大切な資産である不動産を守るため、火災保険は不動産投資家にとっても必要不可欠なものです。特に、近年は台風や豪雨といった自然災害も増加傾向にあり、さらにその必要性が高まっています。

その火災保険が、2022年10月に大幅に改定されました。すでに不動産を所有している方はもちろん、これから不動産を購入しようと計画している方にも大きな影響を与えるでしょう。
そこで今回は、今回改定によってどこが変更され、不動産投資にどのような影響があるのかを見ていきます。



目次
1. 改定による大きな変更点
2. 不動産投資への影響はあるのか
3. まとめ

1. 改定による大きな変更点


昨年10月の改定によって、4つが変更されています。
まずはそれぞれを確認してみましょう。


■火災保険料の引き上げ
損額保険各社でつくる「損害保険料率算出機構」は、2021年6月16日に「参考純率」を全国平均で10.9%上げることを発表しました。参考純率とは、損害保険会社が保険料率を算定する際の目安となるもので、これを基に算出した新保険料が昨年10月以降の新規契約の火災保険料に適用されています。

●参考純率=保険料ではない
参考純率が10.9%上げられるからと言って、そのまま「支払う保険料が10.9%値上がりする」というわけではありません。あくまでも参考純率は“参考値”であるため、そのまま保険料率として採用することも、各損害保険会社の保険商品に応じて修正することもできたりと、反映も各社の判断に委ねられています。
正確に言えば、「保険料を設定する参考値が10.9%引き上げられたことによって、各損害保険会社もそれぞれ値上げをする可能性がある」ということ。実際、2022年10月以降の火災保険料の値上げが実行されています。

また、10.9%という数字は「全国平均」であり、都道府県、築年数、構造、補償内容など全契約条件によって差が出る点には注意が必要です。建物があるエリアや構造によっては参考純率が引き下げられている可能性もあるでしょう。しかしその一方で、自然災害の被害を受けやすい築古の木造住宅、築年数の経過によって漏水のような事故が発生しやすい築30年以上のRC造マンションなどは、保険料を大幅に上げている保険会社も多くなっています。




■最長契約期間を最長5年へ短縮
昨年の改定では、参考純率の適用期間を従来の最長10年から短縮し、「最長5年」へと短縮されました。それに伴って、各保険会社の保険期間も最長5年に短縮されています。
保険期間の短縮で考えられる影響は、改定後の保険料を早期に契約に反映しやすくなることが挙げられます。また、長期契約であるほうが保険料は割安になるため、最長期間の短縮で支払総額も高くなるでしょう。

これまで10年分の保険料を一括納付で割引の適用を受けていたのであれば、値上げそのものよりもこの短縮のほうが運用に影響を与えるかもしれません。


■保険金の後払い
同時に保険金の支払い方法も見直され、「後払い」方式へと移行されました。

従来は損害金額が確認できる見積書に基づき、速やかな保険金の支払いが行われていました。
しかしこの制度を利用して、自然災害に便乗した不正請求が増加。損害が発生したと見せかけて保険金を受け取り、実際には復旧工事に充てず他の購入費にするなど、不正に請求する事例が増えていたのです。
これが火災保険の収支悪化原因のひとつでもあり、これに歯止めをかけるために改定後は「原則復旧工事完了後に、工事代金支払いを確認してからの後払い」になりました。

つまり改定後、復旧工事にかかる費用は自己資金で立て替える必要があるのです。
それが難しい場合は、復旧工事を行う旨を記した“確約書”を提出することで、事前の保険金受取が出来る可能性もあります。


■自己負担額の引き上げ
さらに、水漏れ、破損、汚損についても、自己負担額の引き上げが実施されました。
従来は最低免責金額を「0円」にすることも可能でしたが、改定後の最低免責金額は3~5万円となっています。

なお引き上げ対象とされているのは「日常生活で生じた不測の損害」であり、火災や台風による被害は対象外です。しかし水濡れや破損、汚損などは発生頻度が高いため、契約者の負担が増すことは否定できません。




2. 不動産投資への影響はあるのか


保険料が値上がり続ける主な理由はいくつかあるものの、やはり自然災害による保険金支払額の増加です。
近年は特に自然災害が多発しており、損害保険会社が取り扱う保険会社の収支は悪化傾向にあります。2011年が1764億円だったのに対し、2019年は1兆720億円と10倍に近く、このまま悪化が続けば火災保険そのものが成り立たなくなる可能性もあるのが現状です。

しかし、不動産オーナーにとっても厳しいことには変わりません。
引き上げの影響を10年契約によって回避できたものが今回の短縮で不可能となり、今度さらに引き上げられる可能性も高くなっています。特に多くの築古物件を所有するオーナーは大きなダメージを受けることになるでしょう。


3.まとめ


自然災害で被害を受けるのは人や建物だけではなく、保険会社にもダメージを与えています。近年は発生災害数も多く、内容も甚大なものになっているため、火災保険料の値上がりが続くのは当然のことなのかもしれません。

火災保険の加入は必須ではないものの、今後も大規模な自然災害のリスクからは逃れることはできないものですので、安心のためにもぜひ加入しておきたいものです。しかし、その増額した保険料によって経営が悪化してしまっては元も子もありません。今後はさらに値上がりすることも想定に入れつつ、補償内容の見直しをすることをおすすめします。

小雪