不動産を購入するというのは、通常であればそうそう何度も経験することではありません。
ですので、不動産取引を何度も行う不動産投資は、地主など資金に余裕がある富裕層のための投資スタイル、と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、不動産投資を始めるのに必要な年収ラインや、不動産投資用ローンの審査と融資額を左右する属性について説明します。



目次
1. 不動産投資を始める年収の目安
2. 融資額を左右する“属性”を知る
3. “属性”の上げ方とは
4. 年収が低く自己資金も少ない場合の対策
5. 物件の購入はあくまでもスタートラインと捉える

1.不動産投資を始める年収の目安


不動産投資を始めるためには不動産を購入するだけの資産がもちろん必要となります。
しかしそれを全額自己資金で出さなければならないというわけではなく、居住用の不動産を購入する際と同じく“ローン”を組んで融資を受ける形が一般的です。
この時に利用するローンは、収益用不動産を購入するのですから「不動産投資ローン」になります。

不動産投資ローンの審査を通るためには、最低限の年収が必要です。
そのため、「融資が受けられる年収=投資を始める年収の目安」と考えても差し支えないでしょう。


■各金融機関と融資を受けられる年収

・年収500万以下
 日本政策金融公庫
 ノンバンク
 ネット銀行(楽天銀行、住信SBIネット銀行他)

・年収500万円~1,000万円
 地方銀行
 信用金庫
 オリックス銀行

・年収1,000万円以上
 メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行他)
 大手銀行(住友信託銀行、りそな銀行他)
 信託銀行

500万以下でも不可能ではないですが、不動産投資ローンを融資する金融機関の目安は年収700万円が基準となっています。
金融機関は基本的に、年収が高く自己資金が多いなど属性が高い人には審査が甘く、多くの融資をする傾向が見られます。
かつてはあるメガバンクが年収に関係なく物件評価だけで融資していたという事もあったようですが、今ではメガバンクは年収1,000万円以上のみとなっており、年収500万円以下には判断がかなり厳しくなっているのです。

おおまかに年収1,000万円以上ならば8割、700万円で5割、500万円で3割ほどが、金融機関で融資の検討に応じてくれると言われています。
そのため、過半数の5割に達する年収700万円が目安と考えても良いでしょう。




2.融資額を左右する“属性”を知る


金融機関から融資を受けるには、“属性”が重視されると聞いたことがあるのではないでしょうか。
この属性は多くの場合、融資を申し込む本人の職種や勤務先といった社会的立場と、年収や保有資産などといった経済的状況の両面から見た「個人属性」を意味します。

不動産投資ローンでの返済原資は、主にその物件の入居者から得られる家賃収入です。そのため、購入予定の不動産の収益性が重んじられることは間違いありません。
しかし間違えてはいけないのは、収益性が良い物件であれば誰でも簡単に融資を受けられる、というわけでもないのです。

●購入希望者の与信を重視
収益性の良い物件で家賃収入が十分確保できればローン返済はできるから問題ない、と考えてしまいがちですが、金融機関はそれだけではお金を貸してくれません。
例えば、不動産物件購入後に本業の状況が悪くなり、家賃収入を生活費に充てなければならなくなるかもしれません。そうなれば想定していた収益は全てそちらで使用され、金融期間は融資した資金の回収が出来なくなるでしょう。
ですので、不動産の収益性だけではなく、ローンを借りる本人の「与信」も重要視されるのです。
与信とは何かの取引を行う際に、その取引先に対して資金を回収するまでの期間「信用を与える」こと。ローンに限って言えば、確実に返済できるかどうかという信用を与えることを指します。

つまり不動産投資ローンを融資してもらうためには、購入予定の「物件」と購入をする「個人」、両方の信頼性を審査されるということなのです。


■審査される属性の種類
与信がどのようなものか理解できたところで、その判断材料となる属性を紹介します。

●収入
不動産投資ローンを借り入れる本人の職業が審査されます。勤務先、勤続年数、そして年収もここに含まれます。
端的に言ってしまえば、公務員や医師、弁護士や司法書士などの士業といった社会的信用の高い職業のほうが有利であることには間違いありません。
サラリーマンであれば、上場企業、非上場大手、非上場中小の順に評価が高く、従業員数や操業年数など企業の規模も含まれます。

当然年収も高いほうが良いとは言えますが、継続的に一定以上の年数を得られているかも判断材料になるため、勤務年数も重要になります。

●住宅事情
住宅事情については、賃貸よりも持ち家のほうが生活基盤が安定していると判断されて評価されるケースもあるようです。
ただ住宅ローンの返済中なのであれば、その残債の額が少ないほうが審査が通りやすい傾向が見られます。金利の削減など、可能であれば条件の見直しをしてみるのも良いでしょう。
中には、住宅ローン返済中でも影響がないと判断する金融機関も存在しています。

●配偶者の有無
連帯保証人は、お金を借りた本人が返済を行えなくなった場合、代わりにローンの返済義務を負う人になります。
配偶者はその連帯保証人となるため、単身者よりも有利になりやすいと言えます。

●資産状況
手元の現金資産状況も判断材料になります。
融資額に近い、もしくはそれを超える資産をすでに保有している場合、金融機関側のリスクがなくなるため評価されやすくなります。
物件購入後の突発的なトラブル発生時や入居率の急激な低下時など、もしもの時に対応できる資産がないケースはやや厳しいため、換金可能な資金がある程度手元にあったほうが良いです。


勤務年数と年収ばかりに拘るとある程度年齢が高くなってしまいそうですが、不動産投資ローンの利用開始年齢が65歳(又は70歳)以下、完済時年齢が80歳未満と設定されている金融機関がほとんどという事を踏まえると、50代を超えてから始めるのは避けたほうが無難かもしれません。
転職がなく、勤続年数は3年以上で、年収も増加傾向であるならば安定収入であるとみなされるため、不動産投資を始めるのであれば若いほうが理想であると言えるでしょう。


3. “属性”の上げ方とは


属性が高ければ高いほど、不動産投資ローンの審査が通りやすく、また融資限度額も高くなることまで説明しました。
次に、この属性の上げ方とそのポイントを紹介します。

●クレジットカードの解約
キャッシュレス化が進んでいることにより、クレジットカードを所有する人は増加しています。
しかし、カードの利用残高が多いと属性が下がります。
例えばキャッシング枠が100万円ある場合、100万円以内であれば自由に借金が出来る状況にあるわけです。金融機関によって異なるものの、クレジットカードのキャッシング枠はないほうが審査では有利になるのです。

複数持っているのであれば使用していないカードを解約し、手元に残しておくものはキャッシング枠の利用停止、または限度額の引き下げを申請しましょう。

●収入の安定
本業の収入だけでなく、さらなる収入を求めて副業を始めるという方も少なくありません。
確かに副業をすれば年収は増えるため属性は高まりそうではありますが、実際には個人レベルで行う副業は安定収入とみなされることはないのです。
大切なのは収入が安定していること。よほど規模が大きい副業でない限りは、属性をあげることは不可能になります。

本業よりも副業の収入が増えたからと、本業である会社を辞めて独立をする方も中にはいらっしゃるかもしれません。
その場合は大幅な属性の低下が考えられますので注意しましょう。

●ローンを見直す
住宅ローンや他の不動産投資ローンなど他の借り入れがあるならば、ローンを見直すことをおすすめします。
ローンの返済額や収支の改善が行われれば、属性が上がり審査が通りやすくなることも考えられるからです。
今では借り換え診断や提案を無料でしてもらえるオンラインサービスもありますので、まずは気軽に調べてみると良いかもしれません。


■属性次第では年収700万円以下も可能
「年収700万円が不動産投資を始める目安」と上述しましたが、属性によっては年収500万円でも融資を受けられるケースも存在しています。

例えば、自己資金が用意してある場合。物件価格の20%以上の資金を用意しているのであれば有利になります。
それだけの運転資金を準備し確保できる点、しっかりとした返済の意思がありその能力がある証明にもなるからです。
また、夫婦などで合わせた世帯年収が700万円を超えている、担保可能な他の不動産投資物件があるなど、属性評価が高いと認められれば融資を受けて不動産投資を始めることも可能でしょう。




4. 年収が低く自己資金も少ない場合の対策


年収が低く自己資金も心許ないのであれば、審査が受けられる金融機関も数少ない上、属性が低いと判断され融資が受けられない可能性が高くなります。
そのような方が不動産投資を始めるためにできる対処法はこちらになります。

●融資に強い不動産会社を探す
不動産投資の経験が少ない初心者であれば、投資用物件を購入する際には不動産会社を利用するケースがほとんどでしょう。
不動産会社はそれぞれ懇意にしている金融機関がありますが、中には金融機関とのつながりが広く融資に強い不動産会社も存在しています。そのような会社であれば、紹介してもらうことによって審査が通りやすくなるかもしれません。
その不動産会社が取引先にしている金融機関だけではなく、政府系やノンバンク系、ネット銀行などといった幅広い選択肢を提案してくれる不動産会社を探すことが必要となります。

●日本政策金融公庫の利用
日本政策金融公庫は民間の金融機関ではなく、国が出資している金融機関です。
女性や高齢者、若い人や個人零細事業者といった、一般的な金融機関で融資を受けるのが難しい方でも積極的に受けられるセーフティネットのような立ち位置となっています。
厳密に言ってしまえば投資目的での融資は受けられませんが、事業目的であれば可能となっているため、不動産賃貸事業として申請を行うことになります。

メリットとしてはとにかく低金利・前期固定金利であること、借り入れから2年間は金利のみを支払えばいいという据置期間をつけることもできること、日本国内であればどこでも対応しているというエリアの広さなどが挙げられます。
デメリットは、融資期間は最大でも20年であるほか、通常で最大4,800万円が融資限度額であること、公共料金や税金の未払いがあると受けられないなどといったことがあります。
幅広い受け入れを行っている一方、民間の金融機関とはだいぶ違いがありますので注意しましょう。

●とにかく自己資金を増やす
年収が低いのであれば今すぐに不動産投資を始めることに拘らず、とにかく自己資金を貯めるのが重要かもしれません。
回り道に感じるとは思いますが、自己資金をしっかりと貯めることが出来れば、融資を受けられる可能性も高まりますし、その間に年収が少しでも上がればさらに審査も通りやすくなります。
さらに金融機関側から見ても、年月をかけて計画的に貯金が出来る人という評価もされるでしょう。


5. 物件の購入はあくまでもスタートラインと捉える


いかがでしたでしょうか。
不動産投資を始めるのに必要な年収と、融資を受けるのに重要となる属性、さらには年収が低い場合の対策法などをお伝えしました。
年収は確かに高いほうが有利であることには違いありませんが、年収が500万円ほどあれば不動産投資を始める手段がないわけではありません。

しかし、不動産物件の購入はあくまでも不動産投資のスタートラインであり、それが最終目的ではないことも忘れてはいけません。
あせることなく着実に、しっかりと準備を整えてから不動産投資を始めましょう。

小雪