新型コロナウイルスの影響によって、生活様式に大きな変化が見られています。働き方も例外ではなく、仕事に関する考え方や対応なども大きく変わりました。かつては「65歳で退職し、退職金と年金で悠々自適な生活を送る」というのが“理想のひとつ”でしたが、最近では新たなるライフスタイルとして「FIRE」が注目され始めています。
しかし何となく聞いたことはあっても、「早期リタイアとどう違うのか」、「老後資金はどうなるのか」など、多くの不安と疑問を持っている方もいらっしゃるでしょう。

そこで今回は、「FIRE」を実現するためにはどうすれば良いのか、メリットから成功に至るまでの手順までを解説します。



目次
1. FIREの意味と考え方
2. FIREを成功させるには
3. FIREのメリット
4. FIREのデメリット
5. FIREを目指す手順
6. FIRE実現に不動産投資が最も良い理由
7. FIREを不動産投資で実現するための注意点
8. まとめ

1. FIREの意味と考え方


「FIRE」とはそのままファイアと読みますが、火という意味ではなく、「Financial(財政上の) Independence,(独立) Retire(退職) Early(早期)」の略です。つまりFIREとは単なる早期リタイアではなく、「経済的に自立している」ことが大前提になります。

元々アメリカ発祥の考え方でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって「毎日、早朝からオフィスに出社して遅くまで働く」というスタイルが大きく揺らいだことをきっかけに、日本でも徐々に浸透しているのです。


■早期リタイアと異なる点
早期リタイアとFIREは、どちらも定年を待つことなく仕事から離れるという点では同じものの、退職後の生活に差が出てきます。通常の早期リタイアの場合、その後の生活を支える資金は退職金・年金、さらにそれまでに貯めた貯蓄になります。退職後は年金以外の収入はゼロになり、少しずつ切り崩して生活していくことになりますので、老後に資金が底をつくことがないよう多くの貯蓄を用意しなくてはなりません。

その一方でFIREはお伝えした通り、「経済的な自立」が絶対条件です。投資などによって不労所得を得る仕組みをあらかじめ作っておき、リタイア後はその収益で生活費を賄うことになります。退職後も資産運用は必須となりますが、貯蓄を切り崩す必要なく生活ができるので、通常の早期リタイアのように高額な資産を蓄えておく必要がないのです。


2. FIREを成功させるには


とはいえ通常の早期リタイアほど高額な貯蓄は必要ありませんが、FIREを実現するのであれば一定の資産は必要になります。
FIRE成功のためには「年間支出の25倍の資産」とされているのです。

例えば、生活費として月額25万円を必要としているのならば、年間支出は300万円となり、この25倍となる7,500万円の資産が必要となります。もちろん生活スタイルや家族構成、さらには生活地域によっても必要額が異なりますので、自分の状況に当てはめて必要額を計算する必要があるでしょう。


■FIREの4%ルール
なぜ年間支出の25倍の資金なのかというと、その理由は「4%ルール」が元になっています。
FIRE実現後の生活費は、上述した通り“不労所得”です。その不労所得を得るための“元本”として必要な資金が「年間支出の25倍」とされているのです。

4%ルールとは「年間支出の25倍の投資元本が確保できれば、年利4%の運用益で生活費を賄える」というアメリカ発祥の理論から来ています。つまり、生活費を投資元本の4%以内に抑えることが可能なら、蓄えた資金が減ることなく生活することができるということです。
7,500万円の資金元本さえあれば、年4%の運用で年間300万円の運用費が得られますので、ひと月当たり25万円以内に生活費が抑えられればFIREは成功となるでしょう。




3.FIREのメリット


FIRE達成の条件と必要な資金を踏まえた上で、FIREを行うことによって得られるメリットを見てみましょう。


■仕事にとらわれない
会社に縛られなくなり、自分がやりたいことを選べるようになります。
勤めることをやめ、通勤や人間関係によるストレスから完全に離れるのも良いですし、「働くことが好き」というのであればそのまま勤めるという選択肢もあるでしょう。生きていくための生活費の確保はできているため、無理をせず本当にやりたい仕事だけをすることも可能です。


■自由に時間を過ごせる
一般的な会社員であれば通常1日8時間で週5日働き、場合によっては残業や休日出勤もあるでしょう。
FIREは資産運用は必要なものの、それ以外は自由に過ごすことが出来ます。始業時間に合わせて早起きすることも、混雑した通勤ラッシュのストレスにさらされることもありません。


■住む場所に縛られない
近年ではテレワークという働き方が普及されつつありますが、完全テレワークという会社は依然として極少数派です。週に何回かは会社に向かわなければならなかったり、中には導入されなかったというところも多いでしょう。転勤というものが必須であり、住むところを会社に決められてしまう業種も存在しています。
FIREを成功させることが出来れば、そのようなしがらみから一気に解放されることになります。生活の利便性を考えて都会で暮らすのも、自然豊かな田舎へ移るのも、好きな観光地の近くに住むのも、海外で自由に生活するということもできるのです。


4.FIREのデメリット


会社というしがらみから解放され、自由な生活を送ることができるようになると考えられているFIREですが、やはりデメリットがないというわけではありません。
次に、FIRE達成後の注意点を見てみましょう。


■4%の継続難易度の高さ
投資に「絶対」はありません。たとえ“年間4%で生活できる”という考え方はあっても、これが続く保証はないのです。
場合によっては元本割れする可能性もあるため、状況に応じて資産の切り崩しを行う必要がないとは言い切れません。


■破綻のリスク
綿密な計画を立てた上でのFIREであり、最初は成功していたとしても“何か”がきっかけで破綻してしまうリスクはゼロではないでしょう。
例えば、世界の経済状況の変化、保険料や税金の増額、災害、自分や家族の病気・事故、金利の増額などによって、生活が出来なくなってしまう可能性も否定できません。「もしも」を想定し、余分に資金を用意しておきたいところです。


■キャリアが止まる
退職してしまえば、当然ですがそれ以上キャリアを積むことができません。FIRE後の生活が順調に続くのであれば問題ない話ですが、破綻して再就職をしなければならなくなった場合、再就職が難しくなるでしょう。年齢が高くなるほど、働いていない期間が長くなるほど、再就職はしづらくなります。
そのため、FIRE後もある程度の仕事を続けたり、または新たな資格やスキルを得ておくと安心できるかもしれません。




5.FIREを目指す手順


FIREを実現のためには「年間支出の25倍の資金」が必要であるとお伝えした通りです。
ここからはFIREを目指すための手順を簡単に解説します。


■毎月の生活費を把握する
FIREを目指すためにはまず、ひと月あたりの支出の把握から始まります。居住費をはじめ、光熱水費、食費、交際費、雑費など、自分がどれだけのお金を使っているのかはっきりと数字として出します。手書きでも良いですし、エクセルや家計簿アプリなどを用いても構いません。

この時点で計算できた支出は「今現在」の支出になります。現在では必要でも将来的には不必要になる出費もありますし、増えていくものもあるでしょう。現在の貯蓄額も含めローンの有無、子どもがいる場合は成長に伴い費用が嵩みます。また、今は両親が健在であっても、介護が必要になった場合を想定しその費用も備えなければなりません。基本的には歳を重ねるにつれ、毎月の支出は増えていく傾向があります。
この生活費をもとに不要な部分は削り、FIRE後に求める生活レベルを想定して計算しましょう。


■目標資産額を計算する
毎月の支出額を計算することが出来れば、目標資産額を出すことが出来ます。上述した通り、FIRE成功のためには「年間支出の25倍の資産」が必要です。毎月の支出額が20万であれば年間支出は240万円になりますから、目標資産額は6,000万円になります。毎月の支出額が30万ならば年間支出は360万円になり、目標資産額は9,000万円となるでしょう。
この際、もしもの場合に備えて、ある程度余裕を持たせた資産額にしておくことをおすすめします。


■目標額を貯めるために資産形成を行う
いよいよ目標額まで資産を築くことになります。FIRE達成のためには「毎月収入が得られる仕組みを作る」必要があるからです。節約や副業などという手もありますが、効率を求めるのであれば本業と並行できるこれらの投資が最も有効な方法でしょう。

・株式投資
株式会社が発行する“株券”を売買または保有し、売却益や配当金などの利益を得る投資法です。自分で銘柄を選び好きな額を投資できる点が魅力で、少額からスタートすることもできます。
株式は流動性が高いため、現金化しやすいのも株式ならではのメリット。もしもが発生した際、すぐにまとまった資金にすることも可能です。中には、企業が株主に自社サービスや商品などをプレゼントしてくれる「株主優待」という制度を行っている企業も多く存在しています。

ただし、株式市場は経済の影響を大きく受けやすいという点があります。企業実績の悪化はもちろん、リーマンショックやコロナショックのように大きな経済変動が発生した場合、株価が大暴落し大きな損失が出る可能性があるでしょう。

・不動産投資
所有する不動産を第三者に貸し出し、その賃料を利益として受け取る投資法です。購入金額よりも高値で売却して売買差益を得る方法も存在していますが、土地の下落や低迷が続いている近年ではリスクがとても高いため、期待することはほとんどできません。
不動産は非常に高額ではあるものの、不動産投資ローンなどを利用することで自己資金を超えた多額の投資をすることができるでしょう。

もちろん空室リスクや家賃下落リスク、災害リスクなどといった不動産特有のリスクなどのほか、不動産は流動性が低いため、即現金化が難しいというデメリットは存在しています。ですが、基本的に超長期投資であり、経済変動や世界情勢の影響を受けづらいとされていることから、特にFIRE向けの投資とも言えるでしょう。


6.FIRE実現に不動産投資が最も良い理由


もちろんFIREの実現の方法は一つではありませんし、ご紹介した2つの方法以外で目標資産額を達成しても問題ありません。ですが、やはり総合的に見た場合は不動産投資が最も良い手段といえるでしょう。その理由はこちらです。




■レバレッジ効果を活かせる
レバレッジとは「てこの原理」のことであり、小さな力で大きなものを動かすこと。不動産投資におけるレバレッジとは、金融機関の融資を活用し大規模な投資を行うことで、自己資金のみで運用するよりも大きな利益を生み出すことを指します。

例えば、自己資金が1,000万円のケースで考えてみましょう。
そのまま1,000万円で利回り10%のマンションを購入した場合、年間の家賃収入は100万円になります。
その一方で、自己資金に加えて4,000万円を金融機関から借り入れて5,000万円のマンションを購入すれば、同じ利回り10%の場合でも年間の家賃収入は500万円になるのです。
もちろんローンには利息がありますし、家賃収入全てが収益になるわけではありません。とはいえこの差はとても大きいでしょう。FIREを実現したいのであれば、投資の規模拡大は必須になります。レバレッジをうまく活かせる不動産投資であれば、自己資金が少額であろうとも早期から取り組むことが可能なのです。


■経済影響を受けにくい
株式投資などは短期投資であり、大きな利益を短期間で生み出すことも可能な一方、価格が急落し損失を出す可能性もあります。中~長期投資も可能ですが経済影響をダイレクトに受けやすいため、状況によっては資金を失うことも否定できないでしょう。

不動産投資の場合、不動産の価値が急激に乱高下するということはほぼありません。入居者がいる限りは毎月安定して収入を得ることが出来ます。特に都心部であれば賃貸ニーズが一気に落ち込むということもなく、実際コロナ禍においてもそれほど大きな影響を受けなかったという実態があるのです。


■不動産を自ら管理する必要がない
不動産は形があるので、維持のための管理が必要になります。入退去から募集、入居者のトラブル対応まですべて自分でこなす“自主管理”と、賃貸経営にまつわるすべての業務全般を管理会社に任せる“管理委託”が存在しており、どちらも自由に選ぶことが可能です。他人に運用を任せることができるという点は、他の投資方法にはないものでしょう。
委託料を支払う必要は出てくるものの、運用や経営に悩むことなく収入を得ることもできますので、軌道に乗せることが出来ればまさに「FIREを実現した」と言えるかもしれません。


7.FIREを不動産投資で実現するための注意点


いくらFIRE実現には不動産投資が良い方法とは言っても、何も考えずに始めても問題ないというわけではありません。FIRE実現のためには大きな資産形成が必要であり、そのためには綿密な計画が必須になります。
FIREを不動産投資で実現する際の注意点を見ていきましょう。


■早めに不動産投資に着手する
何度もお伝えした通り、不動産投資は長期~超長期投資です。短期的に大きな利益を得るということはほとんど不可能であり、数年や数十年かけて少しずつ利益を得ていく方法になります。また、不動産投資に欠かせない不動産ローンですが、これは退職してしまうと新たに組むことが難しくなるため、こちらも退職前に組まなくてはなりません。
さらに安定した収入を得たいのであれば「不動産投資の経験」も一定以上必要になりますので、慣れるという意味でもできるだけ早めに着手することをおすすめします。


■物件選びは慎重に
不動産投資の成否は「物件選びにある」と言ってしまっても過言ではありません。
安定した収入を得るためには入居者がいることが大前提であり、空室が発生してしまえばその分収入減してしまうでしょう。空室対策として最も重要なのは、賃貸需要の高い物件を選ぶこと。周辺環境や最寄り駅の状況、距離などのほか、現在だけではなくエリアの将来性も加味する必要があります。
物件の内装や設備は後からでも変更・追加することも可能ですが、立地の変更をすることはできません。十分に吟味することが重要と言えるでしょう。


■規模の拡大は必須
副業程度の不動産投資であれば拡大はそれほど必要ありませんが、FIREを目的とした場合ならばある程度の規模の拡大は必須です。とはいえ、不動産投資では短期的に大きな利益を得ることはできませんから、急激な拡大が難しいのと同時に、非常にリスクが高い行為になります。
少しずつでも経験と実績を積み重ねていけば、運用も軌道に乗りますし信用も高まるでしょう。借入過多にならないよう、焦らずじっくりと規模を拡大していきたいところです。


■情報収集は欠かさない
維持管理は委託できるという点が不動産投資ならではのメリットですが、最終判断はオーナーが行う必要があります。すべてを管理会社任せにするのではなく、しっかりとした知識を自身が持って判断しなければなりません。また、購入する投資物件も専門家の言葉だけを鵜呑みにするということは絶対に避け、本当に購入するべきなのか自分の目で見極めるようにしましょう。そのために必要なのは知識であり、情報収集なのです。


8.まとめ


今回は、FIREについて解説しました。
会社に頼ることなく、経済的に自立し自分らしく生きていくライフスタイルとして、今現在注目を集めているFIRE。FIREを効率的に目指すためには、長期的に資産を形成できる不動産投資を選ぶのがおすすめです。始めるための資金が少額でも問題ない上に経済影響も受けにくく、またFIRE前はもちろんのこと退職後も管理を任せることができるため、運用や経営に悩むことも少ないでしょう。

しかし、投資である以上は必ずしも望む収益を得られる保証はありませんし、発生するリスクには備えなければなりません。そのためには目標をしっかりと設定し、そこに至るまでの道筋をシミュレーションする必要があります。
とはいえ、いきなり綿密な戦略を立てるのは難しいもの。安定した自由な生活のために、最初はまず大まかな計画を立てるところからスタートすると良いでしょう。

小雪