不動産を売却する際、気になるのは税金についてでしょう。家や土地は高額なものですから、額に差はあってもある程度まとまったお金が手に入ることは間違いありません。しかし個人での不動産売買の場合、購入時よりも価値が上がっているというケースはまれであり、値段が下がっていることがほとんどです。

このような不動産売買だけでなく、資産を売却した時に生じる損失を「譲渡損失(売却損)」といいます。実はこの譲渡損失、上手く活用できれば節税効果が得られる可能性があるのです。
そこで今回は、譲渡損失の基礎知識から税金の特例、不動産投資における譲渡損失についてまでを説明します。



目次
1. 譲渡損失の基礎知識
2. 譲渡損失による税の軽減措置
3. 不動産売却後の確定申告
4. 不動産投資と譲渡損失
5. まとめ

1. 譲渡損失の基礎知識


譲渡損失とは、「資産の売却時に生じる損失」のこと。不動産に限らず、株式や投資信託などの資産を売却するにあたり、利益がマイナスであれば「譲渡損失(売却損)」、プラスであれば「譲渡所得(譲渡益)」と呼びます。


■譲渡益の税率は所有期間で変化
不動産売却時に利益が出た場合、その譲渡益に対し“譲渡所得税”と“住民税”が発生します。
これらの税金は、売却した不動産の所有期間に応じて税率が変化するのが特徴で、所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」となり税率は20.315%、5年以内の場合は「短期譲渡所得」となり税率は39.63%になります。
なお2037年までは、どちらの場合も所得税に対して2.1%の復興特別所得税が加わる点にも注意しましょう。


■譲渡損失が出た場合は課税対象外
不動産売却で損をした場合、つまり譲渡損失が出た場合は譲渡所得にかかる税金はゼロであり、支払いは発生しません。
そのため基本的に確定申告も必要ないのですが、税金の特例を利用したい場合は確定申告が必須です。
どのような特例があるのか、次の項で見ていきましょう。


2. 譲渡損失による税の軽減措置


不動産の売却時に譲渡損失が生じた場合、以下の税金軽減措置が受けられます。
なお、この特例は「マイホームの買い替え」および「買い替えを伴わないマイホームの売却」に適用されるものであり、投資物件の売却は対象外です。


■マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき
5年以上所有したマイホームを買い替える場合、「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」が適用される可能性があります。適用された場合、譲渡損失と他の所得と相殺して所得税や住民税を軽減できる「損益通算」が利用できます。
なお、譲渡損失が大きすぎて税金が相殺できなかった場合は、翌年以降に繰り越しができる「繰り越し控除」も可能です。最長で3年間にわたって控除できるため、メリットが大きいと言えるでしょう。




■住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき
買い替えではなく、マイホームの売却だけをして賃貸や実家に移り住むような場合は、「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用対象になる可能性があります。買い替えと同様、損益通算および繰り越し控除を利用することが可能です。
こちらの場合、5年以上所有という条件は変わりありませんが、ローンの残高が残っていることと、売却価格がそのローンよりも下回っていることが条件に含まれます。


■住宅ローン控除との併用
譲渡損失による税の軽減措置は、住宅ローン控除との併用が可能です。
ただし、譲渡損失の損益通算や繰り越し控除によって所得税や住民税が軽減されるため、住宅ローン控除の還付金が減る可能性が高くなります。同様に、課税所得税がなくなれば住宅ローン控除が適用されたとしても還付される金額もなくなることにも注意しましょう。


3. 不動産売却後の確定申告


不動産売却で譲渡損失が出た場合、税金がかからないため通常であれば確定申告は必要ありません。
ただし特例は自動で適用されないため、利用するのならば確定申告が必須です。


■売却後の確定申告の流れ
不動産売却後に行う確定申告の流れを見ていきましょう。

①必要書類を準備する
特例を受けるには、一般的な確定申告に必要な書類に加えて以下の書類が必要になります。
・住民票
・登記事項証明書または売買契約書の写し
・買換え資産の登記事項証明書
・譲渡所得計算明細書
・住宅借入金残高証明書

②確定申告を実施する
確定申告書に必要事項を記載し、税務署に提出します。
以前は手書きで記入して税務署へ直接持参するのが一般的でしたが、最近ではオンライン(e-Tax)での申請が主流になりつつあります。案内に従って記入を進めれば、自動で該当の箇所に計算・反映されますので、計算ミスや入力ミスなくスムーズに作成できるでしょう。



③還付金の受け取り
過払いの税金があると判断されれば、1カ月前後で指定口座に還付金が入金されます。
当然ですが、利益が出た場合は譲渡所得とみなされて税金の支払いが必要となるでしょう。


4. 不動産投資と譲渡損失


繰り返しますが、買い替えや売却時に発生した譲渡損失に受けられる特例はマイホームのみであり、投資物件に対しては適用されません。
しかし、投資物件の売却で譲渡損失が出た場合でも、節税を考慮すればメリットとなる可能性があるのです。


■投資物件で利用可能な特例
譲渡損失が出れば税金を納める必要がなく、また確定申告する必要がありません。これはマイホームでも投資物件でも同様です。
投資物件では譲渡損失を譲渡所得以外の所得と損益通算できませんが、他の投資物件の売買によって譲渡所得がプラスになった場合は、確定申告することで譲渡損失と相殺することで節税ができます。

また、投資物件ではすべての特例が使えないことはなく、条件によっては「特定事業用資産の買い換え特例」が適用されることもあります。
利用するためには、10年以上保有した土地や建物を売却である上に、買い替え先が原則建物の敷地で300平方メートル以上、土地であれば譲渡した土地の5倍以上の面積であることなど複数の要件があり、すべての方が利用できるものではありません。とはいえ、要件を満たしているような買い替えである場合は、ぜひ検討に入れると良いでしょう。


5. まとめ


譲渡損失は「繰り越し控除」や「損益通算」の特例を適用すれば、節税することも可能です。
ただし特例の対象はマイホームだけであり、投資物件での利用は認められていません。さらに譲渡損失があっても確定申告しなければ適用されることもありません。そのため、マイホーム売却時には譲渡損失が出た場合でも確定申告することをおすすめします。
また、投資物件による譲渡損失もデメリットになるだけではなく、納税の義務も確定申告する必要もありません。場合によっては、譲渡所得と譲渡損失を相殺することもできるでしょう。

不動産売却によって損失が出た場合でも、メリットになるケースもありますのであらかじめ理解をしておくことが重要です。基本的にマイホーム(居住用物件)と投資物件の扱いは異なる点も少なくないため、その違いも併せておさえておきましょう。

小雪