不動産売買におけるIT重説の本格運用がスタートしてから約1年が経過しました。さらに2022年5月18日からは電子書面でのやり取りも可能になったことによって、これまで以上に利便性が増したようです。今後さらに活発化していくことが予想されているものの、いまだ“IT重説”の認知度は低く、それほど知られていないのが現状でしょう。

そこで今回は、今さら聞けない重要事項説明の基礎知識からIT重説がどういったものなのかをはじめ、不動産投資にどのような影響を与えているのかを解説します。



目次
1. 重要事項説明とIT重説
2. IT重説のメリット
3. IT重説のデメリット
4. 不動産投資におけるIT重説解禁の影響
5. まとめ

1. 重要事項説明とIT重説


IT重説とは何かを知る前に、まずは重要事項説明のほうを再確認しておきましょう。
そもそも重要事項説明(以下、重説)とは、宅地建物を取引する契約の前に、国家資格を所有した“宅地建物取引士”が“購入希望者”または“入居希望者”に対して行う説明を指します。対象物件の利権関係や制限、属性などが記された重要事項説明書を用いたこの説明は、宅地建物取引業法第35条に規定されているため行うことは必須となっています。

重説は「宅健士との対面による口頭説明」が従来の条件であったため、取引を行う当事者本人が物理的に移動する必要がありました。そのため、忙しくて時間を取るのが難しい方や足腰に不安がある方などにとっては非常に負担が大きいものであったことは否定できないでしょう。
この問題を解決するため、インターネットを介して重説を行う「IT重説」が解禁されたのです。


■賃貸契約におけるIT重説
2017年10月からIT重説は可能になったものの、当初は賃貸物件の取引のみに適用されていました。
重説のハードルが下がった分だけ契約のチャンスも増加するため、物件のオーナーとしては空室率の改善など利点があった一方で、売買取引に関しては対象外であり、引き続き対面による重説が行われていたのです。


■売買契約におけるIT重説
その後「個人間の不動産売買契約にもIT重説を」という傾向が強まった結果、2019年10月には売買契約における社会実験を実施。2,000件を超えるIT重説が行われましたが、結果としてそれほど目立ったトラブルは発生しなかったため、2021年4月より売買契約でもいよいよ本格的なIT重説の運用がスタートしました。

とはいえ、書面のデジタル化は認められていなかったため、記名捺印を手で行う必要があったりと、その不完全さが問題ではありました。しかしその後2022年5月に改正法が施行され、電子書面でのやり取りも可能となった結果、現時点では完全にITのみで済ませることも可能となったのです。


2. IT重説のメリット


では具体的に、IT重説のメリットとしてどのようなものがあるのでしょうか?
対面形式ではなく、インターネットを利用したIT重説を行うことによって生じるメリットは以下のようなものが挙げられます。


■移動コストの削減
ここまでにもお伝えした通り、IT重説の最大のメリットと言えるのは「移動の負担が減る」といった点でしょう。
例えば遠方の不動産を購入を希望する場合、重説の際には必ずそちらへ向かう必要がありました。その移動コストは決して低いものではなく、遠ければ遠いほど負担自体も大きなものになります。
IT重説を利用することで、このような移動コストと負担を削除して取引できるというのは非常に大きなメリットになり得るでしょう。


■日程調整の難易度低下
不動産取り引きで最も手間取る作業が、この重説のスケジュール調整ではないでしょうか。
時間的余裕がある方ならばそれほど問題にならない一方で、副業として不動産投資を行っている会社員や、小さな子供連れの場合などは特にハードルの高いものでありました。
IT重説であれば日程調整が比較的柔軟になるため、日程を合わせるために仕事を休んだり、託児所に預ける必要もないのです。



■落ち着いた状態で臨める
不動産投資に不慣れな初心者などの場合、重説の際に緊張してしまうというのは非常に多いケースです。
とりあえずその場は切り抜けたものの、自宅に戻ってから疑問点や質問が浮かんできたというのもめずらしくありません。
自宅など見慣れた環境からIT重説を行うことによって、ゆったりと緊張感なくやり取りすることができるでしょう。さらにIT重説では、事前に重要事項説明書を送付しなければならないため、事前に説明書を読むことである程度準備することができるという点も大きいかもしれません。


■本人への説明が可能
これまでは購入希望者が宅健士の元へ出向き、重説を受けるのが基本ではありましたが、購入希望者が要介護者などで移動が難しい場合は、代理人を立てなくてはなりませんでした。
しかしIT重説であれば、そのような方であっても直接説明を受けることができるようになったのです。もちろんそのための周囲の協力も必須ではあるものの、代理人を利用することによるトラブルを避けることができるでしょう。


3.IT重説のデメリット


メリットが大きいIT重説とはいえ、やはりデメリットが存在しないわけではありません。
IT重説のデメリットはこちらになります。


■インターネット環境が必須
IT重説の大前提として、「インターネット環境」が整っている必要があります。
近年ではテレワークやオンライン授業などが一般化していますし、スマホ所有率も年々増加しているため、インターネット環境が全くないというケースは少ないかもしれません。しかし接続環境やスペックによってはまともなやり取りができない可能性も否定できないでしょう。
正式運用に先駆けて実施された社会実験でも、音が出ない、画像が映らないなどといった通信トラブルが発生したことが報告されています。


■現地に向かう理由がなくなる
オンライン内見、IT重説の2つを利用することで、現地に向かう必要なく契約を行うことができるようになりました。直接物件を見ることなく、オンライン上のみで済ませてしまうことも不可能ではありません。

しかし、やはり「直接行かなければわからない」ことがあるのも事実です。
どれだけ丁寧にオンライン内見を行ったとしても、綿密なIT重説を行ったとしても、匂いや騒音、周囲環境などといった“個人の感覚によるもの”は、やはり直接体感しなければわかるものではありません。
後悔のない取引をするためにも、内見は別で行うなどといった対策は必要でしょう。




4.不動産投資におけるIT重説解禁の影響


IT重説によるメリットとデメリットが理解できたところで、おそらく気になってくるのが「IT重説が不動産投資にどのような影響を与えたのか?」という点ではないでしょうか?
ここでは、売買契約のIT重説解禁が不動産投資に与えた影響を見ていきましょう。


■迅速な対応が可能に
不動産投資は長期保有し収益を少しずつ得ていくスタイルであるため、それほど俊敏さは求められないと考えている方も少なくありません。しかし「不動産の買い付け」に関しては全く別の話であり、非常に高い瞬発力が必要となります。
実際、優良物件は他の投資家に狙われる可能性が高いため、スケジュール調整で手間取っているうちに売れてしまったという経験がある方もいらっしゃるでしょう。不動産投資を専業で行っているのであれば問題ないかもしれませんが、兼業の場合は非常にハードルが高いものであることは間違いありません。
しかしIT重説を利用すれば自宅からでも契約に臨めるため、兼業投資家でも迅速な対応を取ることも可能となったのです。


■説明不足の心配がない
不動産投資に失敗してしまう要因として「説明が不十分だった」というものがあります。中には重説を手早く済ませて質問をさせない、真摯に答えてくれない、といったような悪質な不動産会社もあったようです。

IT重説ならば録画・録音も可能ですので、何度でも見返すこともできます。説明が不十分であった場合などの証拠にもなり得るため、重説を行う不動産会社側もこれまで以上に慎重にならなくてはなりません。録画・録音することで、契約後の不要なトラブルを避けることができるのは、大きなメリットと言えるでしょう。


5.まとめ


今回は重説の基本的な知識からIT重説が解禁されるまでの流れ、さらには不動産投資へどのような影響を与えたのかまでを見ていきました。

IT重説は、重説を受けるための移動費や時間の負担を軽減し、迅速な不動産購入が可能になったりと、不動産投資に良い影響を与えています。2022年5月からは電子書面でのやり取りも認められ、より効率よく不動産購入を行うことができるようになりました。
その一方で、インターネットの通信状況や使用するためのツールの導入など、慣れていない方にとってはややハードルが高いものかもしれません。非対面で行うことに不安を感じてしまう方も中にはいらっしゃるでしょう。

とはいえ、IT化が進むことによってさらなる効率化を望むことも可能であり、より円滑に、迅速に、便利に取引が行えることが期待されているのも事実です。
これから先は上手にITとつきあい、活用することで、不動産投資を成功に導いていきましょう。

小雪