不動産投資を行うにあたり、避けて通れない作業が「確定申告」です。
流れとしてはそれほど手間がかかるものではないのですが、確定申告を必要としていない会社員の方などは申告作業に慣れていない分、難しいと感じてしまうことも少なくありません。また、確定申告に対しての苦手意識や不安感から、不動産投資に手を出せないという方も多いでしょう。

実は考えているほど確定申告は難しいものではなく、複雑なものでもありません。
そこで今回は、確定申告を行う理由とその流れから、確定申告に対しての疑問点についてご紹介します。



目次
1. 確定申告は必要なのか
2. 確定申告の基本的な流れ
3. 確定申告時によくある疑問
4. まとめ

1. 確定申告は必要なのか


まず確定申告と聞いて最初に考えるのは、「今の家賃収入で確定申告が必要なのか?」というところでしょう。必要でないのならば難しい作業から逃れられるため、気になってしまうのは当然です。

しかし、結論から申し上げますと「家賃収入があるのなら、確定申告をしたほうが良い」ということになります。
なぜそうなるかという前に、まずは必ず確定申告をしなければならないケースから見てみましょう。


■確定申告を必ずしなければならないケース
確定申告を“必ずしなければならない”のは、「不動産所得が20万円を超える」ケースです。

これは“所得”であり“収入”ではありません。家賃収入で20万円を超えたらではないので注意しましょう。総収入金額から必要経費を引いた金額が不動産所得であり、この金額が20万円を超えれば必ず確定申告を行わなければならないのです。


■確定申告をしたほうが良いケース
不動産所得が20万円を超えないのであれば、確定申告はしなくても問題ないということになります。が、確定申告を行うことによって得られるメリットも存在しているのです。

中でも確定申告を行いたいのは、「不動産所得が赤字」であるケースです。
不動産投資を行っている人は、それ以外の本業を持っている方も少なくありません。例えば会社員であれば、会社から得られる給与所得があるでしょう。本業が黒字、不動産投資が赤字の場合、赤字(不動産所得)を黒字(給与所得)から差し引く“損益通算”を行うことによって、課税所得を抑えて申告することが可能となるのです。
課税所得が抑えられれば、所得税や住民税の負担も軽くなります。特に1年目などはほとんどの方が赤字になるため、必ず確定申告したほうが良いでしょう。

この損益通算と減価償却費を利用し、実際のキャッシュフローでは黒字であるにもかかわらず会計上のみ赤字にすることで、節税効果が期待できる方法もあります。これはもちろん確定申告が必須となりますので、不動産投資家の多くは毎年確定申告を行っていると考えて間違いありません。


2. 確定申告の基本的な流れ


不動産投資を行うにあたって、確定申告はほぼ必須であるという所までお伝えしました。
ではここからは実際に、確定申告の基本的な流れと進め方を見てみましょう。


■確定申告の方式選択
確定申告には“青色申告”と“白色申告”の2種類が存在しています。
一般的に「白色は簡単で、青色は難しい」というイメージが強いようです。

確かに、白色申告は非常にシンプルではあります。
帳簿付けも特に簿記の知識がなくても対応が可能であり、記入項目も少ないため書類作成時の負担もかなり少ないでしょう。
ただし、白色申告には特別控除や損失の繰り越しなどといったメリットを受けることはできません。簡単に確定申告をすることはできても、白色申告では確定申告ならではのメリットがないのです。

青色申告をするためには、あらかじめ青色申告承認申請書を提出し承認を得ておくこと、複式簿記による記帳などが必須であるなど、白色と比較すれば確かに難易度は高くなるでしょう。しかし特別控除などといった優遇を受けるためにも、ぜひとも青色申告をすることをおすすめします。


■書類の用意
青色申告か白色申告のどちらで申告をするのかを選んだら、まずは必要書類を集めましょう。
なおここからは“不動産投資で青色申告”をすることを前提にした説明を行います。

・確定申告書B
・青色申告決算書
最寄りの税務署や市役所などで直接配布されていますが、国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。申告書はAとBがあり、不動産所得の申告には申告書Bを使用します。

・売買契約書
・賃貸借契約書
・送金明細
・売渡精算書
・譲渡対価証明書
こちらは不動産会社から取得する形になります。
なお売買契約書は不動産購入時に、賃貸借契約書は入居者との契約時にそれぞれ入手するため、大切に保管しておきましょう。送金明細は管理会社から毎月送られてくる書類です。売渡精算書と譲渡対価証明書についても不動産会社から得ることが出来ますが、こちらを使用するのは最初の確定申告時のみとなっています。

・借入返済表
こちらは金融機関から入手します。
融資の実行が行われた時点で送付されますので、必ず保管しておきましょう。

・源泉徴収票
年末調整が終了すると、毎年勤務先から発行されます。
紛失した場合でも再発行してもらうことが可能です。

・固定資産税通知書
毎年4~6月あたりに、各市区町村から送付されます。
事業経費の資料として利用できますので、納税した領収書とともに失くさないようにしておきます。
なお不動産を購入した年に限り、売主との間で固定資産税の精算を行うため、その際の清算書も併せて必要です。

・損害保険の証券
保険を契約した際に送付されます。

・各種領収書
管理費や修繕費の領収書もそれぞれ必要となります。
それぞれ管理会社や業者などから取得することになるでしょう。


■申告書の作成
青色申告の場合は、“青色申告決算書”を作成しなければなりません。
また同時に“確定申告書”の記入も行います。前述した通り、不動産所得の場合は確定申告書Bになりますので注意してください。
作成方法としては、

・国税庁のWebサイト(確定申告書等作成コーナー)
・各種会計ソフト
・地方公共団体会場
・税務署

と複数あり、どれを選んでも問題ありません。が、税務署で推奨しているのは“確定申告書等作成コーナー”での作成になります。確定申告時期であれば24時間いつでも申告が可能ですので、忙しい方などはこちらを選ぶと良いでしょう。
また、簿記会計知識に不安を感じるのであれば、市販されている会計ソフトを選択肢に入れるのも良いかもしれません。初心者向けの会計ソフトも増えており、簿記の知識を補完しサポートしてくれるものも多くなっているようです。

もちろん、従来のように税務署や団体会場などで作成するということもできます。
ただしタイミングによっては混雑を避けられないという点などには注意しましょう。




■税務署へ提出
申告書の作成が完了し、内容の最終確認後に問題がないようでしたらついに提出になります。
提出方法としては、

・e-Taxでの提出
・税務署の窓口への直接提出
・郵便での提出

の3種類になります。
パソコンとネット環境が整っており、確定申告書等作成コーナーまたは会計ソフトで作成したのであれば“e-Taxでの提出”が一番おすすめです。「マイナンバーカード」か「ID・パスワード」が必須になりますが、環境が整えばいちばん手軽な方法でしょう。
手書きで作成した場合は直接・郵便で提出します。もちろんパソコンで作成しても印刷をすればこちらを選ぶことも可能です。

なお、確定申告の申告先は、原則として「1月1日時点で住民票のある住所を管轄する税務署」となります。不動産投資の場合は所有物件がどこに存在していたとしても、申告先は居住地を管轄している税務署です。


3. 確定申告時によくある疑問


確定申告をする際、初めての場合だとわからないことが多いのは当然でしょう。
ここでは失敗のない確定申告を行うために、よくある疑問と押さえておきたい知識をまとめてみました。


■青色にするべきか白色にするべきか?
確定申告には“青色申告”と“白色申告”の2種類があることはご説明した通りです。
白色申告のメリットとしては、手続きがシンプルで簡単という点が挙げられます。確定申告書の記入欄も売り上げや経費を書く程度ですのでそれほど難しいことはなく、記帳も単式簿記でも問題ありません。申請の手続きもないので、できるだけ簡単に済ませたい!というのであれば白色申告を選ぶという手段もあるでしょう。

その一方で、申請の手続きや複雑さはあるものの、条件を満たすことで最大65万円の特別控除が受けられ、純損失の繰り越し・繰り戻しが出来るのは青色申告をした場合のみになります。とにかく大変と話題の青色申告ですが、白色申告でも青色申告と同じく帳簿や簿記の保存が必要ではありますので、申告を行うのであれば優遇が受けられる青色申告を選択したほうが良いでしょう。


■どのタイミングで確定申告をする?
確定申告自体は、通常であれば2月16日~3月15日の間が提出期限です。
ただし、申告のためには多くの書類を必要としますし、発行までに時間がかかるものもありますので、1月頃から準備を始めることをおすすめします。

なお、領収書やレシートなどをはじめとした「確定申告時に必要となる書類」は、時期を問わず“常に保管”する習慣をつけておきましょう。




■確定申告しなかったら?
不動産所得が20万円以下なら、確定申告は必須ではありません。

しかし20万円を超えるのであれば、確定申告は義務となります。
行わなかった場合は無申告加算税が課され、ペナルティとして本来納付すべき税額の15~20%を追加して納めなくてはならなくなるのです。
この無申告加算税は、税務署から指摘される前に自主的に行えば5%まで軽減されます。同時に延滞税も発生しますので、気づいた時点で速やかに申告を行いましょう。


■経費として計上できるものとできないものは?
基本的に「事業に必要な出費」「常識の範囲内」と認められたものは経費として計上することが可能です。
不動産投資であれば、

・ローンの金利
・管理委託料
・管理修繕費
・広告宣伝費、仲介手数料
・固定資産税などの一部の税金
・税理士や司法書士への報酬
・通信費
・交通費
・自動車関連費用
・交際費
・情報収集、勉強のための費用
・減価償却費

などは認められています。とはいえスマホなどを仕事と私用で兼用している場合、通信費及び購入代の全額を計上することはできません。交際費や交通費なども同様になります。
その一方で、

・スーツ、コンタクトレンズ代
・スポーツクラブなどの会費
・反則金、罰則金
・所得住民税など一部の税金

などは経費として認められていません。
“不動産投資を行うために必要な出費”であるのか、考えてみるとわかりやすいでしょう。


■税金を抑える方法は?
そもそも確定申告とは「1年の収入・支出を計算し、所得税の金額を計算するもの」であり、行うことで納める所得税を確定することになります。この所得税を抑えるには、経費計上できるものをすべて把握し、正しく計上することが最も有効な手段でしょう。中でも“減価償却費”は実際の支出を伴わない会計上のみのものであるため、これを有効活用し所得税を抑えるという方法があります。

また、青色申告を行い65万円の特別控除を受けるという手段もあるでしょう。
65万円の特別控除を受ける条件として、複式帳簿による記帳、貸借対照表・損益計算書の添付、期限内の申告などのほか、不動産投資の場合は「扱っている独立家屋が5棟またはアパートなどが10室以上」でなくてはなりません。
条件を満たしているのであれば、大きな節税になることは間違いないでしょう。


■領収書やレシートがない場合は?
確定申告では経費を証明するために、領収書やレシートなどは必須であることは上述の通りです。
しかし、保管しなければならないことを忘れて取っていなかった、または紛失してしまったというケースもあるでしょう。この場合、「支払いの事実を証明」できるものであれば良いのですから、交通費ならば電車やバスの乗車履歴、カードの利用明細書などがあれば代用が可能です。
それらもないのであれば出金伝票を購入し、書類作成者の名称と取引年月日、取引内容、取引金額を記載します。この4項目が記載されていれば証明することができるでしょう。


■確定申告書のAとBとは?
そもそも確定申告書Aは、主に所得が給与所得のみの会社員(パート・アルバイト含む)や、年金所得のみの年金受給者が使用するものです。通常であれば源泉徴収として所得税などが天引きされているため確定申告の義務はありませんが、給与以外で20万円の収入がある場合や、年間で2,000万円以上の給与を受け取った場合などにはこちらを使用して申告する義務が発生します。

確定申告書Bは、職業や所得の種類に関係なく使用することが出来ます。不動産所得を得た場合はこちらの申告書Bを用いることになります。
購入項目数が申告書Aよりも多く、より詳細記入が求められるのが大きな差です。


■事業専従者とは?
申告者の事業に携わっている配偶者や親族を事業専従者と言います。
通常、従業員への給与は経費として扱える一方、家族に支払う給与は原則として経費として扱うことは認められていません。要件として、申告者と生計を共にしている、15歳以上である、その年を通じて6ヵ月以上事業に専ら従事しているなどがあるものの、事業専従者として確定申告をすることで、経費算入することが可能となるのです。
ただし、経費算入した時点で配偶者控除や扶養控除が受けられなくなる点には注意しましょう。


■特定支出控除とは?
サラリーマンは必要経費を所得から控除することができないため、その代わりとなるのが「特定支出控除」になります。その年の給与所得控除額の1/2を占める支出がある場合に限り、越えた額を控除することが可能です。
支出ならばすべて認められているわけではなく、通勤費や転居費、研修費、資格取得費などの一部の経費のみに限られているほか、証明依頼書を項目ごとに作成し勤務先に捺印をしてもらう必要があります。


4. まとめ


不動産投資における確定申告の必要性と、その手順などについて解説しました。
家賃所得がそれほど多くないようであれば、確かに確定申告は必須ではありません。「ならば大変そうだしやらなくても良いだろう」と避けてしまう方も多いでしょう。家賃収入が少ないから、または赤字だから必要ないと考えてる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、確定申告は全員が行うことをおすすめします。
所得が増えて確定申告が必須な場合はもちろんのこと、損益通算を行うことによって節税効果を得ることができるのです。
はじめてだと特に難しく感じてしまうかもしれませんが、ぜひ確定申告を行って賢く節税しましょう。

小雪