不動産投資ローンを利用して不動産投資を始めようと考えている場合、気になるのが“連帯保証人”ではないでしょうか。連帯保証人には大きな責任が課せられることになるため、親族や知り合いに頼みたくても気が引けてしまう、断られたらどうしようと思っている方も少なくないでしょう。

しかし不動産投資ローンの場合、現在では連帯保証人を立てることは必須ではありません。
そこで今回は、連帯保証人の基礎知識からその内容、連帯保証人を求められるケースや立てることによるメリットとデメリットまでを解説します。



目次
1. 連帯保証人の基礎知識
2. 保証人と連帯保証人の違い
3. 連帯保証人が必要とされるケースと条件
4. 連帯保証人を立てることによるメリットとデメリット
5. 連帯保証人を立てずにローンを組む方法
6. まとめ

1. 連帯保証人の基礎知識


基本的に金融機関などから大きな金額を借り入れる場合、「連帯保証人を立てる」ことを条件にしているケースも多いです。
この場合の連帯保証人とは、債務者(借主)がローンの返済義務の履行が不可能となった際に、代わりに返済義務を負う人を指します。債権者(貸主)が確実に債権を回収できるよう、連帯保証人に対しても債務者と同じように請求することができるのです。

不動産投資の場合は借り入れる金額も相当な額になりますから、基本的に不動産投資ローンは連帯保証人が必要であると考えられてきました。ですが2020年に行われた民法の改正により、現在では連帯保証人を不要としている金融機関が増加しています。
とはいえ、金融機関によっては連帯保証人を立てることを求められることもありますし、条件によっても連帯保証人の有無はまた異なります。不動産投資ローンにおいては連帯保証人は全員が必須ではないものの、状況に応じて必要となるケースがある、と言えるでしょう。


2. 保証人と連帯保証人の違い


似たような立場に「保証人」というものがありますが、これは「連帯保証人」とはまた別のものになります。
その違いはどのようなものなのでしょうか?


■保証人
保証人とは、「債務者がローンの返済を行えなくなった時、その代わりに返済する義務を負う人」になります。
ここまでは連帯保証人と同じではありますが、その違いとして保証人には“3つの権利”が認められています。

まず1つ目は“催告の抗弁権(民法452条)”であり、債権者が保証人にローンの返済を求めてきた場合に、債権者に対して「先に借りた本人(債務者)に返済を要求してください」と主張することができるのです。
ただし、債務者が破産手続きの開始決定を受けたり、行方不明である場合は、この権利は消滅してしまい2度と行使することができません。

そのため、保証人に与えられた2つ目の権利として、“検索の抗弁権(民法453条)”が与えられています。
保証人が「債務者に返済能力(資力)がある」と立証した場合、債権者は保証人にではなく、まず先に債務者に請求しなければなりません。保証人は債務者の財産に対し、強制執行を行うよう主張することも可能となっています。

2つの権利を行使しても債務者からの返済がされなかった場合、保証人には支払いの義務が発生します。
この際、保証人が複数いる場合は、誰か1人のみではなく保証人の頭数で割った金額での支払いとなります。分割した金額だけを支払えば良く、残りの額については責任を負う必要がありません。これを“分別の利益(民法456条)”と言い、保証人が持つ3つ目の権利となります。


■連帯保証人
連帯保証人には、保証人に与えられているような権利が一切存在していません。名前には同じように“保証人”とついているものの、“連帯”がついているか否かでその責任の範囲は大きな差があり、連帯保証人のほうが非常に重い責任を背負うことになります。

債権者は、債務者でも連帯保証人でもどちらでも支払いを請求することが可能です。そのため、連帯保証人から取りやすいと判断すれば、債務者を飛ばしていきなり連帯保証人に対して返済を求めることも出来ます。債務者の支払いが滞った時点で、その返済能力の有無を問わず連帯保証人に返済の責任と義務がありますし、たとえ複数の連帯保証人がいたとしても、分別の利益の権利もないため請求された人が全額を保証しなければなりません。

つまり「連帯保証人=債務者」の同様の扱いであり、保証人とは大きく立場が異なります。
保証人ではなく、連帯保証人を立てることを求められた場合、この違いをしっかりと把握しておく必要があるでしょう。




3.連帯保証人が必要とされるケースと条件


民法改正により、不動産投資においては連帯保証人は不要になりつつあります。
とはいえ、金融機関によっては連帯保証人が求められることもあることはお伝えした通りです。

結論から言ってしまえば、金融機関に「リスクが高い」と判断さた場合は、連帯保証人を立てることを融資の条件にします。
不動産は高額なものであり、借り入れる金額も相当なものとなることがほとんどでしょう。債務者が返済不能になってしまったら、貸した金融機関側は大きなダメージを受けることになります。そのようなリスクを避け、万が一の時でも債権回収できるように、金融機関は連帯保証人の基準を設けているのです。

また、“不動産投資ローンの連帯保証人”になり得る人の条件として、そのローンで購入した不動産の“共有者”や“法的相続人”であることが挙げられます。ほとんどのケースでは、ローン契約者(債務者)の配偶者が連帯保証人として立つことになるでしょう。
この場合であれば、もし債務者が亡くなったとしても、連帯保証人の返済義務が消滅することはありません。
通常では相続放棄を行うことで負の遺産も消滅しますが、法定相続人が連帯保証人になっているのであれば契約は引き続き有効であり、たとえ相続放棄の手続きをしたとしても、支払いの義務から逃れることはできないのです。
金融機関は相続放棄による貸し倒れを防ぐために、配偶者などを連帯保証人に立てるよう求めるのです。

では具体的に、連帯保証人を立てることを求められるケースはこちらになります。


■個人属性の評価が低い
不動産投資ローンの契約者(借主)の審査時に、個人属性の評価が低いと判断された場合は、連帯保証人が必要となることがあります。
金融機関は主に「安定性」を求めるため、契約者の年収などを中心として審査する傾向が強くなっています。例えば、勤務先の会社が小規模であったり、大規模でも勤続年数が短い場合は、不安定であり貸し倒れのリスクが高いと判断され、連帯保証人が求められることになるでしょう。


■返済比率が高すぎる
返済比率とは、年収に占めるローンの年間返済額の割合であり、返済比率が低ければゆとりがある返済とされています。
不動産投資においては、理想では40%程度、一般的には50%が安全な返済比率のラインと言われています。ローンの支払いに加えて、不動産投資には多くの経費や税金が発生するため、それらに対応できるだけの資金には余裕がなくてはなりません。
その必要ラインが50%であり、これを超えている場合はリスクが高い不動産投資であるとみなされるのです。


■借入対象不動産の評価が低い
借入対象不動産の価値や収益性も重視され、これらが低い物件はリスクが高いとみなされます。
不動産投資ローンは収益物件のためであり、利益を上げる力を有していなければなりません。収益物件としての価値が低ければ、不動産経営が破綻する可能性も高くなりますし、万が一の時には売却を行っても貸付金額に満たないことも考えられるでしょう。


4. 連帯保証人を立てることによるメリットとデメリット


悪いイメージばかりが先行している連帯保証人ですが、立てることによって得られるメリットも少なからず存在しています。
デメリットと併せて詳しくみていきましょう。


■メリット
連帯保証人の属性によっては、金利が安くなる可能性があります。
もちろん誰でも良いということはなく、配偶者や子どもで事業継承の見込みがあった上で、個人属性が高い場合に限りますが、低い金利で融資を受けられるというのは非常に大きなメリットでしょう。
また、収入のある配偶者を連帯保証人にした場合は、夫婦の合計収入でローン審査が行われるため、審査に通りやすいという点も挙げられます。


■デメリット
連帯保証人を「立てるメリット」はあっても、連帯保証人に「なるメリット」というものは存在していません。ローン契約者側のメリットはあっても、連帯保証人側のメリットはひとつもないため、どれだけ信頼のある関係性であろうとも非常に頼みにくいということは間違いありません。たとえ配偶者であっても、拒否されてしまうことも考えられます。
どうしても連帯保証人を立てなくてはならない、というのであれば、連帯保証人側のリスクを可能な限り軽減するだけの自己資金を用意しておく必要があるでしょう。




5. 連帯保証人を立てずにローンを組む方法


金融機関に連帯保証人を立てることを求められたけれど、配偶者や親族に負担をかけたくない、断られてしまったというケースは非常に多いでしょう。また、独身の上に親族とは疎遠にしている、頼れる関係ではないという方もいらっしゃるかもしれません。
このような状況でも、不動産投資ローンを利用することは不可能ではありません。
連帯保証人を立てずにローンを組む方法はこちらになります。


■団体信用生命保険を利用する
まずは、団体信用生命保険(通称団信)に加入するという方法になります。
団体信用生命保険とは、ローンの契約者に万が一のことが発生した時に、保険金によって残りのローンを弁済する保障制度です。
ローンの契約者を被保険者として、金融機関と生命保険会社が契約を結ぶもので、被保険者(契約者)が死亡もしくは高度障害状態に陥った場合は、その時点でのローン残債が金融機関に支払われることになります。それにより、契約者(またはその家族)にはローンが完済した物件が手に入るのと同時に、金融機関側にとっても資金が回収できるため、貸し倒れを防ぐことができるのです。
住宅ローンではこの団体信用生命保険への加入が利用条件に含まれていることがほとんどですが、不動産投資ローンの場合は基本的に必須ではありません。が、もちろん加入が前提の金融機関も存在していますし、状況に応じて加入を求めれられることもあるでしょう。

団体信用生命保険の保険料はローンの金利に含まれるため、加入することで金利は上がってしまいますし、融資金額にも上限が設けられているというデメリットもあります。また、“生命保険”である以上、加入時の健康状態が良好である必要がありますので、利用できないケースもあることを忘れないようにしましょう。


■法人を設立する
もうひとつが、法人を設立するという方法になります。
法人を設立することで法人の代表となり、自分自身が保証人となることで融資を受けることを可能にする方法です。
この方法のメリットとしては、連帯保証人が不要になるのと同時に、法人青色申告を行うことで欠損金(赤字)を最長10年繰越せる、減価償却が任意になるなどが挙げられます。実際に法人化を行うには多くの決定事項や手続きを必要としますが、それを上回るメリットがあることは見逃せません。

しかし当然ですが、設立費用や維持費が必要になるといったデメリットもいくつか存在していることも事実です。
法人化には適切なタイミングがあり、場合によっては損をしてしまう可能性も否定できないため、安易に行わず慎重に判断する必要があるでしょう。


6. まとめ


今回は、連帯保証人の基礎知識と役割から、必要とされる条件、連帯保証人を立てることによって得られるメリットとデメリット、さらには連帯保証人を立てない方法までを解説しました。
不動産投資にかかる費用は大きいため、融資を行う側も慎重になりますし、できるだけリスクを回避したいと考えるのは当然のことでしょう。金融機関が連帯保証人を立てることを求める“理由”はしっかり存在しているのです。

とはいえ、連帯保証人を「引き受ける側」にはメリットがないことも忘れてはいけません。たとえ引き受けてくれた場合でも、対策を行った上で役割やリスクなどをしっかりと説明し、きちんと理解してもらうことが何よりも重要なのです。

小雪