不動産投資を始める際に、ほとんどの方が利用するのが“不動産投資ローン”です。
しかし、この不動産投資ローンの審査が以前よりも厳しくなり、さらに通りにくくなったという声が挙がっています。長く続く新型コロナの影響や不正融資の問題など理由はいくつもありますが、不動産投資家にとっては難しい状況になっていることは紛れもない事実でしょう。
そこで今回は、不動産投資ローンの概要から現状、融資審査に有利になりやすい条件までを解説します。

目次
1. 不動産投資ローンの概要
2. 不動産投資ローンの現状
3. 不動産投資ローンを利用する必要性とは
4. 審査で有利になる条件
5. まとめ
1. 不動産投資ローンの概要
不動産を購入する際、最も一般的なものは“住宅ローン”でしょう。
ですがこの住宅ローンは、不動産投資を行う場合には使用が認められていません。不動産を投資用物件として購入するのであれば、利用するローンは“不動産投資ローン(アパートローン)”と呼ばれるものになります。
まずはこの不動産投資ローンについての概要を押さえておきましょう。
■融資審査の基準は収支性と採算性
住宅ローンはその名前の通り、自分たちや家族が住むための「住宅」を取得するためのものです。
一方、不動産投資ローンは「利益」を生み出す物件を購入するためのものであり、事業性を持っています。事業資金として借り入れるのであれば、当然それが事業として成り立たなければいけません。不動産投資の場合、その返済原資は基本的に“家賃収入”になりますので、審査の基準は物件の「収益性」や「採算性」を重視するのです。
また金融機関は、ローンの支払いが不可能となった場合に備え、抵当権を担保にします。万が一の際には不動産の売却を行って融資金を回収するのですが、その時の売却値も収益性及び採算性が関わってくるため、この2つが低い不動産ではリスクが高いと判断される可能性が高くなるでしょう。
■融資額は個人属性の影響を受ける
もちろんですが、個人属性も影響しないとは言い切れません。中でも、借主(投資家)の本人の年収や職業、勤続年数などによって融資額に差が出ます。
一般的に高額融資が受けやすい職業としては、医師や弁護士、税理士といった師士業などのほか、公務員などが挙げられます。会社員なども収入が安定しているためこちらに含まれますが、中小規模のものよりも大手企業や上場企業などのほうが有利になるようです。
融資は返済することを前提にしているため、返済能力の有無を厳しく審査します。
安定した収入が見込める職業であるほど返済能力を有しているとみなされ、審査が通りやすくなるのです。
■金利設定は高め
住宅ローンと不動産投資ローンは、“不動産を購入するためのもの”であることは共通していますが、融資金利は不動産投資ローンのほうが高めに設定されています。
不動産の購入目的や返済原資が異なることは上述した通りであり、不動産投資は事業です。事業である以上は経営が滞り、失敗する可能性もゼロではないでしょう。入居者がいなくなれば、返済のための家賃収入を得ることが出来なくなってしまいます。
万が一のリスクに備えるため、金融機関は不動産投資ローンの金利を高く設定しているのです。
2. 不動産投資ローンの現状
不動産投資を始めるにあたって、必須ともいえるこの不動産投資ローン。
しかし、融資を受けるための審査が厳しくなっているというのは、紛れもない事実でもあります。
その原因と考えられているものはこちらです。
■融資引き締め
相次ぐ銀行の不正融資問題、建設会社による偽装建築問題などの影響を強く受けていることが挙げられます。
さらにはバブル再来への期待感や相続税の改正などにより、不動産投資への注目度が一気に上昇。これに目をつけた金融機関がこぞって不動産投資への融資を行った結果、供給過多を起こしたことも理由に含まれるでしょう。
金融庁はこの状況を鑑み、厳重な監視を行うようになったというわけです。
■新型コロナ
新型コロナウィルスは各金融機関にも大きな影響を与えています。
しかしこれはコロナ不況を理由としたものではなく、多くの金融機関ではテレワークの一部導入など勤務体制の変更が行われたことから、審査や手続きに時間がかかるようになった、というのが現状でしょう。
とはいえ、融資方針を変更した金融機関も一部あることから、全体として引き締め状態が継続していることは確かです。

3.不動産投資ローンを利用する必要性とは
ローンは借金であると考える人も多いため、出来るだけ組みたくないと考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、不動産投資において融資を受けることはデメリットではなく、メリットになり得るものです。
■手早く資産を増やせる
大抵の方はまずは手頃な物件の購入から始めることがほとんどです。その利益を次の物件の購入費に、と思っている方も多いかもしれません。しかし、不動産投資に慣れるという意味ではそれでよいかもしれませんが、規模の拡大と資産の増加を狙うのであれば、その方法ではかなりの時間を要することは簡単に想像できるでしょう。
実際にはたとえ自己資金が潤沢にある場合でも、ローンを利用して購入する人がほとんどになります。融資を受けることで購入可能な物件の幅を広げるだけでなく、それぞれの物件への自己資金の割合を抑えて次への物件購入費に充てることで、所有物件と資産を一早く増やすことができるようになるのです。
■自己資金額に左右されない
不動産は高額な商品ですから、当然初期投資金も高額になります。
ローンが利用できるのであれば、自己資金が少ないという問題も解消することが可能です。ローンを利用するという手段は株や投資信託などでは存在しておらず、不動産投資ならではのメリットであるとも言えるでしょう。
■家賃収入があれば返済も容易
住宅ローンは毎月の給与から返済するのが基本ですが、不動産投資ローンの場合は賃貸物件を所有しているため、その入居者から得られる家賃収入を返済に充てることが出来ます。つまり、物件価格が高額のものでも相応の家賃収入が得られると評価を得ることができれば、ローンを組むことができるのです。条件の良い物件であれば、利益を出しながら返済することも不可能ではないでしょう。
とはいえ、入居者から毎月確実に家賃収入が得られるという保証はありません。空室や家賃滞納、災害などが発生し収入が減る可能性も否定できないのです。最悪、家賃収入がなくなるというリスクを念頭に入れておく必要があります。

●フルローンは利用できる?
フルローンとは、頭金なしに投資物件の購入費すべてをローンのみでまかなうことを指します。
そうすることで自己資金を手元に確保したまま運用を始めることも、またはレバレッジ効果を最大限生かすことも可能でしょう。また当然、頭金の準備時間も必要ないため、魅力的な物件を逃すこともありません。
しかし上述の通り、融資審査の厳格化によってフルローンを利用することは非常に難しくなっている状況です。一部の限られた金融機関では審査評価や賃貸経営の実績次第では利用が出来る場合もありますが、それ以外のほとんどは頭金の投入を求めらます。残念ながら、まったくの初心者がフルローンを利用することは、現状ではまず不可能であると考えたほうが良いかもしれません。
4. 審査で有利になる条件
融資を受けるのが難しくなったとは言っても、金融機関はお金を貸したくないわけではありません。条件を満たしているのであれば、むしろ融資したいと考えているのです。
では、その条件とはどのようなものなのでしょうか?
■収入が安定している
不動産は高額ですから当然その融資額も高額であり、返済期間も長期に渡ります。そのため、金融機関はもしもを考えて「契約者本人の収入が安定しているか」を判断するのです。
公務員や師士業、会社員などは収入が安定した職業であり、社会的信用度も高いため評価が高くなります。
例えば、芸能人や作家、自営業や農業、漁業従事者などの一部は高収入を得ている方もいらっしゃるでしょう。しかしこのような職業は収入に波があり、安定性に欠けると判断されることがほとんどです。
また、転職回数が多い、転職直後などは同じように「不安定である」とみなされる傾向があります。
■現金保有資産が多い
金融機関は“万が一”に備え、現金保有資産も必ず確認します。現金資金が乏しければ突発的なトラブルに対応することが難しくなるため、リスクが高いと評価されるためです。地主や資産家、多くの物件を所有している不動産投資家などであれば、金銭的な心配はほとんどないため有利であると言えるでしょう。
それ以外の場合でも、貯蓄が多ければ“堅実な貯蓄が可能である”という印象を与えられますので、評価はプラスになります。
■借入金が少ない
住宅ローンや車のローンなどの借入れ件数が少ないほうが当然有利です。
借金がほとんどなければ返済能力が高いと判断され、印象も非常に良くなるでしょう。
借入先があまりにも多く、さらにそれぞれの限度額が少額であった場合、「現時点で資金繰りに困って借りている」とみなさる可能性も否定できません。不動産投資は計画性を最重視しなくてはなりませんから、融資するのにふさわしい相手であるのか疑問を持たれてしまうでしょう。
借入れ可能な金額も年収を基準とした条件があるため、希望金額で融資を受けることも難しくなります。
■健康上の不安がない
ローンが返済できるのは健康ならではのこと。病気で働けない状況になった、または亡くなってしまった場合、金融機関は融資金の回収が出来なくなってしまいます。つまり、病歴や持病がある人は大きなリスクであり、審査では不利になります。
団体信用保険も存在していますが、こちらも告知事項に指定されている持病があると加入することができません。健康上の不安がなければ問題なく加入できるため、融資審査でも有利となりやすいのです。
5. まとめ
現在の不動産投資を取り巻く状況と不動産投資ローンの現状、融資審査で有利になりやすい条件などについて解説しました。
現時点では、不動産投資ローンの融資を受けることは厳しい状況が続いていると言えます。
しかし不動産投資を行う上では不動産投資ローンは必要なものでありますし、金融機関側も融資をしたくないということではありません。個人属性を分析して高めた上で、条件の良い投資物件選びが出来れば、問題なく融資を受けることができるでしょう。
また、金融機関によっては審査の条件も基準も異なります。自分の属性にあった金融機関を選ぶことによって、すんなりと審査が通る可能性も少なくないのです。
確かに、以前よりも融資を受けるのは難しくなったということは否定できません。が、それだけの理由で不動産投資をあきらめてしまうのは早計です。不動産投資で安定した無理のない資産運用を行うためにも、ぜひ積極的に融資審査に挑んでみてはいかがでしょうか。
小雪
