不動産投資家として賃貸経営をする上で、避けられないリスクのひとつに「家賃滞納リスク」が存在しています。入居者が見つかったと安心していたけれど、家賃が滞納されてしまい困っている方もいるでしょう。借主の中には、「時効があるから家賃を支払わない」という悪質なケースもあるようです。

そこで今回は、本当に家賃滞納に時効はあるのか、その対策や回避方法を詳しく見ていきましょう。



目次
1. 家賃滞納と時効
2. 時効成立の回避方法
3. 家賃滞納発生時の注意点
4. 家賃滞納リスクの回避方法
5. まとめ

1. 家賃滞納と時効


実際問題として、家賃滞納リスクは空室リスク以上に大きな損害が発生する可能性があります。家賃滞納に時効があることは事実であり、発生したまま長時間放置していれば“消滅時効”となり、家賃の請求が認められなくなってしまうからです。

消滅時効とは、債権者が債務者に対して権利を行使せずに一定期間が経過した場合に、債権者の法的な権利が消滅する制度のこと。家賃滞納の場合は、債権者が貸主であるオーナー、債務者が借主(入居者)にあたります。
ただし、単にその期間が過ぎただけで支払い義務がなくなるわけではありません。


■滞納家賃時効の条件
まずは、滞納家賃の時効成立条件を見ていきましょう。

・滞納から5年以上経過している
・時効成立まで家賃を1度も支払っていない
・貸主による家賃回収の行動や手続きがされていない
・時効を援用している

家賃の消滅時効期間は「5年間」です。
この5年という期間は、最後に家賃を支払った時、または請求された日からカウントされます。家賃を支払った時点で時効がリセットされるため、5年間1度も支払われていないことが条件です。同時に、貸主(オーナー)による権利の行使、つまり滞納した家賃を回収するための手続きや行動をしていないことも含まれます。

そして最後に、借主が貸主に対して時効を「援用」をする必要があります。
時効の援用とは、時効の成立を主張すること。裁判は必要なく、借主が貸主に対し内容証明郵便で「時効援用通知書」を送ることで完了します。
これらすべての条件を満たさない限り、時効が成立することはありません。




2. 時効成立の回避方法


家賃滞納に時効は存在するものの、それは「貸主が何も対処しなかった」場合に限ります。
時効成立させないために、貸主であるオーナーが取れる具体的な方法はこちらです。


■支払い義務を求める
一番簡単な方法は、借主に「家賃滞納していることを認めてもらう」こと。家賃滞納者が未払い家賃の存在や支払い義務があることを認める“債権承認”があれば、その時点で時効は中断されます。
たとえ口頭であっても債務を認めたとみなされますが、あくまで中断であり時効がなくなるわけではありません。再び5年が経過すれば時効を迎えますので注意しましょう。


■訴訟・調停を起こす
催促を行っても支払いがなされず、債務承認もしないのであれば「権利の行使」つまり訴訟や調停など裁判上の請求を実行することで、時効の一時中断ができます。
具体的には、裁判所への訴訟提起による請求や、支払督促の申立てなどを指します。口頭や書面のみの督促では中断されません。なお認められた場合は時効期間が10年に延長されますが、こちらも10年経過してしまえば時効が成立してしまいます。

なお、家賃の請求を内容証明郵便で送ることで、時効までの期間を6カ月延長することが可能です。すぐに訴訟や調停が起こせない場合は、こちらの方法を取ると良いでしょう。


■財産の差し押さえ
どうしても家賃を支払ってもらえない場合は、財産の差し押さえができます。裁判所への差し押さえの申し立てや財産調査などは必須ですが、消滅時効の中断と同時に滞納家賃を回収できる可能性があります。


3. 家賃滞納発生時の注意点


物件のオーナーだからといって、家賃滞納者に対しどのような取り立てをしても良いわけではありません。自力救済は認められておらず、権利の実行のために強制力を行使する際には、原則として法的手続きを通して行わなければならないのです。

自力救済とは、わかりやすく言ってしまえば実力行使にあたります。部屋への無断侵入や持ち出し、深夜や早朝の電話や訪問、支払い義務のない人への請求、さらには鍵の無断変更も絶対に行ってはいけません。このような行為をした場合は、不法行為として罪に問われたり、損害賠償請求されることもあるでしょう。


■家賃滞納を原因とした強制退去は可能か?
家賃滞納が続いているのであれば、賃貸借契約を解除したいと考えるのは当然です。
しかしオーナー側からの契約解除は難しく、「正当理由」がなければ認められません。現在の借地借家法では借主側が手厚く保護され、オーナー側の権利は抑えられているからです。

ただし、お互いの信頼関係が破壊されていると認めてもらえれば、解除できる可能性があります。
これを「信頼関係破壊の法理」と言い、具体的には3ヵ月以上の家賃滞納があれば明け渡しの請求ができるケースが多くなっています。
とはいえ裁判自体はオーナー側の勝訴確率が高いものの、すぐに明け渡されることが少ないもの事実です。中には強制執行が必要となる場合もあるでしょう。強制退去は可能でも、引き渡しまでには膨大な時間と費用、手間を要するのです。




4. 家賃滞納リスクの回避方法


これまでにご説明した通り、家賃滞納者からの家賃回収は多くの手間と費用がかかります。もちろんそこまでの悪質なケースは頻発するものではないものの、賃貸経営を続けていく上で「家賃滞納リスク」からは逃れることはできません。
最後に、家賃滞納リスクの回避方法をご紹介します。


■入居者審査の徹底
入居時の審査を徹底することで、家賃滞納リスクを回避できる可能性が高まります。具体的には、勤め先や年収、勤続年数、資産状況など支払い能力の有無をさまざまな面から審査すると良いでしょう。

実際の入居者審査は管理会社が実施するため、オーナーとしては「入居者審査が徹底している管理会社に委託する」ことが重要になります。


■家賃保証サービスの加入
以前は賃貸借契約時に“連帯保証人”をつけるのが一般的でした。賃貸借契約における連帯保証人は、借主が家賃を支払わなかった場合に、その代わりとなって支払い義務を負う人を指します。
しかし近年では連帯保証人を用意するのが難しいケースも少なくありません。

その代わりとも言えるサービスが“家賃保証会社”です。入居者側に保証料の負担が発生するものの、入居時に保証会社へ加入してもらうのは有効な手段と言えます。


5. まとめ


今回は、家賃滞納の時効と条件、時効成立の回避方法や注意点などをご紹介しました。

滞納家賃には5年という時効があります。
しかし滞納が発生してから5年経過すれば自動的に支払い義務がなくなるということはなく、時効成立までには複数の要件を満たさなければなりません。また、オーナーとしても時効成立させないための方法がある、その際に自力救済は認められていないことなどは必ず押さえておきましょう。

空室リスク以上に悩みの種になりがちなのが家賃滞納リスクです。発生すれば家賃収入が得られないどころか、逆に費用がかかってしまうこともあるでしょう。そのまま放置しても解決することはほぼなく、損失を大きく広げてしまうことにもなるため、速やかに措置をしなくてはなりません。家賃滞納が発生した時に重要なことは、適切な対応が取れるかどうか。そのためには正しい知識を持っていることが何よりも大切なのです。

小雪