日本の少子高齢化が進んでいることは、誰もが知る事実です。そのため、現在年金制度を支えている世代が「自分が高齢になった時、本当に年金がもらえるの?」と不安になってしまうのは当然のこと。公的年金に期待できないのであれば、私的年金の代わりになればとマンション投資を検討している方は非常に増えています。
確かに、毎月安定した家賃収入を得られることが出来れば、たとえ実際に受給できる年金の金額が想定より大幅に少なかったとしてもゆとりある老後の生活が送れるかもしれません。

しかし「絶対に儲かる」という確証はなく、下手をすれば年金の代わりになるどころか大きな負債になり得るという面も抱えているマンション投資。本当に年金の代わりとなるのか、どのような物件を選べば失敗しにくくなるのか、しっかりと理解しておきましょう。


目次
1. 公的年金と老後に必要な生活費を知る
2. 本当に年金代わりになるのか
3. 失敗しないための注意点
4. まとめ

1. 公的年金と老後に必要な生活費を知る


「老後に受け取れる公的年金は少ない」と耳にしていても、実際にどのくらいの額なのか、老後は毎月どのくらいの生活費が必要なのか、ぼんやりとしか知らない方もいるかもしれません。ですので、まずは現状を知っておくことが必要です。
一般的な企業に勤める会社員が定年退職後に受け取れる公的な年金額と、老後の必要生活費を計算してみましょう。

●公的年金はどのくらいもらえる?
そもそも年金は勤務形態などによって、最終的に受け取れる金額は変化します。
公的年金制度には国民年金と厚生年金が存在していますが、サラリーマンやOLなど会社に勤めているのであれば厚生年金のほうに加入していることになります。そしてこの厚生年金保険(第1号)の受給権者の平均老齢年金月額は、平成29年(2017年)末の時点で、およそ14万5000円となっているようです。

それを踏まえると、夫婦共働きでどちらも定年まで厚生年金に加入している会社に定年まで勤め続けていれば、老後は14万5000円×2にあたる約29万円が毎月支給されることになります。
また、夫婦のどちらかが会社員で、その配偶者が専業主婦もしくは主夫(第3号被保険者)の世帯であれば、会社に勤めていた側が定年退職後にはその配偶者にも国民年金が支給され、約5万5000円ほどの支給を受け取ることになります。このケースですと、14万5000円(厚生年金)+5万5000円(国民年金)=20万円相当が老後の夫婦の月収になるわけです。

この29万円及び20万円相当を年金受給額と想定し、さらに年金以外の収入があるのならばそれを足したうえで、想像している老後の暮らしが可能かどうかを考えることがまずは必要なのです。

●実際に必要な老後の生活費
理想とする生活も人によって大きく異なるものですが、ここでは一般的な消費支出額を見てみます。
総務省統計局が公開している「家計調査報告」によりますと、60~69歳世帯の消費支出は約29万円、70歳以上の世帯になると23万5000円ほどになるようです。これを前述した年金受給額と比較すると、ほぼ余裕がないもしくは足りていないことがわかるでしょう。夫婦のどちらかが専業主婦(主夫)であった場合、年金が20万円に対し支出が29万円と、およそ約月9万円不足しているのです。

その不足分を補うために退職金や貯金を切り崩すか、パートやアルバイト、再就職などを行って不足分を補っている方がほとんどになっています。まだまだ現役で働き続けたいという方であればもちろん何の問題もないのですが、定年退職したのだからできたらこれ以上は働かず夫婦で老後をのんびりしたい、体調や体力に不安があるので難しい、といった声がおそらく一番多いのが現状でしょう。

そのような方々が選んでいるのが、働かなくても収入が定期的に得られる「マンション経営」と言うわけなのです。


2. 本当に年金代わりになるのか


マンション投資でも一棟投資からワンルームマンション投資まで大きく幅があります。
もちろん投資になりますからリスクも存在しているものの、背伸びをしすぎず堅実に“年金の不足分の確保”が目的であるのならば可能ではあります。正確に言えば「年金の代わり」ではなく、「年金の不足分の補填」でしょうか。


●不足額を補うためのマンション投資とは
不動産投資は、「(年間収支×運用年数)+所有マンションの売却額」より、投資総額が少なければその投資は“成功した”と言えることになります。バブル時代ならいざ知らず現在では購入したマンションの売却額が、購入した直後に購入金額より高くなるといったことはまずありえません。むしろ下がることが普通ですから、その分賃貸マンションとしてしばらく運用し家賃収入として取り戻すといった形になるでしょう。

また、年金の不足分を補うことを前提にしていますから、これと同時にもう一つ見極めなければならないポイントがあります。
例えば65歳で定年退職後、年金の不足分(9万円)を補うために20年間マンション経営をするのであれば、「9万円(年金不足分)×12ヵ月×20年=2,160万円」を得られる投資でなければなりません。短期間ではなく、長いスパンで安定した収入を得られるかが最重視されるのです。

●マンション投資のスタイル
そもそもマンション投資と言っても、マンションを丸ごと所有して各部屋を第三者に貸し出す“一棟投資”と、分譲マンションのうちの部屋をひとつもしくは複数購入してそれを賃貸として貸し出す“ワンルームマンション投資”の2種類のスタイルが存在しています。一棟投資は土地ごと建物全体を買い取る形になるため初期費用が高額になりやすく、ワンルームマンション投資は所持部屋数が少ない分収入金額は少ないものの、少額の資金でスタートできると比較的ハードルが低いために不動産投資の初心者にもはじめやすくなっております。

両方ともにメリット・デメリットが存在しているため、一概にどちらが良い悪いとは言い切れないのですが、1億円以上にもなる資金を一般的な会社員が用意することはほぼ無理ですし、ローンを組むにしても金額が金額ですので審査を通ることも難しくなります。また、知識や経験もより必要になるため、もし一棟買いを選択するのならば慎重に検討を重ねたほうがよさそうです。

●年金不足分を補填する3つのケース
まずはマンション経営をする上での収入と、支出(必要経費)を抑えておきましょう。

収入手段は、ほぼ入居者からの家賃収入のみになります。
家賃10万であれば10万円×部屋数、15万円であれば15万円×部屋数が月の収入になりますが、これがそのまま手元に残るわけではありません。
そして支出はローンの返済をはじめ、各種税金、保険に入っていればその保険料、さらにマンションですからマンション自体の管理費や修繕積立金も毎月支払うことになります。ローン以外は必要経費になりますので、マンション経営を続ける以上ずっと支払い続けることになるのです。
同時に、家賃は時間経過で値下がりすることも忘れてはいけません。マンションは一戸建て住宅より寿命が長いとはいえ、劣化は必ずするものです。大規模修繕工事などにより老朽化の速度はある程度遅らせることができるものの、やはり築年数を重ねれば重ねるほど家賃も下がってしまうのはある意味仕方のないことでしょう。

これらを踏まえた上で、目標金額が毎月得られるかを検討することが必要です。

<ケース1・収支の良いマンションの場合>
まず一般的な会社員でも開始しやすいワンルームマンション投資のケースで考えてみましょう。

老後までローンを多く残してしまってはそもそも本末転倒になりますから、できるだけ定年退職から20年前前後と早めに開始しておきたいところです。また、新築に近い築浅の物件のほうが長く運営することが可能になります。ただ、中古でも都心部の築浅ワンルームマンションは一般的な会社員にとっては簡単に購入できるものではありませんから、ローンの返済期間は30~35年くらいにしている方が多くなります。そのため、定年退職後しばらくはローンの支払いも続けなくてはなりません。

安定して入居者がいるようなマンションであれば、現役中にローンの支払いを続けながらでも黒字にすることは可能でしょう。この黒字分を貯めておき、定年退職後のローンの支払いに充てることが出来れば、公的年金+家賃収入で十分生活できると予想できます。そしてローンの返済が完了すれば、大幅な家賃の下落がない限りはさらに安定した収入が見込めるのです。

<ケース2・築年数の高いマンションの場合>
やはり都心部の築浅マンションは手が出せない、と言う方も多いでしょう。
その場合は度築年数を重ねた中古ワンルームマンションになります。あまり古すぎるマンションですと老朽化や耐震性など様々な問題点が発生しますので、ここでは築16~20年程度のものを想定したケースで考えてみます。

ある程度築年数が高いマンションはその分初期費用も抑えられるものの、やはり家賃自体は高くできません。ですが「マンションは設備が整った新築か築浅じゃないと嫌だ」と言う方がいる一方で、「住めるマンションなら家賃は出来るだけ安いほうがいい」と言う方も多く存在しています。特にワンルームマンション投資は単身者がターゲットとなっており、単身者はその傾向も強くなるため、おそらくこの先も需要がなくなることはほとんどないでしょう。

しかし、老後の収入のためと考えるとやはり家賃が低いというのは収支が良くないという事。定年退職までにローンを完済できれば良いのですがそれが出来なかった場合、足りていないはずの年金から支払いをしなければならないという本末転倒の状態に陥ってしまいます。
そのため、退職金などの自己資金を使って繰り上げ返済を行う、ということを選択肢に入れるのも良いかもしれません。ローンが完済さえすれば、あとは家賃収入をそのまま年金不足分に充てることが出来るからです。

築浅のケースと同じように家賃の下落という問題もあるのですが、築15年以上のマンションであれば大幅な値下がりは見られず安定傾向にありますので、見通しが立てやすいというメリットも存在しています。

<完済後にマンションを売却化して現金化する場合>
定年退職後もずっとマンション投資を続けるのではなく、繰り上げ返済などでローン完済後にマンションを売却し、まとまったお金を確保してそれで生活していくという形もあります。「いつまでマンション投資を続ければいいのか」という問題もありますし、マンションの状態が良ければ売り物としても十分通用しますので、選択肢のひとつとして考えておくのも良いでしょう。

マンションを購入後は通常通り賃貸として貸し出し、家賃収入を得ることになります。たとえば20年間運営するとした場合、その20年で投資資金が回収できれば何の問題もないのですが、場合によっては回収が出来ない事も十分に考えられます。そのため、その赤字分をマンションの売却値を引き、その上で売却益が確保できるようであればマンションを売却するという手もあるのです。

マンション自体の坪単価としても、築浅であればあるほど数年で急激に下落するものの、20年あたりから緩やかになり、築40年あたりからはほぼ横ばいの状態が続き下落値も少なくなる傾向にあります。築18年のマンションであればちょうど20年後にあたる築38年目がここに相当するため、売値の予測も立てやすくなるのです。


3. 失敗しないための注意点


くりかえしますが、マンション投資はあくまでも“投資”ですから、確実に成功するものではなく失敗する可能性もゼロではありません。中には豊かな老後のためにはじめたのに、気がついたらギリギリの生活になってしまったというケースもありえるでしょう。
では、どのような点に注意しておくことが重要なのでしょうか。

●“マンション投資”を知ること
まずは“マンション投資”自体を勉強し、理解することが大切です。
基本的にはマンションの収支やそのバランスを考慮した上に、今現在だけでなく数年後を見据えて行動する必要があります。最終的には運も多少は絡んでくるものなのですが、たぶんこのくらいだろう、というようなどんぶり勘定で行けるほど簡単ではありません。

プロの意見を聞くのは大切ですが、ひとりの意見を完全に信じ込んでしまうのも危険になります。
不動産会社の営業担当者も、親身になってマンション投資の説明をしてくれたりはするとは思いますが、メリットは教えてくれてもデメリットやリスクまでは丁寧に教えてはくれない場合があります。具体的な運用方法も説明してくれないという事もあるでしょう。
彼らは「物件を販売する」のが仕事であって、手取り足取りで投資を指導する事ではないのです。中には、売ったマンションが投資で利益を出したとしても、たとえ大きな損害を出したとしても、不動産会社自体の益にはならないため無関心を貫くところもあるほどです。

もちろんそういった不動産会社はごく一部で、すべてがそいう考えを持っているわけではないですが、そういった話に惑わされることのないようにきちんとした知識を持ったほうが良い、ということは間違いありません。最終的な判断をするのは投資家本人なのですから、他人に評価してもらうだけではなく自分自身が評価することが必要なのです。

●物件の見極め方を知ること
投資は運も多少絡むとは言いましたが、最終的な成否を分けるのは運ではなく「物件の見極め」です。良い物件を選ぶことができれば、運に頼ることなく成功を手繰り寄せることが可能なのです。

<年間収支から選ぶ>
たとえ家賃収入がとても良い物件でも、維持管理費や修繕積立金、固定資産税、都市計画税などの年間経費がかかりすぎるようなものは選ばないほうが無難です。年間の手取り収支は「年間家賃収入-年間経費」で求めることが可能ですが、これは状況に応じて変化していくものと理解しておきましょう。

収入である家賃は空室や滞納などのリスクがあるほか、基本的に年数が経過すれば経過するほど下落していきます。物件自体が駅からかなり近い場所、人気の高いエリアなどは家賃も高値で維持しやすいですが、この場合もリスクが全くないわけでもありません。

支出である経費は減ることがほとんどなく、特に管理維持費や修繕積立金は値上げされるものと思っておいたほうが良いでしょう。また、固定資産税などの税金は資産価値が高いマンションほどより課税されるため、駅近など利便性の良い物件は高額になるおそれもあります。
さらに都心部の場合、再開発などが入ることで固定資産税や都市開発税がさらに嵩む可能性もあるため、収支計画を立てる際にはこれらを踏まえた上で計算が必要となります。

<物件価値が大幅下落しそうなものを除外する>
マンション投資は“第三者に貸す”という前提で物件選びをしますが、“売却をする”ケースもある事を忘れてはいけません。そのため、物件価値がこの先大幅に下がる可能性が高いマンションは、どれだけ気に入ったものでも除外したほうが良いでしょう。

そもそも“売却価値”は変動するもので、立地や管理状態、設備など建物自体の全体状況から、周囲環境、知名度の変化、人口動態のほか、株価市場などの景気にも左右されます。
中でも周囲環境の変化が大きな価格の変化に直結しやすく、「トラックの出入りが激しいまたは匂いや騒音を発する工場が近くに存在している(もしくは建設予定)」、「歓楽街が近くにあり増加が見られる」、「犯罪発生率が上がっている」といったようなエリアのマンションは、急激に価値が下がる可能性が高いため特に注意しておきたいところでしょう。

また、築年数による価格の下落はある程度は仕方のないことなのかもしれません。これは新築であればあるほど顕著に表れ、築18年前後からは穏やかな下降率になります。ただし、築年数を増すごとに管理費や修繕積立金も値上がり傾向にありますので、考慮に入れる必要がありそうです。
さらに、管理組合や管理会社が機能しておらず、適切な時期に大規模修繕工事を行っていなかったり、小さな不具合を長期間放置しているような管理状態の悪いマンションは劣化の進みもかなり早くなりますので、物件価値の下降速度も速くなります。管理が行き届いているかどうかもチェックポイントとなるのです。

逆に物件価値の上昇が見込めるケースは、新駅の開設や乗り入れ路線の追加、都心部の再開発、大型商業施設の建設などでしょうか。路線縮小や企業の撤退などで下落する可能性はありますが、その傾向が見れるまでの期間は安心できるかもしれません。オリンピックなどをはじめとした巨大イベント開催予定地も価値の上昇が見込めそうですが、イベント開催後には下落することが多いので気をつけたいところです。



4. まとめ


簡単に始められると評判のマンション投資ですが、やはり何の知識がなくてもできるといった単純なものではありません。
しっかりと仕組みを理解した上で、マンションの状況や不動産市場の動向、周囲環境をしっかりと見極め、失敗しないマンションを探しましょう。

小雪