不動産投資として賃貸経営をするのであれば、膨大な賃貸管理業務が必要です。
忙しいオーナーの代わりに賃貸管理業務を代行してくれるのが「サブリース」または「マスターリース」というサービス。どちらも安定した家賃収入を得るために大切なものではあるのですが、これらは混同されることも多いためはっきりとした違いがわからない、という方も少なくありません。

そこで今回は、不動産投資をする上でぜひおさえておきたい“サブリースとマスターリースの違い”と、マスターリースのメリットやデメリットについて解説します。



目次
1. サブリース契約の基礎知識
2. マスターリース契約の基礎知識
3. サブリースとマスターリースの違い
4. マスターリースのメリット
5. マスターリースのデメリット
6. まとめ

1. サブリース契約の基礎知識


マスターリース契約について知る前に、まずサブリース契約について確認しておきましょう。


■不動産会社と入居者間の契約
サブリースとは“転貸借契約”であり、「不動産会社と入居者が交わす契約」を指します。
不動産オーナーから物件を借り上げた不動産会社は、物件の借主を募集します。入居者が決まった際に不動産会社と入居者との間で結ばれる契約を“サブリース(=転貸借契約)”と呼ぶのです。
つまり、不動産会社と入居者の二者間のみのものであり、そこにオーナーが関わることはありません。
入居者から見れば貸主は不動産会社のため、家賃の支払先も不動産会社になります。


■空室リスク回避のための手段
不動産会社はオーナーから物件を借り上げます。つまり不動産オーナーから見た場合、物件の貸し先は入居者ではなく不動産会社です。そのため入居者の有無に関わらず、オーナーは不動産会社から契約で定められた一定の収入(保証賃料)を得ることができます。
手数料分が引かれるため本来得られるはずの賃料より下回るものの、空室発生によるキャッシュフロー悪化におびえる心配がありません。


■賃貸管理業務の一括委託
不動産会社は物件のオーナーに代わり、入居者の募集から退去手続き、家賃催促、物件の管理まですべて代行が可能です。賃貸管理業務の大半を委託できるため、極力手間をかけることなく不動産投資を行えるでしょう。
本業とは別に不動産投資をしたいけど時間が足りない、管理業務が大変などという場合は特に便利なサービスと言えます。

ただし、不動産会社が実施する業務が、オーナーが意図しているものと異なっている場合も否定できないため、あらかじめの内容確認と相談は必須です。


2. マスターリース契約の基礎知識


では次に、マスターリース契約の概要を確認してみましょう。


■オーナーと不動産会社間の契約
マスターリースとは“原賃貸借契約”であり、「不動産オーナーと不動産会社が交わす契約」を指します。不動産会社はオーナーと入居者それぞれと契約を結ぶことから、第三者契約のひとつとして位置づけられています。
オーナーとマスターリース契約を交わした不動産会社は、その後入居者とサブリース契約を結びます。
つまり、サブリースを行うことを前提に交わされる契約がマスターリースなのです。


■マスターリース契約の種類
マスターリース契約には大きく分けて2種類存在しており、支払方法がそれぞれ異なります。実際に契約する前に、どちらが自分の経営方針に合っているのかチェックしておきましょう。
なお、不動産会社によってはどちらかのみのケースも存在しています。

・家賃保証型
入居者の有無に関わらず、一定の賃料を得られるのが家賃保証型です。空室保証型、家賃保証型、賃料固定型など、複数の呼び方があります。
不動産投資最大のリスクとも言われる空室リスクを回避できるため、不安を感じることが少なくなるでしょう。
ただし、たとえ満室でも契約時の金額以上の家賃収入を得ることはできません。

・実績連動型
部屋の稼働実績に連動して賃料が決まる契約方法が実績連動型です。パススルー型と呼ばれることもあります。
家賃の保証がないため、空室が出た場合は収入を得られません。その反面、満室が常に続いているなど稼働率が良い物件であれば、その分多くの家賃収入を得られる可能性があります。不動産会社の経営手段と景気に左右されやすいのが特徴です。




3. サブリースとマスターリースの違い


サブリースとマスターリースはそれぞれ理解できたでしょうか。
どちらも不動産会社との契約のため混同しやすいですが、明確な違いがあります。


■一括借り上げと転貸
繰り返しますが、マスターリースは第三者への転嫁を目的とする“一括借り上げ”という意味を持ちます。
オーナーと不動産会社の間で行われる契約を指し、このマスターリース契約を結ばない限り不動産会社は入居者とサブリース契約を結ぶことはできません。

その一方で、サブリースは“転貸”そのものを指すものです。サブリース契約の場合、物件の貸主はオーナーではなく不動産会社です。オーナーから借りた物件を不動産会社が入居者に貸し出すため、いわゆるまた貸しである“転貸”という意味になります。このサブリース契約には物件の持ち主であるオーナーは関与しません。

マスターリースは「オーナーと不動産会社」の間で結ばれる“原賃貸借契約”、サブリースは「入居者と不動産会社」の間で結ばれる“転貸借契約”なのです。


■まとめてサブリースと呼ばれるケースも
とはいえ世間一般的には、マスターリース契約も含めた一連の契約すべてをサブリースと呼んでいるケースも少なくありません。サブリースの前提がマスターリースであり、最終的には第三者に物件を貸し出し、管理業務を委託するからです。

しかし、厳密に言えば「オーナーと不動産会社の間で結ぶ原賃貸借契約=マスターリース」である、ということはしっかりと認識しておきましょう。


4. マスターリースのメリット


では次に、マスターリースを利用するメリットをご紹介します。
マスターリース契約によって、オーナーが得られるメリットとはどのようなものなのでしょうか?


■空室リスクの軽減
ここまでにお伝えしているように、家賃保証型であれば空室リスクを軽減することが可能です。
不動産投資を続ける上で障害となりやすい空室リスクですが、たとえ空室が発生しても確実に収入を得られるという点は大きなメリットでしょう。仮に入居者が家賃滞納しても、オーナーが得られる収入に影響はありません。


■管理業務を任せられる
不動産経営に関わる多くの賃貸管理業務を不動産会社に任せられるということも、マスターリース契約を結ぶメリット。賃貸物件の経営には膨大な知識や時間が必須であり、それを全て自力で行うのは難しいものです。
マスターリース契約を結ぶことで、たとえ経験が浅くても初心者であろうとも物件からの収入が得られるでしょう。




5. マスターリースのデメリット


マスターリース契約を結ぶことで大きなメリットが得られる一方で、当然注意しなければならない点も多く存在しています。


■修繕費はオーナー負担
マスターリースに必要な費用は、入居者から受領する家賃収入から引かれるため、月々の支払いが発生するわけではありません。ただし、修繕費および原状回復費用は、オーナー負担であることが基本です。建物や部屋の状態が悪ければ、それだけ負担も大きくなります。
請求された際には問題なく支払いができるよう、あらかじめ積み立てておくと良いでしょう。


■賃料が完全保証されるわけではない
家賃保証型ならば「ずっと賃料が保証される」ということではありません。
空室でも一定の収入を得られるのがメリットではありますが、空室が続いたり増えるようであれば、賃料の減額を要求されることが考えられます。オーナーと不動産会社が結ぶマスターリース契約は“賃貸借契約”であり、借主である不動産会社は貸主であるオーナーに対し賃料減額請求が認められているからです。
採算に合わず将来性がない物件であれば、契約を打ち切られることもあるでしょう。


■オーナーからの解約が難しい
オーナー希望での解約が難しいという点もデメリットと言えます。
上述のように、マスターリース契約は賃貸借契約です。不動産会社は借主であり借地借家法にて保護される立場のため、貸主であるオーナー側からは解約を申し出ることはできません。その一方で、不動産会社からは容易に解約が可能という点が特徴です。
不動産会社によっては違約金が設定されているため、契約前の確認は必須です。


6. まとめ


今回は、サブリースとマスターリースの違いについて解説しました。

サブリースは不動産会社と入居者の間で結ぶ「転貸借契約」を指し、マスターリースはオーナーと不動産会社の間で結ぶ「原賃貸借契約」を指します。不動産会社と入居者とのサブリース契約が交わされることを前提に、オーナーと不動産会社でマスターリース契約を交わすのです。
一連の流れをサブリースと総称することも多く、混同されることも少なくありません。が、不動産オーナーという当事者である以上、その意味はしっかりと理解しておきましょう。

マスターリースは、オーナーが賃貸管理業務をする必要がなく、空室発生時のダメージを軽減することが可能というメリットがあります。その反面、修繕費の負担があること、賃料の完全保証ではないこと、オーナーからの自由解約ができないというデメリットがあります。
また、契約内容によって条件が異なってくるため、契約を結ぶ前は慎重に検討しましょう。

小雪