業者の境目は“課税売上高1,000万円”であり、これを超えない限りは納税義務が免除された免税事業者(非課税事業者)にあたります。
そもそも消費税還付は課税事業者のための制度であることから、免税事業者である限りは還付を受けることは不可能なのです。


3. 消費税還付が受けられた時代とは


上述した通り、居住用賃貸物件の家賃は非課税であり、多くの不動産オーナーは免税事業者です。が、かつては家賃も課税対象であったため、不動産オーナーも課税事業者でした。それにより、消費税還付が受けられた時代があったことは事実です。
しかし、平成3(1991)年度の税制改正によって家賃が非課税となったことによって、不動産オーナーは免税事業者となり、それに従って消費税還付を受けることができなくなりました。

消費税還付は金銭的メリットも大きかったため、税制改正後も何とかして還付を受ける方法はないかと考えた結果、考案された手段がいくつかのスキームになります。これらは基本的に「課税売上が発生しない不動産賃貸業だけではなく、同時に別事業を行って課税売上を発生させる」という考えから導き出されており、そうすることによって消費税還付を受けていました。
もちろんこれらは現在規制されていますが、どのようなものが過去にあったのか見てみましょう。


■自動販売機スキームによるもの
最初の抜け道として登場したのが自動販売機によるもので、“自販機スキーム”と呼ばれていました。
まず物件の敷地内に自動販売機を設置します。自動販売機による売り上げはすべて課税売上にあたるため、所有者は申請することで課税事業者になることが可能になります。自動販売機での課税売上割合を95%以上にしつつ同じ期間に物件購入を行うことにより、「自販機での売上消費税<建物の仕入れ消費税」の状態にし、消費税還付の対象となることによって、その税額分を還付してもらうという仕組みでした。自動販売機での売上は少額である一方で、物件購入の消費税額は非常に大きなものですから、おそらく消費税額分のほとんどが戻ってきたことでしょう。

この自販機スキームには「建物購入後3年通産で課税売上割合が50%以上変動した場合、還付を受けた消費税を返納する必要がある」という問題もありましたが、その3年目までに申請を行って免税事業者になってしまえば返納の義務もなくなることから、簡単にできる有効な節税対策としてその名を広めていったのです。


●平成22年度の税制改正による規制
この事実が問題視された結果、平成22(2010)年度の税制改正により封じられました。
「課税事業者申請して2年以内に100万円以上の消費税還付を受けた場合、購入後の3年間は免税事業者に戻ることはできない」といったものであり、返納義務から逃れることが出来なくなったのです。

しかし一定の抑止力はあったものの、抜け道として「課税事業者申請後2年間は物件を購入せず、3年目に購入する」という方法がありました。4年目であれば問題なく免税事業者に戻れますから、還付金の返済義務からも逃れることが出来たのです。


●2回目の自動販売機スキームへの対策
こちらも当然問題視され、平成28(2016)年度に2度目の行政改正が入ります。
課税事業者が「1,000万円以上の不動産購入後の3年間は免税事業者に戻ることはできない」と変更禁止期間の枠が“不動産購入後3年間”に固定されたことによって、抜け道は封鎖。これにより、自動販売機スキームは意味のないものとなりました。




■金地金売買スキームによるもの
自動販売機スキームが封じられた後、どうしてもコストを抑えたいと考えた投資家や専門家などによって編み出されたのが“金地金(きんじがね)スキーム”と呼ばれるものです。
自動販売機スキームの基本となっていたのは、「建物購入後3年通産で課税売上割合が50%以上変動した場合、還付を受けた消費税を返納する必要がある」という問題の回避でした。免税事業者になるという抜け道が封鎖されたあとに考慮されたのが「課税売上を50%以上変動させない」という手段になります。つまり、家賃収入(非課税売上)と同額以上の課税売上を発生させれば、免税事業者にならずとも返納を回避することができるのです。

とはいえ、自動販売機では家賃収入以上の売上を発生させることは現実的に考えても難しいでしょう。そこで目をつけられたのが“金地金(きんじがね)”でした。単価と流動性の両方が高い金を取引に使えば、家賃以上の課税売上を発生させることは容易でしょう。このように課税売上割合を意識的に維持することで、返納の義務から逃れるという方法が横行しました。


■2020年度の税制改正によって完全禁止に
租税回避行為にも近いこの金地金スキームも、令和2(2020)年度の税制改正により封鎖されています。
同時に、「居住用不動産賃貸業における仕入れ税額の控除を認めない」とされたことによって金地金スキームは完全に違法扱いとなり、マンションやアパートなどといった居住用賃貸物件オーナーが消費税還付を受けることは不可能になったのです。


4. 現在でも受けられる消費税還付


令和2(2020)年度の税制改正によって、不動産投資家が消費税還付を受けることはできなくなったのはこれまでに説明した通りです。

ただし、あくまでもそれは「居住用」の賃貸物件のみの話になっています。
店舗や事務所などといった「事業用」の賃貸物件から得られる家賃収入はもともと課税売上ですので、問題なく消費税還付を受けることが可能です。もちろんこれはスキームを使う必要は一切なく、事業用賃貸物件ならではのメリットとも言えるでしょう。
なお、居住用と事業用の両方を兼ねている物件の場合は、居住用部分を抜いた店舗もしくは事務所部分のみが対象となります。


5. まとめ


多少なりとも出費が抑えられる方法があるのならば、そしてそれが可能であれば試してみたくなるのは当然のことでしょう。また、「前は還付が受け取れたのに」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、ここまでに説明したスキームは脱税とまではいかないものの、税制の裏を突いたある意味“裏技”であり、正当法ではありません。不動産投資は綿密に練られた事業計画に基づいた運用を最重視するべきであって、ただの小手先でのテクニックで利益を上げるものではないのです。どのように税制を回避するかその手段を練るのではなく、今後不動産投資家として考えるべきなのは、全体的なコスト削減やキャッシュフローの向上なのではないでしょうか。

これからは居住用賃貸物件では消費税還付ができないことを前提に、賃貸経営の戦略を組み立てることが重要なのです。

小雪