これまではマンション管理といえば、区分所有者が管理組合を組織して運営を担う「理事会方式」が一般的でした。しかし最近では区分所有者の高齢化や住戸の賃貸化が進んだことによって、マンションの役員のなり手不足が深刻化しています。

そのような中で、最近注目を集めているのが「第三者管理方式」です。リゾートマンションなどの管理手段として普及していたこの方法が、昨今では居住用マンションでも取り入れられるようになっています。
そこで今回は、この「第三者管理方式」が普及する背景から、導入のメリットやデメリット、注意点などまでを見ていきましょう。



目次
1. 第三者管理者方式とは
2. 第三者管理者方式を導入するマンションが増える背景
3. 第三者管理方式の種類
4. 第三者管理方式のメリットとデメリット
5. 第三者管理方式が適しているマンション
6. 第三者管理方式導入の注意点
7. まとめ

1. 第三者管理者方式とは


「第三者管理方式」とは、その名の通りマンションの管理を第三者である外部(専門家)に委ねる方法です。

従来、マンションの管理は「住民による自治」が重視されていたため、区分所有者で構成する“理事会方式”を採用していました。実務そのものは管理会社に委託することが大半ですが、管理組合員から選任された役員と理事長によって、建物の管理および敷地などの管理を実行します。
しかし、区分所有者の高齢化や役員のなり手不足が深刻化したことにより、理事会そのものが機能不全となっているマンションも少なくありません。

そこで、新たな管理方式として導入されはじめているのが、この「第三者管理方式」です。
役員や理事長に代わり、修繕計画の策定や修繕積立金の管理から、区分所有者への報告まですべての管理業務を、専門家である第三者が担います。

第三者の委託先としては、マンション管理会社やマンション管理士などの他、弁護士や税理士、建築士などが挙げられるでしょう。


2. 第三者管理者方式を導入するマンションが増える背景


理事会方式を取るマンションは今でも存在していますが、現実問題として適切に理事会が機能しているマンションはそれほど多くはありません。
ここでは、第三者管理方式を導入するマンションが増える背景を見ていきましょう。


■マンション標準管理規約の改正
新たなマンションの管理法として「第三者管理方式」が注目されはじめたのは、2016年の国土交通省による「マンション標準管理規約」の改正がきっかけと考えられます。
それまでは管理規約のひな型とされる国土交通省の「標準管理規約」により、自治という観点を重視した“理事会方式”でマンションの管理を行うのが一般的でした。

しかし区分所有者の高齢化や賃貸化などによって、役員および理事の担い手不足が進行。そのため2011年の改正で、理事の要件である「居住している区分所有者に限定」を撤廃し、さらに2016年の改定では、理事に専門家が就任することを前提とした「外部専門家を役員として選任できることとする場合」という条文が追加されたのです。


■高齢化と無関心層の増加
高経年マンションが増えていくのに伴い、区分所有者の高齢化も進んでいます。全国のマンション居住者は増えているものの、60代以上のシニア層が全体の40%以上を占めているのが現状です。理事会の運営には一定以上の能力が求められるため、誰でも担える簡単な作業とは言えません。
また、投資用マンションが増えたことに伴い、区分所有者がマンションに住んでおらず管理組合の役員および理事の就任が困難なケースも多いほか、管理組合活動そのものに無関心な区分所有者も増しています。
今後はさらにこの傾向が進み、一層深刻化していくことが考えられているのです。




3. 第三者管理方式の種類


ひとくちに「第三者管理方式」とは言っても、実際にはいくつかの種類があります。
国土交通省が想定している3つのパターンがこちらです。


■理事長または理事・監事外部専門家型
理事長、副理事長、理事または監視などに外部(第三者)の専門家が就任する方法です。
専門家が理事会の構成メンバーになり、区分所有者で構成された役員とともに運営を行います。そのため役員は存在し続けますが、外部の専門家に選定を委託できるため負担は軽減されるでしょう。


■外部管理者理事会監督型
外部専門家を管理者とし、区分所有者が構成する理事会がその外部管理者を監視する方法です。さらに別の外部専門家に理事会を選任するケースも考えられています。
管理者は執行者、理事会は監視、総会は意思決定と、分担と責任の明確化が期待できるでしょう。


■ 外部管理者総会監督型
外部専門家を管理者として選任し、理事会を廃止する方法です。区分所有者から選任された監事者が外部管理者を監視するか、監査法人による外部監査が義務づけられています。
このケースでは理事会が無くなるため、区分所有者が理事になることはありません。役員のなり手がいない小規模マンションや、区分所有者が居住していない投資型マンションやリゾートマンションなどが想定されています。


4. 第三者管理方式のメリットとデメリット


不動産投資家として、区分所有しているマンションが第三者管理方式の導入を検討している、または第三者管理方式がすでに導入されているマンションを購入する前に、必ず「第三者管理方式のメリットとデメリット」を押さえておく必要があります。


■メリット
まずメリットとして最初に挙げられるのは、「区分所有者の負担軽減」でしょう。理事の選出はたとえ輪番制だったとしても、実務的・心理的負担は非常に大きなもの。参加できない区分所有者も多く、管理・運営がうまく機能していないマンションも少なくありません。その負担が軽減できるのは大きいポイントです。

また、「管理内容の適正化」が期待できる点もメリット。マンションには定期的なメンテナンスや大規模修繕工事などが欠かせませんが、そのタイミングや内容の決定には専門知識が必須です。もちろん高額な工事には総会の決議を経ることは変わりませんが、専門家がそれを進めるのであればより業務は効率化・合理化し、管理の適正化が期待できるでしょう。


■デメリット
まず、「管理費の増加」がまずひとつめのデメリットです。当然ですが、第三者管理方式を導入すれば外部専門家への報酬が必要になり、その委託費は月々の管理費に上乗せされます。区分所有者の負担が増すため、導入前には理解を得ておく必要があるでしょう。

次に「利益相反行為の可能性」も否定できません。本来、委託された専門家は区分所有者側に立って発注しなければならず、受注側の利益を求めることはできないのです。
例えば、専門家が自社で工事を受注する場合や、バックマージンを受け取ることを条件に特定の会社に発注する場合は、利益相反行為が生じる可能性があります。

さらに「継続的なノウハウの受け継ぎが難しい」点も挙げられます。マンションの管理組合には、そこまで長年培ってきた運用のノウハウが存在しています。理事会方式であればそのまま継承されていくものですが、第三者管理方式では従来の受け継ぎは難しいでしょう。




5. 第三者管理方式が適しているマンション


第三者管理方式にメリットとデメリットがあるように、導入に適しているマンションと適していないマンションも存在しています。
下記に該当するマンションは第三者管理方式への移行検討が必要と言えるでしょう。

・理事のなり手がいない
・理事および役員が固定化
・無関心化が進行している
・管理組合が機能していない

区分所有者の高齢化が深刻化、または賃貸化が進んで理事のなり手がいないマンションであれば、早めの導入検討が求められます。たとえなり手がいたとしても、一部の区分所有者が長期に渡って理事を務めているケースも含められるでしょう。
また、無関心化が進行して理事会や総会を設けても出席が少なく、管理業務が停滞しているマンションも導入に適していると言えます。


6. 第三者管理方式導入の注意点


「第三者管理方式を導入するのであれば、いずれの場合であっても区分所有者は何もしなくていい」というわけではありません。外部管理者の選任は細心の注意が求められますし、取引の健全性の確保とその監視を欠かしてもいけないのです。

管理者となる専門家には、建物に関する専門的な知識はもちろんのこと、会計や税務に関する知識、住民トラブルにまつわる法的知識から、清掃といった日常的な管理の知識まで、幅広い知識を求められるでしょう。
それに伴うコストの見極めも重要です。修繕工事などの発注の際には利益相反行為がないかのチェックも欠かすことはできません。もちろん第三者管理方式を導入するのであれば、管理規約の変更や総会決議も必要ですし、これまでの理事会方式から大きく変わるという心理的課題も大きなものです。

区分所有者の負担軽減ができるというメリットがある一方で、外部管理者に対する監視の目が行き届かなくなるリスクや、マンション維持管理へのさらなる関心低下を招くようにもなるため、第三者管理方式の導入については慎重に検討を重ねる必要があるでしょう。


7. まとめ


今回は、新たなマンション管理として「第三者管理方式」を解説しました。

第三者管理方式は、理事のなり手がいないマンションの管理を適正化するために有効な手段だと言えるでしょう。すでにこの管理方式は投資用マンションやリゾートマンションなどで一般化しており、今後は区分所有者の高齢化や賃貸化・無関心化が深刻化する居住用マンションにも普及していくことが予想されています。

とはいえ、第三者管理方式を導入すればすべての問題がなくなるということでもありません。外部管理者の選任から、管理と監督、さらには発生するコストについても見極めが求められます。
最終的な判断は、区分所有者の責任であることは忘れてはいけないのです。

小雪