新型コロナウイルス感染症の影響は、世界中の経済に大きなダメージを与えています。
もちろん日本も例外ではなく、観光・宿泊業界をはじめ、外食産業から小売業までの数々の業種が打撃を受けており、「コロナ不況」とも呼ばれているほどです。

そんな中で気になるのはやはり、不動産投資がどのような影響を受けているかどうかではないでしょうか?
今回は、現状での売買や不動産投資ローンの動向データや日経平均株価などから、今どのような状況なのか、また今後どのように動いていくのか読み解いていきます。



目次
1. 不動産投資のコロナ過の影響とは
2. 投資ローンのコロナ過の影響とは
3. 影響は限定的ながら注視を

1.不動産投資のコロナ過の影響とは


まずは、コロナ過が不動産投資にどのような影響を与えているのか、実際の不動産売買と賃貸の動向を見なくてはなりません。
不動産の世界では、不動産を自分で利用することを目的とした取引を「実需(じつじゅ)」、投資目的として第三者に賃貸することを前提とした取引を「仮需(かりじゅ)」と言います。不動産投資の出口戦略として、最終的に実需向けとして売却されることが多くなっていることから、この実需の動きを注視する必要があるのです。
もちろん、居住用賃貸の動向にも影響されるため、こちらも念頭に置く必要があることも間違いありません。

このことから、中古マンションと中古戸建住宅、居住用賃貸、収益物件の動向をそれぞれ見ていきましょう。


■中古マンション・中古戸建住宅の動向
公益財団法人東日本不動産流通機構(通称:東日本レインズ)が2020年7月17日に公表した「サマリーレポート2020年4~6月期」によりますと、首都圏(1都3県)の中古マンション及び中古戸建住宅の成約件数は前年と比べ、大幅減となっています。特に中古マンションはマイナス33.6%で、その減少率は同機構発足以来の最大値となっているほどです。
ですが、成約価格で見ると中古マンションは横ばい、中古戸建住宅は1割減程度に留まっていたりと、成約件数以外はそれほど大きな動きは見られません。

また、アットホーム株式会社がアットホーム加盟店を対象に行った「景況感調査のニュースリリース」でも、賃貸・売買ともに調査開始以来の最低値を記録しており、景気感は大幅に悪化していることが明らかになっています。

ただしどちらの調査も4~6月時点のものであり、それが現在も続いているわけではありません。
不動産流通センター研究所のが7月に行った「指定流通機構の物件動向」では、中古マンション・中古戸建住宅ともに成約件数は前年同月比では多少マイナスではあるものの、前期と比べる限りは景気感予測が上向いていることがわかります。

参考資料:公益財団法人東日本不動産流通機構「サマリーレポート2020年4~6月期」
     http://www.reins.or.jp/pdf/trend/sf/sf_202004-06.pdf
     アットホーム株式会社「景況感調査のニュースリリース」
     https://athome-inc.jp/wp-content/uploads/2020/08/2020080401.pdf
     不動産流通センター研究所「指定流通機構の物件動向(令和2年7月)」
     https://www.retpc.jp/wp-content/uploads/reins/bukken/bukken2007.pdf


■居住用賃貸の動向
こちらは不動産総合研究所が今年7月に公表した「不動産市場動向データ集」で明らかとなっています。
首都圏の居住用賃貸の成約件数は、前年の終わり頃から10%減あたりを保っていたものの、緊急事態宣言が発出された4月には35%減と大幅に落ち込みました。ですが翌々月の6月には11.3%減まで持ち直し、改善傾向が見られていることがわかます。

また同調査によりますと、東京23区平均賃貸単価推移は7期振りに下回り、前年比2.0%減となっています。
この部分だけ切り取って見ると悪化しているように見えますが、全体的に見ると2019年に3~4%ほど上昇した分の調整とも考えられるため、それほど悲観的な状況であるとは言えないでしょう。

参考資料:不動産総合研究所「不動産市場動向データ集」
     https://www.zentaku.or.jp/wp-content/uploads/2020/08/202007.pdf




■収益物件の動向
不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)が公表した「四半期レポート2020年4月~6月期」によりますと、2020年4~6月期の区分マンションの利回りは+0.07、価格は-0.92%となっており、一棟アパートでは利回りが-0.06、価格が+1.05%で、一棟マンションでは利回りが-0.05、価格が-0.65%(すべて前期比)となっています。

直近のデータとなる2020年7月のデータでは、利回りが前期比0.02~0.22ポイント上昇し、価格が前年比-7.56~-1.54%下降していることから、4~6月分の傾向が数字に出てきたといえるでしょう。ただしこちらは成約価格ではなく、売り出し価格のものであることを留意しておかなければなりません。

参考資料:不動産投資と収益物件の情報サイト健美家(けんびや)「四半期レポート2020年4月~6月期」
     https://www.kenbiya.com/img/press/pre2020-07-07.pdf

ここで注目しなければならないのは、実需向けの売買・賃貸契約はともに成約件数の減少が見られるものの、成約価格にまで大きな影響を与えていない、という点です。これは、4~6月はコロナ過による外出自粛の要請が出された時期であるため、一時的に成約件数の減少を引き起こしただけであり、実際に需要がなくなったわけではないということになるのです。



2.投資ローンのコロナ過の影響とは


不動産投資をする上で重要なのは、不動産投資ローンの動向でしょう。
不動産投資において、ローンはレバレッジ効果を最大限得るために必須なものと言っても過言ではありません。コロナ不況が深刻化している今、不動産投資ローンや金利状態の動向を見ていきましょう。


■コロナ過によるアパートローンの動向
一時期、銀行員のリモートワーク化に伴い融資の手続きに時間がかかるといったような状況もありましたが、特に融資基準の引き締めがあったということもなく、8月の時点では通常時に戻りつつあるようです。
事業性融資に関しても、セーフティーネット融資や感染症対策緊急融資などの業務の影響を受けて審査の時間がかかっているだけで、不動産向けの融資は今まで通りとなっております。

つまり、手続きを行う上でタイムロスが発生しているだけであり、どちらも資金供給の引き締めはおこなわれていません。
が、新型コロナ第2波、第3波によって景気悪化が拡大すれば、企業の業績悪化や倒産などが発生することも考えられます。
それに伴って金融機関側にも資金の余裕がなくなれば、融資の引き締めが発生する可能性もゼロではないといえるでしょう。




■不動産投資及び住宅ローンの金利状況
ローンの金利は、一般的に短期プライムレートを基準にしています。
そもそも短期プライムレートとは、各金融機関が融資をする上で特に問題ないと判断する優良企業に向け、1年以内の期間(短期)で貸し出す際に適用される「最優遇貸出金利(プライムレート)」のことです。

世界各国では経済悪化の状況を鑑みて利下げに踏み切る金融施策を取っていますが、日本ではコロナ過以前からすでに低水準金利を維持していることから、現在でも短期プライムレートにほとんど変動がみられません。
逆にこれ以上の利下げは困難であるとも見られ、引き続きこの状態で推移していくことが考えられます。



3. 影響は限定的ながら注視を


現時点では不動産市況には大きな下落はなく、限定的ではあります。
日経平均株価の変動はありましたがすでに回復していることから、このままの状況が続く限りは急激な変化が見られる可能性は高くないと見ても良いかもしれません。

しかしコロナ過による景気への影響は、おそらく今後も続くでしょう。現時点ではまだ数字に出ていないものが、急激に表れることもあるかもしれませんし、何かしらの原因で経済の急激な冷え込みが訪れるかもしれません。
先行きが不透明な時代に突入していることを留意し、今後の景気動向を注視しておきましょう。

小雪