投資物件選びに“利回り”を基準にしている方はとても多いです。
確かに、利回りは不動産投資においての重要な指標であることは間違いありませんし、利回りが高い投資物件であるほど利益率も上がり、大きく儲けることができるでしょう。
しかし、その利回りの一般的な平均値や相場を把握していない限り、本当にその利回りが高いのか低いのかを判断することが難しいのもの。また、利回りしか見ていなかった結果、購入後に投資対象として不適切な物件であることが発覚した、などということもあるかもしれません。

そこで、利回りだけに惑わされることのないよう、相場や目安などから、高利回り物件のリスクなどを押さえていきましょう。



目次
1. 不動産投資においての利回りとは
2. 不動産投資物件の利回り相場と目安
3. 低利回りの投資物件に価値はないのか?
4. 高利回りのリスクと避けるべき物件
5. 利回りを上げる方法はあるのか
6. まとめ

1. 不動産投資においての利回りとは


そもそも利回りとは、投資した金額に対して年間どれだけの利益(リターン)があるかを割合で示したものになります。
不動産投資における利回りは「物件価格に対して、年間で得られる収入や利益の割合」であるため、投資物件選びの際の指標の1つとして利回りを見ることはとても重要なことと言えるでしょう。

ただし、この利回りには大きく分けて「表面利回り」と「実質利回り」の2つが存在しており、それぞれを正しく理解していなければ正確な判断を行うことはできません。
まずは各利回りの意味を確認しましょう。


■表面利回り
表面利回りとは“物件の購入価格”と“家賃収入”だけを基に算出した利益率を指します。グロス利回りとも呼ばれ、広告などに掲載されている利回りはこちらの表面利回りであるのが通常です。
計算式は以下になります

表面利回り(%)=年間家賃収入÷税込物件価格×100

その名の通り表面的な利回りであり、ランニングコストや諸経費などは一切考慮されていません。そのため「実際の利回りは、表面利回りを必ず下回る」ということを念頭に置く必要があるでしょう。
とはいえ、この表面利回りは現状の空室状況が反映されることになりますので、購入直後の利回りを想定することが可能です。

なお、表面利回りは「その時点での年間家賃収入」が判明している中古物件の場合のみ使用されることになります。新築物件の場合は入居者=家賃収入がまだないため、“想定利回り”が使用されるのが一般的です。この場合、満室の状態で計算されますので注意しましょう。
想定利回りの計算式はこちらです。

想定利回り(%)=満室の場合の年間家賃収入÷税込物件価格×100


■実質利回り
“物件の購入価格”はもちろんのこと、不動産投資運用に関わる“諸経費・ランニングコスト”もすべて含めて算出した利益率がこちらの実質利回りになります。ネット利回りもしくはNOI利回りとも呼ばれますが、どちらも同じものです。経費も考慮しますので、表面利回りよりも現実的な運用利回りであると言えるでしょう。
そのため計算式はやや複雑になり、

実質利回り(%)=(年間家賃収入-年間コスト)÷(税込物件価格+購入時コスト)×100

当然ですが、同じ物件であればコストが考量されてる分、実質利回りが表面利回りを上回ることはありません。表面利回りが同じの物件を比較するのであれば、この実質利回りの大きい物件のほうが収益性が高い良い物件であると言えるでしょう。


2. 不動産投資物件の利回り相場と目安


実際にその不動産の利回りが高いのか低いのかを判断するには、目安として正しい“相場”を把握していなければなりません。例えば都心部のワンルームマンションであれば、築20年程度までは表面利回りで5.5%、築20年~35年程度ならば7%~8%以上が購入検討対象に入れるラインになるでしょう。

ただし、これはあくまで「購入検討対象」に入れるだけであり、これだけで判断するのは早すぎます。
プロの不動産投資家であれば、ここから実質利回りを基準に見ていくことになりますが、慣れていない初心者にはやや難易度が高いもの。そのため、まずは広告で簡単に確認することができる表面利回りを参考にしながら、物件スペックや立地条件ごとに判断していくことになります。

ここでは、投資物件として一般的なワンルームマンションの平均利回りをそれぞれ見ていきましょう。なお、都心部での購入を前提にしています。


■ワンルームマンションの平均利回り
都心部のワンルームマンションは上述の通り、築20年前後であれば表面利回り4%~5%前後、築20年以上35年ほどであれば7%~10%前後を目安とし、これを上回っているのであれば十分な利回りであると言えます。

ただし、表面利回りが高くなるほどリスクも高くなるということは注意しなければなりません。
基本的に、古い物件は購入価格が低くなるため、必然的に表面利回りは高くなります。しかし築年数が高くなれば家賃相場も下がるものですし、建物自体の劣化も進みますので修繕積立金も上がるでしょう。空室リスクも上昇していくため、「高利回りだから」で判断するのはやや危険です。あくまでも利回りは目安のひとつとして捉えておくとよいかもしれません。

新築ワンルームマンションは反対に購入価格が割高になるため、利回りは低いのが一般的です。平均利回りの平均としては、3%後半~4%前後程度になります。新築の場合、家賃相場は高く空室リスクが低いというメリットがありますが、投資物件としてマンションを見るのであれば中古物件を選ぶことをおすすめします。


3.低利回りの投資物件に価値はないのか?


ここまで見てきて、「低利回りは絶対に購入してはいけない」と思われた方も多いでしょう。
確かに低利回りの物件は収益性が低いため、可能であれば高利回りの物件のほうが良いということは間違いありません。
しかし、低利回り物件の中にも優良物件は存在しています。以下のような物件は利回りが低くても購入検討の余地があるでしょう。

・人気エリアで立地条件が良い
・上記条件で築年数が比較的浅い
・上記条件で売買価格が相場か相場以下
・最上階や角部屋など付加価値がある
・低金利での借り入れが可能

このような物件は資産性や家賃が下落しにくいため、資産形成としての活用や実物資産の保持という観点からも購入は良い選択となります。利回りが低い物件でも低金利での借り入れが可能ならばキャッシュフローも多くなりますので、利益次第ではリスクが低い低利回り物件を選んでも問題ありません。

ただし、購入後のキャッシュフローが黒字になることが大前提です。どれだけ良い物件であろうともあまりにも利回りが低い場合は、購入を避けましょう。




4.高利回りのリスクと避けるべき物件


高利回り物件には、それなりのリスクが存在していることはお伝えした通りです。
ここでは高利回りでも避けたほうが良い物件を見てみましょう。

■旧耐震基準
1981年6月以降に建てられた建物を“新耐震基準”、それ以前に建てられた建物を“旧耐震基準”とよびます。旧耐震基準の建物はそれだけ古い建物であり、購入価格が低くなるため利回りが高くなります。
しかし当然ですが、旧ですから耐震性・耐久性に不安が残るでしょう。空室リスクも高くなりますし、このような物件は融資も受けにくいため、売却の際に購入者の幅が狭まることが多くなっています。

中には定期的な大規模修繕工事が行われ、きっちりと耐震補強工事が済んでいるようなマンションもあります。管理状況が良好なマンションであれば、それほど問題にはならないでしょう。


■状態の悪い物件
明らかに古さを感じるような状態の悪いマンションは、どれだけ高利回りでも空室リスクに悩まされる確率が高くなります。その上、管理が行き届いていないということでもありますから、修繕するための積立金も足りておらず、場合によっては劣化が進みすぎて建物が取り壊されるという最悪の状況も考えられるでしょう。
一戸建てやアパートなどであればオーナー権限で修繕や建て直しも可能ですが、ワンルームマンション投資などの場合はそれを行うことができません。表面利回りでは建物の管理状況は反映されませんので、物件選びの際には管理の状態を隅々まで確認するようにしましょう。


■管理費・修繕積立金が高すぎる物件
管理費と修繕積立金が高すぎるため、売買価格を下げることで高利回りに見せかけている物件も存在しています。
マンションを良い状態に保つためには、定期的な修繕工事などといった管理が重要であるとは上述しました。しかし相場よりも明らかに管理費・修繕積立金が高く設定されている物件は、売却が難しいというリスクがありますので避けたほうが無難です。

もちろん、修繕積立金が少なすぎるというのも、管理の状況から考えると問題でしょう。購入直後に大幅な値上げや、一時金として一括徴収される可能性も否定できません。そのため、管理費・修繕積立金は高すぎず安すぎない物件を選ぶことをおすすめします。


■空室率の高い物件
最寄り駅から離れている物件は、総じて物件価格が低くなり表面利回りが高くなります。どれだけ良い条件の物件であろうとも、空室の発生確率がとても高くなるため注意しましょう。表面利回りがどれだけ高くても、入居者がいなければその数値に意味はありません。
また、地方の物件も価格が安いため、同じような状況であると言えるでしょう。

不動産投資は、購入した投資物件に入居者がいることで成立します。利回りも大切ですが、それ以上に賃貸ニーズを重視する必要があるのです。基本的に都心の駅近の物件であれば需要は高まりますので、そのような場所の物件を選んだほうが安心です。


■借地権物件
借地権とは、地代を支払って地主から土地を借りる権利になります。
つまり借地権物件とは、建物は購入することで自分のものにできますが、土地は別であり購入することができません。賃貸することになりますので、当然ですが毎月土地代がかかることになりますし、土地賃貸借契約更新時には更新料も発生することになります。

この借地権物件最大のデメリットは、「売却に苦労する」といった点でしょう。このような物件は金融機関からの融資が受けづらいため、自己資金で購入するケースがほとんどです。つまり、売却時には自己資金で購入可能な価格帯まで下げなくては買主が付きづらくなります。また、売却・増改築・建て替えなどの際には地主の承諾が必須になる上、承諾料などの支払いが必要になることもあります。

ただし借地権物件ならではのメリットとして、販売価格が低く高利回りになりやすい、固定資産税などといった一部の税金の支払い義務がない、減価償却が大きくとれる可能性がある、などといった点も挙げられます。そのため、一概に「絶対購入してはいけない」というわけではなく、メリットがリスクを上回っていると判断したのであれば問題ありません。


■出口戦略が難しい物件
出口戦略、つまり売却が難しいと思われる物件は、利回りがどれだけ高くても検討から外したほうが良いでしょう。不動産は利益を生む・生まないに関わらず、所有しているだけでもコストが発生するもの。売却したくても売ることが出来ない、買主が即つかないような不動産は、負債を抱え続けていることに他なりません。

出口戦略を考えた際、最も避けたいのは「再建築不可」の物件です。
再建築不可の土地の物件は、建て直すことが認められていません。建物の状態に問題がないのであれば良いですが、たとえ老朽化が進んでも、地震や火災で倒壊したとしても、もう建て直すことが出来ないのです。
また、担保価値が非常に低いため、住宅ローンも利用することはほぼできないでしょう。一部の金融機関であれば可能なケースもありますが金利が割高であり、不利な条件であることは否定できません。

物件価格が安いため超高利回りになりやすく、固定資産税などといった各種税金も割安なため、お得な物件のように見えますが、売りたい時に売れずマイナスの資産である“負動産”になる可能性が高くなります。
出口戦略が難しいと思われる物件の購入は避けたほうが無難でしょう。




5.利回りを上げる方法はあるのか


利回りは「購入直後が最も高く、その後は下がる一方」、「上げることは難しい」と考えていらっしゃる方も少なくありません。建物は時間が経過すれば劣化は進みますし、それに伴って家賃設定も下げなければ入居者は見つかりにくくなります。家賃収入が減れば、当然利回りは下がっていくでしょう。

しかし、利回りの改善方法は存在しています。売却を考えた際、収益物件の場合は“利回り”も価値を決める基準になるため、改善が可能なのであれば試したいところ。ではどのような方法があるのでしょうか。


■サブリース契約解除
兼業不動産投資家の場合、サブリース契約を行っている方もいらっしゃるでしょう。賃貸管理会社に不動産運用を委託するシステムであるサブリース契約は、「不動産運用の手間が必要ない」「空室リスクの心配がない」というメリットがあります。
このサブリース契約を解除することで、利回りの向上が望める可能性が高まるのです。

サブリース契約を行っている場合、手数料をサブリース会社に支払わなくてはなりません。基本的に賃料の10~20%程度を手数料として取られ、その残りがオーナーの取り分となります。つまり実際の家賃よりも少ない額で運用していることになるのです。
解除した場合の空室リスクが心配という方も多いでしょうが、23区内の好立地物件であれば相当状態が悪くない限り、頻繁に空室が発生するということは考えにくいでしょう。空室率を考慮したとしても、通常の賃貸借契約の方が収益率が高くなるケースがほとんどになります。

もちろん解除することで管理の手間が発生しますし、中には「サブリース解除不可」となっている物件もありますので注意は必要ですが、状況によっては契約解除の検討を行う価値はあるかもしれません。


■リフォームの実施
高額な出費が発生しますが、物件のリフォームを行うこともひとつの手になります。
非常に単純ではあるものの、特に古い物件であればあるほど最も大きな効果を得ることができるでしょう。

古びた外観の物件は、家賃が下がる要因のひとつになります。劣化の問題もですが、やはり外観という見た目がきれいな方が入居者にも選ばれやすくなるのは当然です。投資物件がアパートもしくは一戸建てなどであれば、外壁の塗り直しだけでも効果を得ることはできるでしょう。
ただし問題なのは、ワンルームマンション投資などの区分所有者の場合です。このケースでは外観や共用部分に手を加えることはできないため、まず「管理状態の良いマンション」を選ぶことが大前提になるでしょう。

また、内装に手を加えるのも十分な効果があります。
例えば、バス・トイレ・洗面台がひとつにまとまっているのであれば、別々にするだけでも賃貸需要は高まります。古い物件を好まない理由のひとつにこれを挙げる人も多いため、独立洗面台、バストイレ別にするだけでも家賃の上昇が見込めるかもしれません。


■むやみな改修は必要ない
リフォームの実施がいくら有効とはいえ、むやみに改修を行っていては赤字が進むだけです。
改修の最大の目的は「空室を出さない」ことであるため、満室であったり、空室が出たとしてもすぐに埋まるようであれば改修は必要ありません。家賃も“利回りの維持には下げてはいけない”ということは一切なく、相場程度に下げることで空室が埋まるようであれば、それで問題ないのです。

お金をかけてリフォームを行っても、その結果に得られるものが「賃料が多少上がる程度」ならばそもそも必要はありません。あくまでも空室が発生し、入居者が見つかるまで時間がかかる、大幅な家賃値下げを実施しないと難しいという場合に限り、リフォームの検討を慎重に進めたほうが良いでしょう。
ただし、それ以外に問題点がある可能性も否めないため、状況によっては不動産会社などの専門家に相談することをおすすめします。


6.まとめ


利回りの基礎知識から相場と目安、高利回り物件のリスクなどまでをお伝えしました。
広告などに表示されている利回りはハッキリと数字で見れるため、多くの人が購入の指標にしてるのではないでしょうか。繰り返しになりますが、利回りだけで判断し購入を決定してしまうのは非常にリスクが高い行為になります。利回りは購入を判断するための目安のひとつであり、他にもクリアするべき条件がいくつも存在しているのです。

不動産投資を成功に導きたいのであれば良い物件を見極めることができるよう、しっかりとした知識と目を持つことが重要だと言えるでしょう。

小雪