以前購入した中古マンションが古くなって以前より入居希望者がいなくなった、または投資用不動産の購入を検討しているけれど新築マンションの価格が高すぎる、などと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな時に候補に挙がってくるのは中古マンションの「リノベーション」。不動産の収益性を高める手段として認知度が高まっています。

ここではまずリノベーションの知識からリフォームとの違い、得られる効果やそれを始めるタイミングなどを解説します。



目次
1. リフォームとリノベーションの違い
2. リノベーションで得られる効果
3. 失敗のないリノベーション計画とは
4. リノベーション工事の適切なタイミング
5. 状況に応じた判断が必要

1.リフォームとリノベーションの違い


リノベーション済マンションや古民家リノベーションなど、不動産投資をしていれば必ず耳にする言葉です。
古い建物を改修し、付加価値を付けるという意味でよく利用されるのですが、まずは似たような言葉であり内容的にも区別がつきにくい「リフォーム」との違いから見ていきましょう。


■リフォーム
大抵の“物”は、時間が経過するごとに老朽化も進み劣化をしていきます。どんな頑丈に建てられた建物であろうともこの老朽化からは逃れることが出来ず、破損や汚損、機能の低下、さらには時代に合わないものになっていたりするものです。
リフォームとは、これを元(新品)に近い状態にする改修工事を指します。
例えば畳やフローリング、壁紙などの張り替え、古くなったキッチンやトイレなどの新しい物への交換、劣化が進んだ屋根の吹き替えや壁の塗り直しなどが含まれるでしょう。

新築の状態が10、古くなった今の状態が1であったとしたら、リフォームで8や9程度のできるだけ「新築に近い状態に戻す工事」がリフォームとなります。


■リノベーション
その一方で、リノベーションとは「これまでとは異なる価値を付加する改修工事」になります。
新築の状態に戻すのではなく、新築の状態より良いものにしたり、価値自体を高めるものです。
例えば、ファミリー向けで細かく区切られていた壁を壊し、間取りを広げてゆったりとしたワンルームへの改修、天井を高くして圧迫感をなくした空間への変更、壁を打放しコンクリートにしてオシャレさを向上させる、さらにはペットと共に暮らすことにこだわったペット共生設備の設置など、古い建物に付加価値を生み出す工事になります。

こちらは新築の10の状態を目指す工事ではなく、20や30など「完全に新しく作り変える工事」がリノベーションと捉えても良いでしょう。




2.リノベーションで得られる効果


物は必ず劣化しますから、住む場所として賃貸物件を提供し続けるのである限り、修繕である「リフォーム」は必須のものとなります。基本的には家賃収入の一部を修繕費として積み立てておき、必要となった際にその積立金でリフォームを行う形となるでしょう。
ですが「リノベーション」は必ずしも行わなければならないといった性質のものではありません。
間取りの変更や見た目の向上などは、そこで生活をする上では必須ではないからです。

しかし不動産投資の世界では、物件の価値や機能性を高めなくてはならない“理由”が見つかったその時が、おそらく「リノベーションを行うべきタイミング」になるでしょう。


●ターゲット層の変更
若者に人気が高い街に建つ、ファミリー向けマンションを例に考えてみます。
ファミリー向けと言えば複数人で住むことが前提ですから、3LDKなど部屋数が多い間取りであることがほとんどです。若者世帯は単身か多くても2人程度が中心であるため、このままのマンションではエリアの需要に合っていないことがわかります。
また、空室リスクを避けるために賃料は控えめにされていることが多く、それに伴って物件販売価格も安くなっていることがほとんどです。

このような中古マンションであれば、間取りの変更で物件の価値を向上させるリノベーションを行う意味があると言えます。
1LDKや2DLKなど単身者でも持て余さない部屋数にすることで、稼働率の上昇が期待できるでしょう。


●付加価値の追加
その物件ならではの付加価値というのは、競争力を高めるという意味でも重要なものとなります。
次は、所持している中古マンションの周りに、再開発によって似たような間取りの新築マンションが増えている場合で考えてみましょう。
おそらくそのままでは新しいマンションに注目が集まり、ターゲットとしている層も分散して空室率が上がってしまうことが予想されます。
家賃を下げるなどの対策も効果があるでしょうが、同じように他の中古マンションが下げればその効果もいずれ薄れてしまいます。

ここでは、付加価値を追加するリノベーションを行うことで、アピールポイントを作り競争力を高める効果が期待できます。
たとえば、動物の足に優しいマットの設置や、ペット用ドアの設置、消臭・防音効果の高い壁紙など、ペット飼育可にするだけではなくそれ以上の価値を追加することで、ペットとの共存を希望する層に選んでもらいやすくなり、さらに家賃の引き上げ効果も期待できるでしょう。



3. 失敗のないリノベーション計画とは


メリットが目立つリノベーションですが、やはりデメリットも存在しています。
そのデメリットの中でも特に大きいのは、「費用が高額になりやすい」ということ。
依頼するリノベーション会社が大手なのかまたは地元の工務店なのかで価格の差は出てくるものの、マンションでは総額600~1,000万円台、一戸建てでは総額1,000~2,000万円台が相場と、かなりの費用が必要となるのです。

ここで注意しなくてはならないポイントとして、リノベーションを行う物件が投資用マンションなのであれば、その工事費用が投資として成り立たなければなりません。
自分たちで住むマンションのリノベーションであるならば、きちんと返せる額なのであればそれほど大きな問題にはならないでしょう。
しかし、あくまでも不動産投資として捉えるのなら、リノベーション工事で赤字を出すこと自体が本末転倒であるのです。


■収支計画の重要性
リノベーション工事の費用は、家賃に反映させて回収することが一般的です。
例えば工事費用が240万円で、それを20年で回収するのであれば「240万円÷20年=12万円」で、単純に家賃を1万円値上げることになります。

これが東京都心部エリアで、もともと家賃が10万円や11万円のマンションであったとしたら、さほど問題にはならないでしょう。
適切なリノベーション工事で付加価値がしっかりと上がっていれば、たとえ家賃がプラス1万で11万円や12万円になったとしても、おそらく入居希望者は集まるからです。

しかし注意しなくてはならないのは、周辺相場がそれほど高くない地方都市などのエリアです。
家賃5万円が相場だとすれば、プラス1万円してしまえば6万円。20%の家賃上昇は簡単に見過ごせる額ではありません。
都心部と比べて物価が低く人口密度も高くない地方では、たとえリノベーション工事が適切に行われていたとしても、入居者集めは途端に難しくなります。

入居率の状況やエリア特性などを見極めたうえで、本当にリノベーション工事を行って付加価値を追加したほうが良いのか、はたまた最低限のリフォーム工事に留めて家賃の据え置きのほうが良いのか、さらには値下げをして収益率改善に繋げるか、検討する必要があるということです。
また、リノベーション工事が適切であると判断したとしても、家賃への反映額や入居率への影響、工事費用の回収年数などといった収支計画をきっちりと立てることが必要なのです。


■リノベーション費用は減価償却が可能
減価償却は、リノベーションを行った際にも適応されます。
対象資産の価値の向上や耐久性の増加などに繋がる支出は「基本的支出」とみなされ、元の建物の耐用年数に応じて減価償却を行うことができます。
原状回復のための小規模なリフォーム工事であれば「修繕費」とされて工事終了年に一括経費計上することになりますが、「基本的支出」と認められた場合は減価償却費として経費計上が可能で、一定期間の課税を減らす効果が期待できるのです。

ただし、「基本的支出」か「修繕費」となるかは規模や内容、金額に応じて異なってくるため、どちらとなるか不安を感じるのであればまず事前に税理士に相談することをおすすめします。




4. リノベーション工事の適切なタイミング


手頃な価格の中古マンションを投資物件として購入し、リノベーション工事を行ってから貸し出すという話は、最近では珍しくない話でしょう。そして、それを今考えている方もいらっしゃるかもしれません。

ですが格安だからとあまりにも築年数が経過した中古マンションならば、やや注意が必要です。
部屋の内部をきれいにリノベーションしたとしても、構造体などマンション本体そのものに問題が出てくれば長く住むことはできません。最悪、高額なリノベーション費用の回収が終わる前に、マンションが寿命を迎えてしまうという可能性もゼロではないからです。
さらに、マンション全体的の見た目や共用部分がボロボロの状態では、投資の効果を最大限得ることが難しくなります。
ワンルームマンション投資は区分所有者になりますから、共有部分にあたる廊下や共用玄関、バルコニーなどは改修することはできないのです。

適切なリノベーションの時期の目安は、法的耐用年数47年の鉄筋コンクリート造であれば築20年程度と言われています。
もちろん状況や管理状態などはそのマンション自体によって異なりますが、およそ築20年前後であればリノベーションのタイミングと考えても良いかもしれません。
そうなれば資金を20年かけて回収したとしても築40年ほどになりますから、法的耐用年数的にも無理がない計画となるでしょう。



5. 状況に応じた判断が必要


誰でもきれいな状況の部屋に住みたいと考えるのは当然のことです。
築年数がたってやや古さを感じてきた部屋が新しく生まれ変われば、家賃下落を抑えながら入居希望者が見つけやすくなることは間違いありません。

しかしだからと言ってやみくもにリノベーション工事を行うのは、失敗のもととなりやすいことも事実でしょう。
リノベーション工事は多額の費用が掛かるものですから、慎重に検討を重ねたうえで判断しなければならないのです。
メリットもデメリットも踏まえ、トータルでプラスであると見えたのならば、前向きにリノベーションを検討してみてはいかがでしょうか。

小雪