不動産は、名義人がひとりの“単独名義”だけではなく、ひとつの不動産に複数の名義人がいる“共有名義”とすることも可能です。
不動産は非常に高額なもの。不動産投資をはじめるにあたり、夫婦や親子などでお金を出し合って購入しようと検討している方も多いのではないでしょうか。しかし共有名義の不動産を所有することは、メリットだけではなくデメリットも存在しているのです。

そこで今回は、不動産投資を共有名義で購入する前にぜひ確認しておきたいポイントをまとめました。



目次
1. 不動産投資と共有名義
2. 共有名義で所有するメリットとデメリット
3. 不動産投資における共有名義のメリット
4. 不動産投資における共有名義のデメリット
5. まとめ

1. 不動産投資と共有名義


不動産は所有する人として“名義人”が必要であり、登記簿に記載する必要があります。
この名義人には2種類が存在しており、1人の名前で登記することを「単独名義」、複数の名前で登記することを「共有名義」といいます。

不動産投資の場合、最初に投資物件を購入することになるでしょう。この際、購入する投資物件の費用を全て1人で負担し、登記をその人が行えば「単独名義」になります。
逆に、投資物件の費用を2人以上で負担した場合、「共有名義」として出資者全員で登記する必要があるのです。
例えば夫婦や親子、親族、投資家同士など、複数人で資金を出し合ってひとつの投資物件を購入するのであれば、共有名義となりますので全員分の登記をおこないます。


■共有名義の持分割合とは
不動産を共有しているとはいっても、「この土地の半分までが自分の所有」などと物理的にわけられているものではありません。不動産全体に対し数値的に複数人が権利を持っている状態を指します。
この持分は出資額によって決まるのが特徴で、例えば4,000万円の物件を夫婦で2,000万円ずつの負担で購入したのであれば、それぞれの持分割合は「2分の1」です。同じく4,000万円の物件を子が3,000万円、親が1,000万円を負担したのなら、子が4分の3、親が4分の1の持分割合となるのです。
注意点としては、持分割合は“出資の割合”であること。つまり、出資した割合以上に持分を多くしてしまえば、贈与とみなされて贈与税が発生します。夫婦間や親子間であっても対象ですので注意しましょう。

なお、その割合に関係なく所有者の1人としての権利がありますので、たとえ持分割合が小さくても同意がない限り、他の所有者が勝手に不動産を利用したり処分することは認められていません。持分割合で権利に差が出ることはないのです。


2. 共有名義で所有するメリットとデメリット


不動産は高額なものですから、分担して購入できるのであれば良いという方もいらっしゃるかもしれません。
ではまず、一般的な「共有名義での不動産所有」という視点で考えてみましょう。


■共有名義のメリット
費用を複数人で分担できるという点が共有名義最大のメリットではありますが、さらに税制優遇が二重に受けられるという点も挙げられます。

購入価格の一定割合を所得税から控除できる“住宅ローン控除”をそれぞれが受けることが可能です。夫婦でも親子でも、別で住宅ローンを組んでいるのであれば各々が利用できます。
ただし、十分な収入があることが前提になるため、病気や出産などで退職した場合は利用できなくなることもあるため注意が必要でしょう。

また、売却する際には“3,000万円の特別控除”も2重に受けられるほか、資金援助を親から受ける際に共有名義にすれば贈与税を回避できるといったメリットも存在しています。
共有名義は税制面で有利になりやすいと言えるかもしれません。




■共有名義のデメリット
なによりも売却の難易度が高いというのが共有名義のデメリットです。
権利は持分割合で差が出ないとお伝えした通り、名義人として登録しているのであればその全員の承諾がない限り売却ができません。夫婦間の共有名義で離婚した場合はさらに難しくなり、たとえどちらかが出て行ったとしても住宅ローンの支払い続ける必要があります。家に残ったほうが共有持分を購入できるのであればまだ良いのですが、そのように対応できるケースは極めて稀でしょう。

共有名義人が夫婦や親子など関係でどちらかが亡くなってしまった場合は、当然ですが不動産も相続対象に含められます。相続人が複数ならさらに遺産分割で話が複雑化しやすくなるという点もデメリットになるでしょう。
その他にも、1人の名義人の収入がなくなった場合、残りの名義人でローンを支払う必要がある上、不動産を贈与された扱いになるため贈与税の対象となる可能性も秘めています。


3.不動産投資における共有名義のメリット


一般的な共有名義のメリットとデメリットを解説しました。
ですが、不動産投資という視点から見た「共有名義の不動産所有」の場合、大きく異なる点がいくつも存在しているのです。
まずはメリットから見ていきます。


■資金面での投資の幅が広がる
初期投資金が大きくなりやすい不動産投資ですが、共有名義にすることによってそれを抑えることも可能です。
1人では購入が難しい物件も、複数人で資金を出し合えば購入できるでしょう。

その上、金融機関から融資を受けやすいというメリットも存在しています。購入予定の物件を共有名義にし、名義人の収入を合算すれば審査時に有利になりますし、融資金額も多くなる傾向があるのです。
もちろん各金融機関によって審査基準は異なるため絶対とは言い切れませんが、資金面で投資の幅が広がるのは間違いありません。


■管理負担の軽減
継続的な収益(インカムゲイン)を目指して不動産投資をはじめるのであれば、賃貸物件のオーナーとして不動産経営をする必要があります。日常的な管理から入居付け、契約更新、退去、点検・修理・修繕の依頼、さらにはトラブル対応などまでいくつもの管理業務が発生するでしょう。このような負担を分担できるという点も、共有名義ならではのメリットと言えます。また、1人で考えて行動するよりも、複数人で意見を出し合ったほうがより良い選択肢も選びやすくなります。
なお、管理会社に管理業務を委託するという方法もありますが、最終的な判断はオーナーに委ねられます。




4.不動産投資における共有名義のデメリット


まず注意点として、“一般的な共有名義の不動産”のメリットとして挙げた「二重の税制優遇」は、不動産投資用の物件では受けることはできません。住宅ローン控除も売却時の特別控除も“居住用”のみであり、“投資用物件”では利用することは認められていないのです。これは不動産投資での前提であり共有名義のデメリットではありませんが、しっかりと心得ておく必要があります。


■方針の相違
複数人で意見を出し合うことで良い選択肢を選びやすくなる、ということをメリットとして挙げましたが、これはデメリットにもなるのは間違いありません。当然、意見が合わなければ物事を進められなくなるでしょう。

例えば、大型修繕工事のタイミングひとつをとっても、どこまで修繕するべきか、どのタイミングで行うか、工事にどのくらい費用をかけるか、期間はどのくらいにするのか、方針は人によって大きく異なります。入居付けにしても、手っ取り早く入居者を見つけるためにリフォームするか、クリーニングに留めるか、家賃の値下げに踏み切るか、人数が多くなるほど意見がぶつかり合うこともめずらしくありません。
うまく話をまとめられる人材がいなければ、経営状況に悪影響を与える可能性も否定できないのです。


■業務や申告時に複雑化する
共有名義による不動産投資は「経営管理負担の軽減になる」とは言ったものの、実はこちらもデメリットになりやすい点と言えます。家賃収入の振込先から帳簿付けなど、人数が増えればもちろん複雑化するでしょう。
そのため、“取引ごとに分けてそれぞれが記帳する”、“代表者がすべての記帳を行い、決算時に分配する”など、事前に決めておく必要があります。


■出口戦略が難しい
一般的な共有名義の不動産でも売却が難しくなりやすいと上述しましたが、不動産投資での共有名義はさらに難易度が上がります。全員に売却の意思がなかったとしても、その後に相続によって名義人が変わることもあるでしょう。当初と状況が大きく変わり、不動産を現金化したいという意見が出てくるケースもめずらしくありません。
1人が出口戦略として投資物件を売却したいと考えていても、すべての共有名義人が売却に合意しない限り話を進めることはできないのです。
親戚、親子、夫婦またはそれ以外を問わず、売却や相続時などといった出口戦略問題については、あらかじめ全員が納得できるまで話し合いをしておくことは必須と言えます。


5.まとめ


不動産投資を共有名義でおこなえば、資金調達の面で有利であり、運用も分担してできるというメリットがあります。自分1人では購入や管理が難しいマンションでも、投資先として選択できる可能性が高まるでしょう。

しかしその反面、経営方針の相違によるトラブルが発生しやすい、売却に名義人全員の同意が必要のため出口戦略が難しくなる、相続などで所有権が複雑化する可能性が高いなど、主に利権関係による問題が多く存在しています。また、居住用の不動産では利用できる税制優遇も、投資物件の場合は利用できません。

不動産投資を共有名義で始めようと考えている方は、ぜひ資金面のメリットだけではなくデメリットもしっかりと確認した上で、慎重に検討することをおすすめします。

小雪